Amazonを訴えてみた

こんにちは、佐藤漫画製作所の佐藤秀峰です。
「海猿」や「ブラックジャックによろしく」という漫画を描いていました。
現在は「特攻の島」と「Stand by me 描クえもん」を執筆中。
ピークを過ぎた漫画家です。

最近は紙の本が売れなくなってきたので、電子書籍の販売に力を入れています。
Web漫画雑誌を発行したり、出版社を介さずに電子書籍ストアと契約して著作を販売したり、電書バトというサービスを展開し、漫画家さんからお預かりした作品を電子書籍ストアで販売するお手伝い(=電子書籍取次)をしています。
いわゆる漫画家のイメージとはちょっと違う仕事もしています。
ここ数年、取次業務のボリュームが大きくなっており、漫画を描く時間がなかなか取れないのが悩みです。

さて、2017年1月16日、佐藤漫画製作所は通販大手アマゾン・サービシズ・インターナショナル(以下:アマゾン社)に対して、訴訟を提起しました。

アマゾン社が展開する「Kindle unlimited」という電子書籍定額読み放題サービスについて、ある日、同サービスに参加していた弊社および弊社取次コンテンツが、アマゾン社によって一方的に販売を停止されてしまったからです。
これは弊社に限られた事例ではなく、同時期、サービスに参加していた多くの出版社に同様の事態が発生しました。

電子書籍ユーザー=読者の立場から見れば、ある日、利用していた書店の本棚から大量の本がごっそり消えたことになります。
「毎月決まったお金を支払えば、ここに置いてある本は読み放題ですよ」と言われていたからこそ、お金を払ったのにです。
サービスの信頼性が著しく損なわれたことはもちろんですが、業界最大手であるアマゾン社が行なったこととして電子書籍全体のイメージが大きく悪化しました。

この出来事によって弊社を含め各作家、出版社が大きな損害を被ったことはもちろんですが、最も大きな損害を与えられたのは読者の皆さんです。
読者の信頼を回復するために自分にできることは何だろうか?
そう考えた時、僕は「訴訟」という選択をしました。

僕が営んでいるのは一漫画家が代表を務める小さな会社です。
アマゾンという巨人に簡単に勝てるとは思っていません。
だけど、彼らが何をどうのように考え、どうしてそのようなことをしたのかを裁判の過程で明らかにしていくことには、電子書籍の未来にとって公益性があると信じています。
アマゾン社が電子書籍ユーザーにとって信義に足る存在であるのか、電子書籍の未来の一端を担うに足る存在であるかどうかを問いたいと思います。

以下、訴訟に至る経緯と訴状の一部を公開します。


1.Kindle unlimitedに参加した出版社、作家に起こった出来事

2016 8/3
アマゾン社の電子書籍読み放題サービス「Kindle unlimited」がスタート
Kindle Unlimited は、月額980円でコミックや雑誌など和書12万冊以上、洋書120万冊以上(スタート時)の電子書籍が読み放題になる定額制サービス。
ユーザーは登録から30日間、無料でサービスを体験できる

8/10頃
一部人気コミックや写真集がサービズラインアップから削除され始める
(『中島知子写真集 幕間 MAKUAI』『今井メロ写真集 Mellow Style』など
同コンテンツは現在も通常のKindleストア上で販売が続けられており、表現上の規制などが削除の理由ではないとものとみられる)

8/24
 徳間書店「COMICリュウ」編集部が、HP上で「『Kindle Unlimited』に配信している『月刊コミックリュウ』本誌とリュウコミックスのラインアップを見直す」と発表。
理由はアマゾン社側より条件面での変更通達があったためとしている


9/30
講談社1000タイトル以上が同サービス上から一方的に削除
報道によれば、全作品が削除されたのは小学館、光文社、朝日新聞出版、三笠書房、東京書籍、白泉社、芳文社、フランス書院など、20社前後に及んだ

10/4
講談社が「アマゾン『キンドル アンリミテッド』サービスにおける 講談社作品の配信停止につきまして」という声明を公開


2.佐藤漫画製作所に起こった出来事

2016 8/3
アマゾン社による定額読み放題サービス「Kindle unlimited」がスタート
佐藤漫画製作所および弊社取次コンテンツ190冊ほどがサービスに参加
9/1からは新たに8タイトル16冊のサービス参加申請が受理され配信待ちの状態

佐藤漫画製作所は取次A社を介して、コンテンツをアマゾン社に卸していた
同コンテンツは8/3~12/31の期間中、特別条件にてロイヤリティ支払われることが約束されていた

8/31 
取次A社担当A氏が来社
アマゾン社から「Kindle unlimitedの支払い方式を変更したい」との要望があったとの説明
Kindleコンテンツ事業部長の名前による書面を提示
支払い条件の一方的な不利益変更を求める内容
同時に条件変更への同意書も提示
同意しない場合に新規コンテンツは配信されず、配信中のコンテンツについても一部が近日中に削除される可能性があるとのこと
併せて削除予定の作品リストを提示
弊社からは「一方的な支払い条件変更には同意できない。代理人に相談し、後日正式に回答する」と返答

9/1 
日付が変わると同時に取り下げ予定リストに名前があった作品が一斉に削除
削除確認後、取次A社担当A氏に連絡
A氏から「佐藤漫画製作所が契約条件変更 を認めない場合には、アマゾン社は佐藤漫画製作所が申請する作品について、申請は受領するものの、Kindle unlimitedでの配信はしない。変更を認めれば速やかに販売が再開されるはずだ」との告知を受ける
A氏を通じて、アマゾン社に下記3点を連絡

・『支払い条件変更に 関する同意書』については今後、締結するつもりがないこと
・正当な理由なくストア側の判断で商品が取り下げられることは到底受け入れられないこと
・契約を遵守し、すぐに全ての商品の販売を再開するよう望んでいること

9/5 
アマゾン社からの回答がないため、交渉を代理人に委任

9/19
 9/1から配信予定だった8タイトル16冊についても、配信が開始されていないことが判明
(それ以降2016年内に配信予定だったコンテンツは、全て配信されず)

9/28 
賠償などを求め、アマゾン社へ内容証明郵便を発送

弊社の主張
・契約条件の不利益変更に合意しない契約当事者に対する制裁ないし圧力として、配信の拒絶を行うことは、裁量権の濫用である

・「取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を 遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、 又は取引を実施すること」(独占禁止法第2条第9項第5 号のハ)に該当する

ただちに申請した作品の配信を再開するとともに、9月1日以降配信が中断されていなかった場合に受けていたであろう対価相当額を賠償金として支払うことを要求


10/5
アマゾン社から回答
・アマゾン社は提供されたコンテンツを自由に配信、停止する裁量権を有している
・配信停止の際、取次、出版社に事前通知し、承諾を得る義務はない
・よって賠償義務はない

10/7
佐藤漫画製作所および弊社取次コンテンツ、全コンテンツが配信停止

12/31
特別条件にてロイヤリティが支払われることが約束されていた期間が終了する

2017 1/1
配信停止されていたコンテンツが全作とも配信再開される

1/16
アマゾン社に対して訴訟を提起

2/8
アマゾン社が訴状の受領を拒絶

2/20
アマゾン社に受領義務があることの上申書を提出
アマゾン社が再び受領を拒絶
裁判所からアマゾン社に対して送達先の変更を検討するよう命令が出される

4/3
アマゾン本社に訴状を送達


3.訴状の内容

損害賠償請求事件
東京地 方裁判所 民事第13部
事件番号 東京地方裁判所平成29年(ワ)第1099号

原告  有限会社佐藤漫画製作所
上記代表者代表取締役  佐藤秀峰

原告代理人 東京平河法律事務所
小倉秀夫

被告   アマゾン・サービシズ・インターナショナル
上記代表者社長   エネリノ・カルチョ

訴訟物の価額 2億0629万3710円
貼用印紙額 金64万1000円

請求の趣旨
一 被告は原告に対し、金2億0709万2465円並びに内金2億0629万3710円に対する平成28年12月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。

訴状の一部を抜粋

 「被告は、KUにかかる契約条件変更の申し出に原告を応じさせるために、同申し出に応じなければ新規申請コンテンツ1をKUでの配信対象に加えず及び削除リストコンテンツをKUでの配信の対象から除外する旨を告知して原告を脅迫し、原告が回答を留保するや、新規申請コンテンツをKUでの配信の対象とせず、削除リストコンテンツをKUでの配信の対象から除外し、もって原告が登録申請したコンテンツをKUに登録し配信する上記義務を意図的に怠った。
さらに、それでも上記申し出に原告が応じないと見るや、被告は、KUにおいて配信されていた原告コンテンツの全てをKUでの配信の対象から除外し、さらに新規申請コンテンツ2ないし3をKUでの配信の対象に加えないことをもって、原告が登録申請したコンテンツをKUに登録し配信する上記義務を意図的に怠った。
 したがって、被告は上記義務懈怠により原告が被った損害を賠償する責任を負っている。」

「しかるに、被告は、その一方的な契約条件変更の申し出に原告をして従わせるための脅しないし従わなかったことに対する制裁として、前述のとおり、訴外A社から本件サービスへの登録申請がなされた新規申請コンテンツの本件サービスでの配信を拒絶し、または、削除 リストコンテンツの本件サービスでの配信を中止した。
それでも原告が被告からの一方的な契約条件変更の申し出に従わないでいると、訴外A社が登録申請をし一旦はKU上で配信されていた全ての原告コンテンツについての配信を被告は中止した。
これにより、原告は、訴外A社との合意に基づく、KUで原告コンテンツが閲読されることにかかる対価を受ける権利を大いに侵害されることとなった。
 したがって、被告は、原告の訴外A社から前記対価の支払いを受けるという債権的権利を故意に(更に言えば、原告を害する意をもって)侵害したものと言えるから、これにより原告に生じた損害について賠償する責任を負うこととなる(民法第709条)。」

「被告が原告コンテンツのKUへの登録を拒みまたは一旦なされた登録を解除することによって、被告が原告コンテンツをKUへの登録に登録しまたは一旦なされた登録を解除しなかったとしたら得られたであろう対価の支払を原告は訴外A社を介して/訴外A社より受けることができなくなった。
その具体的な金額は以下のとおりである。
(中略)
よって、原告は被告に対して、上記損害金元金と平成28年12月1日時点での既発生遅延損害金を合算した2億0709万2465円並びに損害金元金2億0629万3710円に対する平成28年12月1日から支払済みまで年5パーセントの割合の法定遅 延損害金の支払いを求めて本訴を提起するものである。」

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