週刊作家の1週間

漫画家の労働問題。「僕が週刊連載をしていた頃はどんな感じだったっけ?」と振り返ってみました。20代後半の頃の「とある1週間の出来事」です。記憶を頼りに書き起こしたので正確じゃない部分や、エピソードが寄せ集めになっている部分もあるかと思いますが、大体こんな感じでしたかね?


1日目

1:00 編集者へ原稿引き渡し&打ち合わせ(前日23:30原稿完成→スタッフ退社後)
担当編集者2名(社員編集者と編プロ編集者)

打ち合わせ内容

・次回締め切りは5日後の23時59分59秒(ゴールデンウィークだったか年末進行か何かのため早目)

・急な締め切りの変更に「5日で原稿を仕上げることは不可能」と訴えるが、「原稿を落としたら雑誌が白紙のまま書店に並ぶことになる」と脅される

・2枚看板のシマコーと同時掲載したいので絶対原稿は落とせない

・「原稿を落としたら契約違反」と脅される

・連載契約を結んだ事実はない

・巻頭カラー4P、カラー原稿は3日後に入稿

・「カラーは物理的に無理」と主張するが、「決定事項。原稿を落としたら雑誌が白紙のまま書店に並ぶことになる」と脅される

・カラー入稿が3日目でモノクロページ締め切りは5日目。通常、カラー入稿はモノクロ入稿の2日前では間に合わない気がする

・モノクロ入稿の締め切りが5日後というのは嘘ではないかという疑念が湧く

・編集者の考えたストーリー案を聞かされる

・編集者の案はセンスがない→役に立たない。むしろ頭にノイズが残るので邪魔

・ムダなのでやめて欲しいとそれまで何度も頼んできたがやめてくれない。(後に「ストーリーは全部俺が考えている」と吹聴していることを知る)

・それより資料集めと取材をしてきてほしい。

3:00 就寝

6:00 起床→ネーム執筆開始

7:00 数日間まともに寝ていないので頭がボーッとして何も思い浮かばない。毎度無意味な打ち合わせで僕の睡眠時間を減らす編集者に怒りが湧く

8:00 何も思いつかない
シマコーと同時に作品を掲載したいのは雑誌の都合。雑誌の都合で締め切りが早まることに怒りが湧く

9:00 何も思いつかない
作家1人の能力に頼る週刊連載というシステムは破綻している
破綻したシステムに怒りが湧く

10:00 何も思いつかない
自暴自棄になる
編集部を爆破しようと考える

12:00 物語が降りてくる

18:00 ネーム初稿完成(↑は完成原稿ね)
編集部に電話
担当編集者2名とも留守
食事に出かけているそう
1時間以内に戻るとのこと
ネームをFAXし、1時間待つことに
作画スタッフに電話連絡→明後日11:00より作画業務を開始することを伝達(スタッフの勤務時間は11:00~23:00)

19:00 編集者から連絡無し

20:00 編集者から連絡無し

21:00 編集者から連絡無し
途中で何度か編集部に電話をしたが、ずっと留守
食事に出かける

22:30 事務所に戻る

22:35 編集者から電話
「なぜ待機していないんだ?携帯を持て」と怒られる
声が酔っている
24時まで説教とネームのダメ出し


2日目

4:00 ネーム第2稿完成
編集部にFAX
編集者は退社済み

4:30 就寝

8:00 起床
執筆手順を考える

・在籍している作画スタッフは4名

・通常の執筆手順は以下の通り
「僕が原稿にコマを割り構図を決定、人物(キャラクター)を下描き、ペン入れ→人物ペン入れ後の原稿に、スタッフが構図に沿って背景を作画」

・締め切りまで4日間

・1話のページ数は20枚

・僕の人物作画能力は24時間で8枚が限界

・人物執筆に必要な時間→60時間

・明日から背景作画を開始するので、スタッフの作画期間は3日間(1日12時間×3日=36時間)

・人物の顔のアップのページなどもあるので、実質的には背景があるのは17枚程度

・1人1日2枚は描いてもらうとして、1日2枚×4名=8枚→17枚÷1日8枚=2.1日で背景が入る

・0.9日でトーンなどの仕上げ作業をやれば締め切りに間に合う

・つまり、「明日スタッフが出社するまでにスタッフの仕事(背景画が必要な原稿)を8枚分用意しておくこと」が僕のノルマ

・一方、カラー原稿4枚の締め切りは明日中

・カラー原稿は背景作画はスタッフが担当。彩色は僕の担当

・カラー4枚の内訳
1P目 やや面倒な背景画がある
2~3P目 人物のドアップが4人分連続した見開きの扉絵→背景画を入れる必要がない
4P目 難易度「中」の背景画がある

・2~3P目が背景なしの見開きなので、今日、カラー原稿の執筆を優先するとスタッフの仕事を6枚分しか用意できないことになる

・「1P目、4P目を先に執筆→2~3P目は後回し→5P目~10P目を明日11:00までに執筆→その後、2~3P目を執筆→カラー原稿の彩色」と方針決定

8:30 編集者から連絡はないが、原稿を描き始める

15:00 編集者から電話
第2稿へのダメ出し
編集者の会話はセンスがない
無視して執筆継続


3日目

8:00 徹夜
1P目、4P目、5~10P目の8枚執筆済み
人物作画 残り12枚

9:00 駅前に資料写真の撮影で出かける
当時はまだフィルム
ダッシュで撮影→45分プリントで現像→ダッシュで事務所へ戻る

11:00 スタッフ出社
4名分8枚の背景作画を指定

12:00 2~3P目扉絵執筆

15:00 扉絵執筆完了
人物作画 残り10枚
カラー彩色開始

19:00 2~3P目扉絵カラー彩色完了
スタッフによる1P目、4P目の背景画も完成
引き続き1P目の彩色に着手
カラー入稿締め切りまで5時間

20:00 編集者から進行確認の電話
扉絵見開きが完成し、カラー残り2枚を執筆中と伝達
「原稿を落としたら雑誌が白紙のまま書店に並ぶことになる」と脅される
会話にセンスがない

22:00 1P目の彩色完成
引き続き4P目の彩色開始

23:00 スタッフ退社
背景画が完成した原稿は、1P目、4P目を含め4枚
次の1枚をそれぞれのスタッフ(×4)が描きかけの状態
当初の完成予定は8枚
予定が狂う
背景無しページは1枚
描きかけを含め背景は残り13枚
編集者から進行確認の電話
「あと2~3時間かかる」と伝える
脅される
会話にセンスがない


4日目

0:00 編集者から進行確認の電話
脅される
会話にセンスがない

1:00編集者から進行確認の電話
脅される
会話にセンスがない

1:30編集者から進行確認の電話
「30分くらいで完成する」と伝える

1:45 バイク便到着
まだ完成していないので待たせる

2:00 カラー原稿4枚が完成
バイク便が原稿を持ち去る
カラー4枚の入稿を終え、手元にある原稿は16枚

3:00 編集者から原稿受領の電話
「製版所が営業を開始次第、朝イチで入稿する」とのこと
じゃあ、朝まで締め切りを延ばせたってことじゃん

8:00 人物2枚執筆
これで人物は20枚中12枚執筆済み
人物残り8枚
48時間ぶっ通しで仕事をしているので眠い
1時間だけ寝ることにする

10:00 寝過ごす
2時間も寝てしまう
すぐに人物作画開始

11:00 スタッフ出社
1人は寝坊で30分遅刻

22:00 編集者から電話
明日の18:00までに原稿が欲しいそう
当初の予定より締め切りが6時間短くなることに

23:00 スタッフ退社
背景の進行具合はやはり遅れ気味
描きかけを含め背景は20枚中残り9枚
人物は10:00時点から5枚執筆
20枚中残り3枚
締め切りまで19時間


5日目

8:00 徹夜
人物作画20枚完成
18:00の締め切りまで10時間
引き続き背景画を描き始める

11:00 背景1枚執筆
背景残り8枚
スタッフ出社

12:00 編集者から電話
進行状況を伝達
説教
「時間内に仕上げる人をプロと呼ぶのだ。ここで仕上げられなかったらプロではない」
プロじゃなくていいです
会話にセンスがない

13:00 編集者から電話
進行状況を伝達
センスがない

14:00 編集者から電話
進行状況を伝達
センスがない

15:00 編集者から電話
進行状況を伝達
センスがない

16:00 編集者から電話
「印刷所に掛け合って、締め切りを3時間伸ばすことができた」とのこと
つまり、21:00締め切り
最初からやれよ

17:00 背景残り4枚
編集者から電話
センスがない

18:00 編集者から電話
「折の関係で先に後半4ページの原稿が欲しい」とのこと
先に言えよ
後半4枚(17~20P目)はまだ背景が完成していない
完成に後4時間はかかりそう
どちらにしてもまだ仕上げ作業が手付かずなので、21:00までに原稿を完成させることは不可能
事実を編集者に伝達

18:30 編集者から電話
「印刷所に掛け合って、24:00まで締め切りを延ばすことができた」とのこと
最初に言ってた締め切りの時間じゃん
6時間早めたのはなんだったんだ?
だが、24:00締め切りでも無理

19:00 編集者から電話
だから何回電話しても同じだっての
センスがない

20:00 編集者から電話
脅される

21:00 編集者から電話
センスがない

22:00 背景20枚分完成
編集者から電話
これから仕上げを始めるので、後半4枚(17~20P目)の完成は24:00を回ることを伝える
仮に24:00までに4枚を仕上げたとして、すでに入稿したカラーと合わせて、完成済みは8枚
20枚中残り12枚の原稿を仕上げるのに6時間はかかる

22:15 編集者から電話
「製版所に掛け合って最終の締め切りを朝6:00まで延ばせた。後半4枚も6:00でいい」とのこと
当初から感じていた「モノクロ入稿の締め切りが5日後というのは嘘ではないかという疑念」が再び湧く

23:00 スタッフ終業時間

編集者の言葉を信じるなら、スタッフに土下座して残業お願いすべき
が、スタッフを退社させる

眠い
ここまで5日間で合計8.5時間しか寝ていない

23:30 おそらく編集者から電話
無視

23:45 おそらく編集者から電話
無視

23:55 おそらく編集者から電話
無視

24:00 おそらく編集者から電話
無視
電話のコードを引き抜いて自宅(同じマンションの4階)に戻り就寝


6日目

6:00 起床 事務所(同じマンションの1階)に出社
電話のコードをつなぐ

6:05 編集者から電話
後半4枚ができたらこっちから電話するって言ってんだろ
センスがない

6:30 後半4枚の仕上げ開始

7:00 おそらく編集者から電話
無視

7:15 おそらく編集者から電話
無視

7:30 おそらく編集者から電話
無視

7:45 おそらく編集者から電話
無視

8:00 おそらく編集者から電話
無視

8:15 おそらく編集者から電話
無視

8:30 おそらく編集者から電話
無視

8:45 おそらく編集者から電話
無視

9:00 おそらく編集者から電話
無視

9:15 おそらく編集者から電話
無視

9:30 おそらく編集者から電話
無視

9:45 おそらく編集者から電話
無視

10:00 おそらく編集者から電話
無視

10:15 おそらく編集者から電話
無視

10:30 後半4枚完成
編集者に電話

10:35 編集者が事務所にやってくる
事務所周辺に張り込んでいた様子
玄関で原稿を渡す
部屋には入れない
これ以上、僕のテリトリーを侵略されたくない
最終の締め切りは「製版所に掛け合って18:00まで延ばした」とのこと

10:45 タクシーに乗り編集者が去る

11:00 スタッフ出社

12:00 編集者から電話
学習能力がない

13:00 編集者から電話

14:00 編集者から電話

15:00 編集者から電話
「後2時間くらいで完成する」と伝える

16:00 編集長、副編集長、担当編集者2名がやって来る
完成している原稿からその場で写植を貼り始める
僕の事務所のコピー機でコピーを取って編集長、副編集長らに回覧する
名前は忘れたけど、緊急時の「何とか校正」というヤツらしい

どうせ、これも演技

本当の締め切りはもっと先

17:00 原稿完成
編プロ編集者が原稿を持ってタクシーで製版所へ向かう
編集長、副編集長もタクシーで去る
社員編集者は残って、引き続き打ち合わせ
スタッフは駅前の居酒屋へ
後で合流することを約束し、僕は打ち合わせ
また意味のないストーリー案と嘘っぽいスケジュールを聞かされる

18:30 駅前で飲んでいるスタッフと合流

21:00 解散
スタッフに二次会の費用を渡す(4名8万円)

「風俗に行く」と張り切っているが、それは経費で計上できないので勘弁してほしい

が、お金を使うヒマもないので、スタッフが喜ぶならそれでいいか


22:00 就寝


7日目

8:00 起床
今週は6日で1本描いたので1日休み
が、何をしていいか分からない

9:00 ネームを描き始める


多分、こんな感じでした。そりゃ、ハゲるわ!



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佐藤秀峰

コメント1件

まさに激務ですね。私もプログラマ時代(クライアントは「SE」と呼んでました)は、似たような経験をしました。

無駄に電話をチマチマかけてくるたびに「頭脳労働を理解してないだろ?!」って思っていましたね。考えが飛ぶだろ!と。。。
(もちろん怒りも増幅)←頭が働かなかなる要因となる

締切もおなじく、当初からドンドン延びました。
無駄に短くすんな、品質落ちるだろ!と。。。
(こちらは怒りよりも、ヤル気が削がれてゆきました・・・)←やはり頭が働かなくなる要因

本を書かせていただいたときは、編集長さんがとても良い人で、こちらのペースを尊重してくださいました。適度なプレッシャーをかけつつですが。(笑)

“有るもの(目に見えるモノ)に文句をつけるのは簡単”なんですよねー。
ま、お互い様なのかもしれませんが、、、

ただ、こういった怒りが作品に活かされていた部分もあったりして?とか思えて、失礼ながらに笑いながら読ませていただきました。

どうかご無理なされませんよう。。。
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