で、結局どうやったら漫画家になれるんスか?

どうすればいいんでしょうね?
2019年現在。

ある大学から、「そんなテーマで授業をして欲しい」と依頼を受けました。
学生の前で僕に何が話せるのだろうか考えました。

結論から言うと、その問いの答えを他人に求める人は漫画家に向いていません。
漫画家になるための方法は志望者の数だけあります。
答えは自分で見つけてください。

漫画家の定義とはなんでしょうか?

「漫画を描いて公に発表する人」を漫画家と考えると、漫画を描いてその収益で生活している人だけを、漫画家と呼ぶわけではありません。
商業作家、同人作家とも漫画家ですし、食えても食えなくても漫画を描いていれば漫画家です。
漫画家と名乗れば全員漫画家。
その中でも、いわゆる「商業作家」を狭義の漫画家とすると、現在考えられる「漫画家になるための一般的な選択肢」は大体、以下の通りではないでしょうか。

(1)出版社に持ち込み、編集者に気に入られるのを待つ

(2)出版社新人賞へ投稿し、受賞するのを待つ

(3)出版社やIT系企業の運営する投稿型漫画アプリ、漫画家と編集者をつなぐマッチングサイトなどへの投稿し、声がかかるのを待つ

(4)いわゆる同人活動を行い、編集者やIT系企業から声がかかるのを待つ

(5)SNSなどネット上で個人的に作品を発表し、話題になって編集者やIT系企業から声がかかるのを待つ

つまり、商業作家として成功を求める限り、パトロンに認められるのを待つターンが必要です。
このターンは、相手次第と言うか、運とか相性とか自分ではどうにもできない部分が大きく、不確定要素が非常に大きいです。
パトロンになれるのは、出版社などの企業、または高須医院長。
企業は営利団体であり、漫画の場合、企業は漫画を売ることで営利を上げます。

突き詰めると漫画にお金を払っているのは読者です。

パトロンは実は読者です。
企業は作家と読者をつなぐ中間業者に過ぎません。
読者から直接お金をもらえれば「中間業者に認めてもらうのを待つ」という不確定要素の高いターンは省略できるのではないでしょうか。
不必要な中間業者を極力省き、読者から直接お金をもらうことができるようになれば良いのです。
出版社に認めてもらおうと必死な志望者を見ると、なぜそんな非効率的なことに必死なのか不思議です。

さて、こんな声が聞こえてきます。

「そんなこと言っても自分でnoteとかやってますけど全然売れないですよ」
「まずは出版社に知名度を上げてもらってからじゃないと無名の新人じゃ誰にも相手にされませんって」
「だって、出版社で仕事をしたら原稿料や印税ももらえるし」

なるほど、なるほど。


「そんな事言っても自分でnoteとかやってますけど全然売れないですよ。」

→Pixiv Fanbox、ニコニコチャンネルなど投稿記事を販売できるサイト、定期課金型のファン支援サイトはほとんど成功例がありません。

noteもそれに近い立ち位置です。
無理をすれば電子書籍っぽいものを販売できなくもないが、ビューアーがなく、DRMもない。
投稿者自身が一定のペースで記事やコンテンツを提供し続けなくてはならず、継続が難しいです。
ユーザーの立場からは、どこで誰のどの作品を売っているのか一目で分からず、元々の作家、作品ファンでない限り購入が難しい。
電子書籍を売る場所としては適切とは言えません。
ブログ機能は優秀だと思いますが。

電子書籍が売れるのは、当たり前ですが電子書籍ストアです。
Kindle、Apple books、楽天kobo、Renta!、ピッコマ、ebookjapan、Booklive、まんが王国などなど。
ちょっと変わった取り組みとしてはボイジャーさんが面白いです。
主要なストアは国内約50箇所。
細々したストアを含めると数百はあるはずです。
各ストアではトップページに売れている作品が並び、ジャンルや作家名などで検索できます。
読者は欲しい作品に容易にたどり着けます。

漫画は売れる場所で売ればよいのではないでしょうか。

その場所がいずれ売れなくなった時は、捨てれば良いのだと思います。
紙が売れる時代は出版社や書店の世話になればいいし、電子の時代になれば彼らを捨てればいい。
著作権は漫画家が100%持っています。
コンテンツホルダーの最上位にいること、作品を自由に運用出来る立場にいることを自覚すべきでしょう。


「まずは出版社に知名度を上げてもらってからじゃないと無名の新人じゃ誰にも相手にされませんって」

→ある日のkindle売れ筋ランキングを見てみましょう。


上位20位の内、いわゆる3大出版社から出ている作品は8作品。
知名度意味無し。
僕の「特攻の島」が5位に入っていますね。


「だって、出版社で仕事をしたら原稿料や印税ももらえるし」

→こんな記事がありました。

商業漫画家になる意味ってある?

「・原稿料の単価が8000円の作家が32ページ描いてひと月に貰える原稿料約26万円×12ヵ月で312万円で、単行本が2冊出て、5000部ずつ刷ってもらえたら、印税は50万円=トータル362万円」

「・2000部売上げる同人作家が同じように12ヵ月毎月1冊同人誌を描いた場合、1年で得られる利益は87万×12ヵ月で1044万円」

「 つまり、同人作家が個人で2000部売って生活できる時代に「リテイク料なし、掲載白紙になったときの担保なし」なんて闇取引を相変わらずやってる時点で、ビジネスモデルとして破綻しています。泥船です。
 だから、僕たち累計発行部数が300~1000の同人作家は「もう少し頑張って専業同人で食えるようになろうか」「商業作家で頑張ってみようか」を迷うわけです。」
(Junichi Kubotani(窪谷純一) 「商業漫画家になる意味ってある?」より引用)


とのことです。
同人で300~1000部売れるレベルの作家になって、電子書籍を直販すれば十分食えるのではないでしょうか。

僕の会社は「電書バト」という電子書籍取次サービスを運営しています。
電子書籍のロイヤリティだけで生活できるレベルの作家さんが何人もいます。

先ほど、Kindle売れ筋ランキングを見てもらいましたが、なぜマイナー作品がランキング上位に来るのでしょうか?
ちゃんと理由があります。
各社ともストアの特性に合わせてセールの組み方を工夫したり、裏でいろいろな施策を行なっています。
大手は殿様商売が得意なのでこの結果。

僕もいろいろ仕掛けています。
「特攻の島」が5位に入っているのは、これも施策が裏で走っています。
どんな施策かは書きませんが、多分、調べれば分かりますよ。

って言っても、調べないんですけどね。
ほとんどの志望者は。

契約面では、出版社を介さずストアや下流取次と直接契約し、自社管理しているため、読者の支払ったお金が中抜きされずに届いています。
立場上、様々な出版社の電子出版契約書を見ていますが、作家が受け取るロイヤリティの計算式は、僕がストアと交わしている契約の4分の1以下でした。
読者が電子書籍に100円支払った場合、出版社経由だと10円以下しか作家に渡りません。
僕は100円中45円ほど受け取っています。

より良い条件の契約を結べるようストアと交渉し、さらに売れるセールを構築する。
ここでは明らかにできませんが、売り方に関しては常にいくつかの具体的なアイデアがあります。
それらを実践し、フィードバックを得た後、成功事例については取次作品についても同様の施策を行い、作家により多くのロイヤリティを戻せるようにしていくつもりです。

益々、自分にはできそうにないって?

僕は漫画家になってから今年で21年目を迎えます。
1日8時間、週5日=年間労働時間を2000時間程度とした場合、この21年間で何年分働いたことになるのだろう?と計算してみました。
ざっと50年分働いていました。

答えは自分で見つけましょう。
僕の答えは僕だけの答えです。
あなたには当てはまりません。

こんな話を学生の前でしたら、ヒンシュクを買いますかね?

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