釣りをしていて考えたこと

なぜ世界は初心者に優しくないのでしょうか?

昨年末、思い立って「釣り」を始めてみました。これまで「趣味は何ですか?」と質問されても、「何ですかねぇ…?」としか答えられなかった僕ですが、何か趣味と呼べるものが欲しくなりまして。で、今住んでいる家は海が近いので、とりあえず「釣り」。

ところが、いざ始めてみようと思っても、何をすれば良いのかまったく見当がつきません。ひとまず書店で「釣り入門」と書かれた本を買い、パラパラと読んでみました。魚の種類は覚えきれないほどあって、使う仕掛けも魚ごとに違うようです。同じ魚でも堤防から釣るのか、海岸から釣るのか、船から釣るのかで方法が違うようです。釣れる時期も魚によって違うようだし、専門用語もいっぱいです。

正直、何がなんだかわかりません。

本を放り出し、近所の釣具店に行き「初心者でも釣りやすい魚と仕掛けは何ですか?」と質問してみました。すると、お店の人に「何やりたいの?投げ釣り?サビキ?」と訊き返され、よくわからないので「サビキ」と答えました。「サビキ」と呼ばれる仕掛けと1800円の竿とリールのセット、「アミサビキ」というエサを勧められ、言われた通りにレジに持っていくと、「バケツは?」と訊かれ、「ありません」と答えると「バケツも無しでやる気なの?」とぶっきら棒に言われました。バケツを持っていくと、「堤防から海面まで距離があるけど、そのバケツで水を汲めるの?ロープ付きのバケツじゃなくて」と。ロープ付きのバケツを手に再びレジに向かい、「他に必要なものはありますか?例えば、ハサミとかあったほうが…」と言いかけた所で、「ハサミ無しでやる気?」との答え。まったくの初心者で、道具は一つも持っていないことは、最初に伝えていたはずなのですが…。

それでも何とか道具を揃えて堤防へ向かい、釣り糸を垂らしてみました。サビキとは、回遊してくるイワシやアジなどの小魚を釣るための仕掛けのようです。周囲には7~8名の釣り人がいましたが、僕と似たような仕掛けを使っている人はいないようです。みなさん、何やら大げさな仕掛けを投げています。時々、誰かが魚を釣り上げると、集まっては専門用語らしき言葉を操っています。

しばらくやってみましたが、何も釣れませんでした。

別の日に釣具屋さんへ行き、今度は「投げ釣りをしてみたいんですけど」と言ってみました。2300円の竿とリールのセットを勧められ、「ジェット天秤」と書かれた仕掛けと「アオイソメ」というエサの虫も買いました。「チョイ投げ」という釣り方らしいです。が、堤防に行くと、やはり、僕と同じ仕掛けを使っている人はいません。それでも竿を振ると、1投目でいきなり海底に針が引っかかってしまいました。外そうとリールを巻いていると、あっさり糸が切れてしまいました。予備の仕掛けに交換して再びチャレンジ。が、また根掛かり。2投で2つ仕掛けを失い、トボトボと帰路に着きました。

家に帰って本を開くと、「チョイ投げ」は海底が砂地の所でするそうです。ネットで調べると、僕の行った堤防の海底は岩が点在していて海藻も多いようです。釣具屋さんには「◯◯の堤防に行きたい」って言ったんだけどなぁ…。

その後、何度か堤防に通い、サビキで小さな魚が釣れるようになってきました。

スズメダイ。


ヒイラギ。(干物にしました)

イワシも何匹か釣れました。でも、イマイチ孤独だし楽しくない…。何となく始めてみたものの、「僕が釣りでやってみたいことって何だろう?」と考えるようになっていました。

近所の釣具屋さんは、基本的に不親切。釣り人は仲間内で固まっている人や、一人で寡黙に過ごしている人、堤防の中で「師匠」と呼ばれている人がいたり、人間関係の序列もあるようです。仲間は欲しいような気もしますが、序列には組み込まれたくない気がします。でも、リアルな知識は欲しい。新入生としては、クラスの中でどのポジションを狙うか難しいところです。いや、そもそもこのクラスには馴染めないのかもしれません。向いてないのかも。敷居は低く、遊びは楽しく遊びたい。

エサは、アミエビは強烈に臭いし、アオイソメも臭い上にヌルヌルしてちょっと気持ち悪い。一度パックを開けたら使い切らないと、保存が面倒。他のエサもいろいろありますが、基本的に臭そうです。もうめげそう…。

僕はちょっと空いた時間に1時間だけ気軽に釣りがしたいのです。思い立ったときに一人で自由に行動したい。臭いのも嫌。船に乗って1日がかりでするような釣りは望んでいません。釣った魚は食べたい。魚を海に戻しても、どうしても弱ってしまうだろうから、その後の魚の一生は明るいものではないかもしれない。命を弄ぶだけになってしまうのは嫌だから、釣ったら食べたい。食べたところで殺生には変わりがないかもしれないけど。荷物が多いのは嫌。仕事が忙しいから、夜釣りになることが多そう。仕事帰りにちょっと出かけて、ちょっと釣って、ちょっと食べたい。近所で楽しく釣りたいのです。何せ趣味ですから。いや、でも趣味で生き物を殺していいのか?でも…。


ということで、本やネットの情報だけを頼りに、ルアー(疑似餌)をやってみることにしました。

ルアーで釣れる魚を調べていくと「シーバス(=スズキ)」というのが良さそうです。本には「ラインはPEが良い」とか「ダブルラインを組んで、リーダーを1~1.5m結ぶ」とかいろいろ書いてあるのですが、ほぼ意味がわかりません。ルアーもミノー、バイブレーション、メタルジグなど、いくつか種類があり、ミノー系でもフローティングタイプとシンキングタイプがあるとか意味不明。またしても本を放り出し、今度は自宅から車で15分の大きめの釣具屋さんに行きました。やっぱり完全独学は無理。

「初心者向けのシーバスセットが欲しい」と店員さんに言うと、一緒に道具を選んでくれました。近所の釣具屋さんよりは親切。ひとまずセットを揃えて、12月の河口堤防に立ちました。

何投かするもルアーが飛ばない…。2時間竿を振り続けて、ルアーを2本根掛かりで失いつつ、ようやく飛距離が出るようになってきました。まずはまっすぐ投げれるようにならなければ。

それからというもの、河口に通いルアーを投げる練習をしました。シーバスは1匹も釣れません。本には、12月は産卵の時期でオフシーズンと書いてあります。ネットを見ると、冬でも釣れると書いてあります。

寂しい…。しかも、夜中の海は芯から寒い。これは何の修行だ…?近所でシーバスが釣れるとされる場所や、効果があったとされるルアーをネットで調べまくります。そのルアーを購入し、ネットに書いてあった通りにやってみます。でも、釣れない。ルアーはすでに10本近く根掛かりで失っています。1本1000円以上。て言うか、ルアーで魚が釣れるのでしょうか?偽物のエサで魚が騙せるのでしょうか?

海には潮の満ち干きがあります。1日の間にほぼ2回転、満潮と干潮を繰り返し、その時間は毎日変化していきます。月の満ち欠けや気圧の変化で干満差が大きい日もあれば、小さい日もあります。1mくらいは簡単に水深が変化します。干潮時の河口は水深が浅すぎて釣りになりません。自然ってスゴイな…。夜空は星がキレイ。

日没前後や夜明け付近は「マズメ」と呼ばれて、魚がエサに食いつきやすい時間とされています。日の出や日没、潮や月の満ち欠けに従って、1日の行動が決定されます。1日仕事をしてから、夜中に車を走らせて釣りをし、また運転して事務所に戻って寝て…みたいな生活です。週末は自宅付近でひたすら釣り。お酒を飲む量は半分以下に減りました。

とにかく魚を釣りたいです。

シーバスにこだわるのはやめよう…。冬でもルアーで釣りやすい魚を調べると、「メバル」という魚がいることがわかりました。メバルの竿はシーバスよりかなり繊細なものを使うようです。ルアーでメバルを釣ることを「メバリング」と呼ぶらしいです。ルアーは「ワーム」と呼ばれるグニャグニャしたゴムみたいのを、オモリと針が一体になった「ジグヘッド」にセットすればいいみたいです。竿とリール、糸など釣り道具セットは「タックル」と呼ぶみたいです。

メバリングタックルを入手し、今度はメバルに挑戦です。しかし、釣れません。本には「夜間は堤防の常夜灯付近の暗がりなどに潜んでいて、泳いできた小魚に食いつく」と書いてありますが、ルアーでその動きを再現したつもりでも、まったく釣れません。多分、近所の堤防では釣れないのです。仕事帰りに自宅から車で30分の釣り場に出かけてみました。そこは「メチャメチャ釣れる」とネットに書いてありました。しかし、僕には釣れません。今度は車で45分の「爆釣ポイント」へ向かってみました。ワームの種類を変えたり、リールを巻く速度を工夫したり、いろいろとやってみましたが、やっぱり僕には釣れません。

会社のスタッフは、時々、僕宛に通販ショップから事務所に届く釣り道具を呆れたような目で眺めています。クリスマスイブの深夜も漁港に出かけました。ある時はテトラ帯で転んで、手首を捻挫しました。ああ、メバルはどこにいるのでしょう…?

そんなある日…、ついにメバルが釣れました。

12~13センチのチビッコです。が、嬉しい…。チビッコでしたが家に持ち帰り、スマホで捌き方を調べながら下処理しました。

しかし、その後が続きません。

釣れない…。

釣れない…!

大晦日はついに自宅から車で1時間離れた漁港に出かけました。

大晦日の夜ということで、さすがに港に人影はなく、一人で釣り糸を垂らしていると…来ました!

アイナメとメバル。

その後、港を一周して、さっき釣れた場所に戻ると暗闇の中に人影が…。「こんばんは」と挨拶すると、「メバル?」と言葉が返ってきました。僕の持っている道具を見ると、何を狙っているかわかるようです。「はい、メバルです、(あなたは)何を釣っていらっしゃるんですか?」と訊き返すと、「オレ?密漁…」「はあ、密漁ですか?」と近づくとバケツにびっしりとサザエが入っていました。

本当に密漁していたのかなぁ…?警察に連絡したほうがよかったのかなぁ…?堤防では時々、変な人に出会います。「釣り人に悪い人はいない」と言いますが、「家に居場所のない人が堤防に集まる」と聞いたこともあります。

その後もその堤防には何度か通いましたが、そこに行くと100%釣れます。釣れる時間に行くことも大事ですが、「このワームとジグヘッドだと釣れる」という組み合わせが自分の中でできてきたことも大きいです。


カサゴがいっぱい釣れたり、メジナやメバルが何匹も釣れました。


干物にしたり、煮付けにしたり、釣った魚はスーパーで買う魚よりもはるかに美味しいです。


カサゴのがいっぱい釣れたときは干物にして…


仕事中の夜ご飯として、事務所で焼いて食べています。


これは煮付けにしたっけな…?


カニや…


フグも釣れます。

「ルアーで魚を釣る」ということが、ようやく当たり前のことになり始めました。初心者に優しくなかったはずの世界の扉が、少しずつ開き始めているような感覚です。

再びシーバスにチャレンジしてみようという気持ちになり始め、最近はまたいろいろな河口に通っています。「ちょっと空いた時間に1時間だけ気軽に釣りがしたい。臭いのも嫌」と言っていたはずが、週に5回は釣りに出かけています。シーバスタックルを購入してから、多分、2ヶ月で40回以上は海に行きました。最初は魚の生臭さが苦手でしたが、今はむしろ良い匂いに感じます。毎週、釣った魚をさばいて食べるのが楽しみです。

先日は38センチのヒラメが釣れました。


シーバスはまだ釣れません。釣れたらどんな気持ちになるんだろう?

わからないことがたくさんあるのは楽しいことだな、と思います。僕は趣味を手に入れました。

もしもこれから「漫画を描いてみよう」と思っている人がいた時、僕たちは初心者に優しい世界を作れているでしょうか?もしも、その入り口が後少しだけ広かったら入って来れたかもしれない才能を、僕たちは潰していないでしょうか?

釣りをしながら、そんなことを考えました。


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