で、結局どうやったら漫画家になれるんスか? 2

「なぜ世界は初心者に優しくないのでしょうか?」

3年前に趣味で釣りを始めました。
以来、釣りについてたまにブログを書いています。
冒頭の言葉は、その初回第一声。

釣りをしていて考えたこと


釣り人は不親切な人も多いです。
初心者だとわかると小バカにしたり相手にしなかったりマウントしたり。
ブログの最後はこんな言葉で締めくくっています。

「もしもこれから『漫画を描いてみよう』と思っている人がいた時、僕たちは初心者に優しい世界を作れているでしょうか?もしも、その入り口が後少しだけ広かったら入って来れたかもしれない才能を、僕たちは潰していないでしょうか?」


例えば、大学の漫画学科は「初心者=学生」に親切です。
なぜなら、それがビジネスだからです。
学生を集めて授業料を払わせるのが仕事です。
ハードルは低く、入り口は広く設定しないと学生が集まりません。
もしも漫画家になれなくても、きっとこんな風に優しく諭してくれるでしょう。

「文学科の卒業生が全員小説家になるわけじゃないだろう?文学科卒で社会で活躍している人はいっぱいいるじゃないか。漫画家になれなくたって、大学で学んだことが無駄ということではないんだよ」

親切とはなんでしょうか?

初登山で雪山に登ろうといしてる人がいた時、「簡単だよ。誰でも登れるよ。やとりあえずやってみよう」と言う人と、「やめとけ。どうしても登りたいなら、雪が溶けてから低い山に登れ」と言う人で、どちらが親切でしょうか?

僕は後者です。

現在、漫画誌は約380誌あります。

日本の漫画雑誌

各誌とも20~40作くらいの漫画作品が掲載されています。
最近はアプリで連載するパターンも増えています。
comicoは完結済み作品を含めてオリジナルコンテンツが500弱、LINEマンガは50弱、スキマ80、ガンマは200、ジャンププラス、マンガワン、コミックDAYSなど出版社系も毎日20作品前後を更新しています。
そうしたアプリ、Webサイトは数十カ所あるのではないでしょぅか。
連載準備中、打ち合わせ中の作家は、連載作家の数倍います。
雑に見積もって、商業作家圏内にいる漫画家、志望者は数万人います。
もしかしたら10万人いるかもしれない。

ここ10年、紙単行本の新刊点数は年間1万2,000点強です。
週刊連載作品であれば、同じタイトルが1年で4巻出ますので、タイトル数は当然1万2,000点以下です。
とすると、漫画家の中でその年、紙単行本を出せるのは5~10人に1人くらい。


出版、漫画業界がいかに斜陽産業であるかは、僕が語るまでもありません。

出版市場、ピークの半分以下 18年約1兆2800億円台に

2018年の出版市場規模発表
紙+電子で3.2%減の1兆5,400億円、紙は5.7%減、電子は11.9%増


10年前、漫画の発表媒体はほぼ紙しかありませんでした。
現在はWebやアプリで発表ができるようになり、漫画家を名乗ることは簡単になりました。
一方、漫画専業で食えている作家は確実に減っています。
市場が縮小して、漫画家が増えているのだから当然です。
高い倍率を勝ち上ってようやく単行本を出せても、単行本600円、初版5000部で印税30万円。

暮らせません。

そう考えた時、出版社経由で作品を発表することが正解なのか、一度、立ち止まって考える必要があります。
漫画家になりたい人は、まず、自分が登ろうとしている山を知ってください。
出版社の作った登頂ルートをたどっても、山上にはたどり着けないかもしれない。
何だか道端には死体がゴロゴロ転がっている。
そもそも、その山は登る価値がないのかもしれない。


前回、ご覧いただいた「ある日のkindle売れ筋ランキング」です。
僕の「特攻の島」が5位に入ってます。
「施策が裏で走っています。どんな施策かは書きませんが、多分、調べれば分かりますよ」と書きましたが、実際に調べた方は何人いらっしゃるでしょうか。

少し種明かしをすると、「特攻の島」はこの時期、プライムリーディングに入っています。
Kindle Unlimited(月額会員読み放題サービス)に入っています。
5巻まで無料セールを行っています。


あるいは、2019年1月1日発売の「Stand by me 描クえもん」(僕の自主制作作品です)は、当時紙書籍は発売されておらず、電子書籍のみの発売でした。
自主制作作品なので、電子書籍を始め、作品の権利管理はすべて自社で行っています。
誰とも打ち合わせせず1人で勝手に描いてます。
デザイン周りは、お金をかけてプロに依頼しています。
紙版は4月にリイド社から出る予定です。
紙は二次利用コンテンツ。

電子書籍では発売と同時にシリーズ全2巻を2週間無料とするセールを行いました。
続いて、無料期間終了と同時に1巻だけ無料とするセールを1ヶ月行いました。
1巻無料セール開始2週間後の2月1日からKindle unlimitedに投入しました。
単行本版の他に1話単位で購入できる分冊版を配信し、単行本化されていない最新話を連載形式で追えるようにしました。
結果、Kindle売れ筋ランキングでは最大4位、1~2月の平均順位は50位前後でした。

繰り返しとなりますが、こうして自主的に施策を組めるのは、僕が作品を自己管理し、ストアや下流取次と直接契約しているからです。
数十社と交渉し、契約を交わしました。
大変なので、あまり他の人にはオススメしません。

ということで、その仕組みを自分以外の作家にも利用出来るようにしています。
電子書籍取次サービス「電書バト」と言います。
取次手数料は作家ロイヤリティの15%です。
多分、手数料は業界最安値じゃないでしょうか。
出版社は作家ロイヤリティの75%程度を取ることが一般的です。
おかげさまで好評を博しており、近年は取次が会社事業のメインとなりつつあります。
サービスをより強化していきたいと考えています。


電書バトの宣伝はさて置きまして、「ある日のkindle売れ筋ランキング」8位の「やれたかも委員会」は、弊社が取り次いでいます。

作者の吉田貴司さんは、実は弊社の元社員です。
電書バトのサービス立ち上げにも関わっている人物です。
電子書籍業界の仕組みや内情をよく知っているという優位性がありますが、正真正銘、知名度も実績もない状態(失礼)から、作品を完全自己管理し、大成功を収めています。

吉田貴司さんの過去のインタビューです。

「やれたかも委員会」ドラマ化記念キャンペーンのお知らせ&吉田貴司スペシャルインタビュー


インタビュアーは僕です。

「『これだけは譲らない』というものを4つ決めました。具体的には『タイトルは自分で決める』『打ち合わせはしない』『自分で作画する』『電子書籍は自分で管理する』ということです」

「作品に口出ししてくる編集者は多いし、お「金出してるから』という態度で高圧的に接してくる人も思っているより多い」

「生意気ですけど『書籍化したいと言ったのはそっちだから、本だけ出してくれ』というスタンスです」

「出版社は僕の企画に後から乗っかって来た人たちですから、電子書籍の権利を渡すのもおかしい。」

「読者に届けるために、本を出したり、連載するということが全然有効じゃなくなってきてる。」


言葉だけ取り出すと強面ですが、本人は怖い人ではありません。
先日は食事をご馳走になりました。
領収証も切らずに1万円くらい奢ってくれました。

で、お会いした際、こんなことを言っていました。

「誰も後に続いてくれないんです。
結局、Twitterでバズったら、出版社から声がかかって全員そっちに乗っちゃうんです。
もう2~3人、後に続いてくれてもいいと思うんですけど、本当に1人も後に続かないんですよ」

同人作家は元々、自己管理している人たちですから、「1人も後に続かない」は少し言葉が足りないかもしれませんが、商業作家を目指している人は、自主企画がバズって出版社から声がかかった瞬間、乗っかってしまいがちです。
「出版社から声がかかる=成功」と捉えているからです。
「出版社に認められてこそ一人前」という差別意識が作家側に根強くあるのでしょう。

だけど、それはせっかく自己管理していた物件が値上がりした瞬間に、ただ同然で手放す行為です。
出版社に言われるままに契約すると、電子出版権も二次利用権も全部取られてしまいます。
「自分で独自にTwitterで発表していた作品が、出版社の許可がないと公開できなくなる」なんて矛盾が起こり得ます。

そして、「出版社から声がかかる=成功」に見えてしまうのは、自己管理しても良いことがなかったからです。
自己管理と言っても、KDP(キンドルダイレクトパブリッシング)くらいしか電子書籍発表の場を知らず、販路の広げ方を知らなかったり、デザイン費用をかけるという発想がなく、自分で作ったいかにもみすぼらしいパッケージでセールも組まずに売ってたり、マネタイズに無頓着です。
売る努力をせずに売れるわけがありません。
結果、「良いことがなかった」という価値観になります。
「個人で売っても全然売れない」と思い込んでいるのは、単なる知識不足かもしれません。

また、つまらない作品は売れません。
自分の作品を疑ってみましょう。


以前の僕は、漫画や業界の仕組みに関する意見を、ブログやSNSでよく発信していました。
最近、そうしたことをあまり言わなくなったのは、興味がなくなったからでも、言いたいことがなくなったからでもありません。

「言っても無駄だろう」と思ってしまうからです。

漫画家、志望者は騙されたがっているように見えます。
ごく一部の成功例を見て、出版社を信じれば良いことがあると自分で自分をマインドコントロールしてしまう。
騙されたがっている人に「騙されるな」と言ったところで無駄なのかもしれません。

「どうぞお幸せに」と言うしかないのでしょうかね…?

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佐藤秀峰

で、結局どうやったら漫画家になれるんスか?

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コメント3件

結局、自分で決めるのは何だかんだ大変だから、人に決めてもらった方が何も考えなくてもいいからだと思います。
多くの人は、現状に不満を言いながらも、考えることから逃げてるんでしょうね。

ブラックな企業に勤めながら、他に行くところないし、現状が一番というマインドセットと一緒ですね。
「ネームバリューがないと個人でやっても売れない」
私も漫画家の先輩にそう言われました。
私は電書バトでお世話になってますが、商業で安い稿料と無いに等しい印税で描いていた頃よりずっと稼げていますし、編集者との無駄な打ち合わせ、無駄なリテイク、散々作品に口を出された挙句全く売れないという無念さからも解放されました。
電書バトがなかったら、今頃漫画を描くのをやめていたかもしれません。
星谷さん、お世話になっております。
ありがたいお言葉をいただき大変恐縮です。
微力ながら作家活動に貢献できましたら嬉しいです。
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