文具のデザイン


文具について、あらためて考えはじめたら、いろいろと面白いことに気がついた。

まず不思議に思ったのが、文具が「仕事のための道具」とされていること。10年ぐらい、住まいや家具や日用品など暮らしのためのデザインの展覧会を300回ぐらい続けてきたが、その中で文具はほとんど登場することがなかった。そう、文具は仕事に便利な道具としてデザインされてきていて、「暮らしのための道具」としてデザインする視点がすっかり抜けおちているのだ。

最近では、仕事のしかたが多様化し、オフィスという場所に限定されない働き方が増えることで、文具が日常の暮らしの中で違和感なく馴染むことが必要とされはじめた。輸入された文具や高級な文具や趣味の文具ではなく、ごく普通の日本の暮らしのための文具が求められている。

一方で、文具は「勉強のための道具」ともされてきた。小学校にあがる頃からえんぴつやノートがあたえられ、文字を書くための道具となった。お絵描きや工作のための画材や工具とは区別され、文具は「創造的な道具」ではなくなった。もちろん、「遊ぶための道具」である玩具とも区別され、学校に持って行っても文句を言われない唯一の道具が文具になっていく。

一部の文具メーカーは、あの手この手でこどもの気をひきながらもぎりぎり文具に踏みとどまることで売上げを伸ばす。こうしてファンシー文具にたどりつく頃には、こどものための文具は、わけのわからない状態になった。唯一、親から文句を言われにくい文具を買う楽しみを見いだしたこどもたちは、大人になってからも、文具好きという名のもとに面白い文具を買いあさり続ける。

こうした背景の中で、つくし文具店の文具は、仕事や勉強に限らずに、大人が日常の暮らしの中で普通に使える文具をめざしている。地味ながら飽きがこない佇まいで、随所に使いやすい工夫がある。文具が身の回りにあることで、暮らしや仕事がもっと自由で創造的で遊びご心のあるものになることを願っている。                              


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