合法ストアによる海賊版コンテンツの販売

「上流」と「下流」という言葉をご存知でしょうか?

川の話ではありません。
電子書籍における「上流」と「下流」です。

最も上流は「作家」、次に「出版社」、その次が「取次」、最下流は電子書籍ストアです。
「作家」=「著作権者」を頂点に、作家から作品の管理を委託された出版社がいて、電子書籍ストアと作品と繋ぐ取次がいて、最後にストアがあります。

出版社と取次の2者は中間業者です。
彼らは中間業者なので、作家とストアが直接契約している場合はそもそも存在の必要がありません。
しかし、ストアと直接契約している作家ばかりではありませんので、間に出版社と取次が挟まっている場合もあれば、出版社は挟まず取次だけが挟まっている場合もあります。
そして、挟まっている取次は1つとは限りません。
細かい事情は省きますが、3つ、4つと挟まっていることも日常的にあります。
「作家→出版社→取次A→取次B→取次C→電子書籍ストア」(上流→下流)という関係性が成り立ちます。

さて、本題です。
この流れの中にいる誰かが不正を働いた時、責任は誰が取るのでしょうか?
世間では海賊版サイトの影響に関心が集まっていますが、実はそれよりももっと深刻な問題があります。
「合法ストアによる海賊版コンテンツの販売」です。


数ヶ月前、あるベテラン作家Aさんからこんな話を聞きました。

「今使っている取次から電子書籍のロイヤリティの支払いが遅れているんだよ。売り上げ報告もないし、昨年の秋から支払いもない。電話も繋がらないし、メールをしてもなかなか返信がないんだ」

Aさんは出版社を挟まず、ある取次と契約して国内電子書籍ストアで作品を販売していました。
どうも今使っている取次が信用ならないので、僕の所に乗り換えたいとおっしゃっています。
僕の会社は「電書バト」という電子書籍取次サービスを運営しています。
実は僕も「取次」という中間業者の1人なのです。

僕がAさんの作品を取り次ぐには、現在契約している取次と契約を解除する必要がありました。
しかし、契約期間というものが定められていて、期間満了までは一方的に解除はできません。
例外として、相手方に契約上の重大な背信行為があった場合は即時契約を解除できます。
支払いがなく、売上報告もなく、連絡も満足に取れないというのは「重大な背信行為」に該当するので即時契約解除可能でした。

解除するということは、ストアで配信中の作品の販売を停止するということになりますが、そもそも支払いがないような取次なので、解除と同時に全てのストアで配信が停止されるかどうか信用できません。
その前に報告がないわけですから、どのストアで配信されているかすらわかりません。

ということで、僕の手で国内電子書籍ストア、アプリ約70カ所の作品配信状況を調べてリスト化してみました。
ちなみに調査費用はもらっていません。
ストア1つ1つにアクセスし、作家名で検索をかけ、レーベル名を特定します。

…すると出てくる、出てくる。

Aさんが聞かされていたのは10ストア程度の配信ですが、実際には35カ所程で作品が配信されていました。
35ストア−10ストア=25ストア分のロイヤリティは当然支払われていません。
もはや刑事事件です。
詐欺や横領の部類です。

Aさんは契約している取次にリストを突きつけ、正確な報告と支払い、作品データの返却と破棄、契約解除を要求しました。
さすがにマズイと思ったのか、それまでなかなか連絡の取れなかった取次から連絡がありました。

「自分はストアと直接契約関係があるわけではない。
ひとつ下流の取次に作品を流すだけで、その先がどうなっているのか関知していない。
現在、下流の取次に問い合わせているところだ。
ただ、迷惑をかけたことは事実なので、配信は停止し、契約解除に応じる。
作品データも返す。」

ざっくりとそんな内容でした。
配信が停止され、データも戻ってくるということで、そこは良かったのですが、結局、本来支払うべきロイヤリティをいくら抜いていたのかははっきりしません。
下流の取次が勝手にやったことであって、お金も受け取っていない、むしろ自分も被害者だと。

Aさんが食い下がると、やがてロイヤリティ報告書が出てきました。
しかし、数字が明らかに不自然です。
あり得ないレベルの低い数字が記載されています。
さらに細かく見ていくと、決定的な偽造の痕跡がありました。

1つ下流の取次はどこなのか?と調べてみると、以前、別の不正配信事件に関わっていた業者でした。
彼らに問い合わせても、「直接契約している取次に問い合わせてくれ」と言われるだけでしょう。
その下流にはさらにいくつかの取次が挟まっているようです。
ストアはストアで、「直接契約のある取次からデータを受け取っただけで、その上流がどうなっているかは知らない」などと言っています。

これが僕の知っている電子書籍業界の日常です。
似たような事例がいくつも周りに転がっています。
海賊版サイトどころか善良な市民を装った海賊が隣にいるのです。
出版社に任せていれば安心という話でもありません。
最も簡単な解決策は、作家による「予防」と「早期発見」です。

この件で僕がしたことは、「国内電子書籍ストア、アプリ約70カ所の作品配信状況を調べてリスト化」することだけです。
「まさか自分が騙されているわけがない」と思っている作家のみなさん、ぜひ調べてみてください。

…と言っても、報告書を見ないし調べないのが作家なのですが。

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佐藤秀峰

マガジン2

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