ソーシャルとデザインをつなげる

「ソーシャルデザイン」という言葉を聞いたことがありますか?

デザインを学んだことがなく社会を良くしたいと考える人たちが使っている「ソーシャルデザイン」と、デザインを学んで、デザインを実践してきた人たちが考える「ソーシャルデザイン」の違いに戸惑うことが多くなってきました。

ぼく自身は、美大でデザインを学び、卒業してから、暮らしを良くするためにデザインの力をもっと活かせるんじゃないかと考えて、ずっと仕事をしてきました。ソーシャルデザインなんていう言葉がなくても社会のためになるデザインを目指してきました。きっと多くのデザイナーが同じ想いで仕事をしていると思います。

会社員として働いていた時には、「会社の利益」と、「社会を良くすること」をどうやって両立したらいいか悩みながら仕事をしてきました。会社を辞めて独立してからは、自分がいいと感じられて、暮らしが豊かになるデザインを追求してきました。自分が育った地域に関わって活動するようになって、デザインの力をもっと地域に活かしたいと考えるようになりました。

そうした活動をしているうちに、世間では、「ソーシャル」という言葉がはやりだし、「ソーシャルベンチャー」や「ソーシャルビジネス」「ソーシャルイノベーション」という言葉とともに、「ソーシャルデザイン」という言葉も使われはじめました。

近代デザインの歴史を学んだことがある人なら知っていることですが、デザインはそもそも産業革命によって、「機械で大量に生産される粗悪品をなんとかしよう」「都市の過密な環境をなんとかしよう」「工場で働く労働者の人間疎外をなんとかしよう」という社会改良の試みと密接につながっています。

近代デザインの父と言われるウイリアムモリスの活動は、マルクスの社会主義に影響をうけ、自分たちの手によって美しい生活用品を生み出していました。それは、現在の言葉で言えば、暮らしを豊かにするためのソーシャルデザイナーそのものなのです。

デザイン教育の実践において、大きな存在であるドイツの「バウハウス」には、美術を応用して、自分たちが使う建物や日用品を、使いやすく美しいものにしていこうという理想がありました。日本の美術大学の多くが、この学校から少なからず影響を受けています。

こうしてはじまった近代デザインが、大量生産、大量消費、大量廃棄の時代になり、企業の利益のために活用されるようになりました。戦後は、アメリカの影響が強く、スタイリングによる売るためのデザインが一世を風靡することもありました。

工業デザイナー、商業デザイナーが、デザインの主流となり、ビジネスと結びついたデザインが進んでいくうちに、分業化、専門化され、暮らしや社会を良くするためのデザインという意味合いが薄らぎ、金儲けのための狭い範囲のデザインがウイルスのように広がっていきました。

従順なデザイナーたちは、企業に雇われサラリーマンとして、目の前の売り上げをあげるための仕事をこなし、フリーだとしてもクライアントの意向が強い理不尽な状況の中で、我慢しながら仕事をしているうちに、本来的なデザインの目的を見失っていきました。

1970年代は、地球環境の危機が叫ばれ、物質の豊かさ疑問を呈するようなデザインも提案されましたが、1980年代の高度成長期では、独創的で奇抜なデザインがもてはやされ、差別化の道具としてデザインの力が使われました。

1990年代にバブル経済がはじけてからは、生活を見直す気運が生まれ、エコデザインやユニバーサルデザインが浸透してきましたが、2000年前後になると一般の人に向けたデザインブームが訪れます。デザイナーズマンションやデザイン家電という怪しげな言葉もこの時期に生まれています。

こうして、デザインの本来的な目的が見失われる中で、「自分たちは、このまま商業的なデザインを続けていていいのか、もっと社会のために役に立つデザインに取り組む必要があるのでは?」というデザイナーたちの疑問が広がっていきます。

一方で、従来のデザイナーではない人たちが、社会を変えるためには、仕組みをデザインすることが必要なんではないかと、本来のデザインという言葉を拡大解釈して、「社会をデザインする」という意味合いで「ソーシャルデザイン」という言葉を使いはじめます。これは、「キャリアデザイン」とか、「政治をデザインする」という時の「デザイン」という言葉と同じニュアンスだと感じています。

「デザインの力を使って、社会を良くしたい」と考えるデザイナーと、「社会をよくするための仕組みをデザインしたい」と考える社会起業家との溝をどうやって埋めていけばいいのか。ふたつのスタンスがうまく共存して、お互いの力を融合できた時、はじめて「ソーシャル」と「デザイン」がひとつになり、本当の意味での「ソーシャルでザイン」が生まれるのだと思います。

社会をより良い方向に導き、より良い暮らしを実現するためにも、それぞれが目指していること、それぞれが考えていること、それぞれのスキルを持ち寄って、先に進んでいけるとうれしいです。

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