スタッフを1名雇い家賃7万円のアパートで漫画を描くために必要な金額

漫画家の労働問題。
そもそも漫画を執筆するにはお金がいくら必要なのでしょうか?漫画は最低限、紙とペンがあれば描けます。作家の想像力が勝負。それだけに元手のかからないビジネスと思われがちですが、実際には人件費やら事務所の賃貸費用やら経費がかかります。
漫画制作に必要な経費を箇条書きで挙げてみます。
ちなみに僕の会社は、昨年、税務署の調査が入りました。前年の売上高は約2億9000万円、追徴課税は9万円でした。

経費項目

・役員報酬

・給料手当

・法定福利費

・福利厚生費

・消耗品費、事務用品費

・地代家賃

・通信費

・水道光熱費

・新聞図書費

・租税公課

・接待交際費

他にもいろいろありますがとりあえずこのくらいで。1つ1つ説明していきますね。間違いがあればご指摘ください。

まずは「役員報酬」。役員報酬とは作家自身への報酬です。法人化している場合、役員(代表取締役や取締役など)に支払う給与である役員報酬は、定められた範囲内で経費にすることができます。
個人事業主の場合は、自分に給与を支払い、経費とすることは認められていません。個人事業主には給与という概念はなく、「売上-仕入れ-経費」で求めた金額が、自分の所得になります。漫画家は仕入れが無いので「売上-経費」が所得になりますかね。

「給料手当」はスタッフのお給料。人件費ですね。東京都の最低労働賃金は953円ですので、週40時間として作画スタッフを1名につき1ヶ月15万2,480円以上支払わなくてはいけません。つまり、1人雇おうと思ったら「1ヶ月15万2,480円×12ヶ月=年間182万9,760円」は最低でも必要です。「月15万でフルタイムで働きたいという人がそもそもいるのか?」という問題もありますが。

「法定福利費」は健康保険料、厚生年金保険料、児童手当拠出金、労災保険料、雇用保険料を指します。法人の場合、スタッフを1名でも雇用していれば、上記はすべて支払わなくてはいけません。個人事業主は、常時使用する従業員が5人未満であれば「健康保険・厚生年金保険」には入らなくてもOK。逆に1人でも雇っていれば勤務日数に関係なく「労災保険、雇用保険」には加入しなくてはなりません。スタッフ1名につきざっくり給料の15%ほど必要です。つまり、「年間182万9,760円×15%=27万4,464円」はかかります。

「福利厚生費」。法定以外で住宅手当や交通費、家族手当などを支払った場合、福利厚生費になります。作画スタッフは独身の若い人が多いので、家族手当を支払うことは少ないですが、交通費を毎月1万円支払う程度は普通です。他に原稿が完成した後の打ち上げの費用などは「「従業員に概ね一律に供与」される福利厚生費として考えて良いかもしれません。スタッフ1名につき、毎月2万円の福利厚生費用がかかっているとしたら年間24万円です。

「消耗品費」「事務用品費」は、画材や文房具などですかね。作業用のPCは扱いが分かれるところです。「取得価額10万円未満のもの」「もしくは耐用年数が1年未満のもの」は消耗品費として計上できます。5万円のPCを買った場合、消耗品費として計上することができますが、10万円以上のPCの場合、固定資産として減価償却が必要になります。作画用のPCは10万円以上のものが多いですかね。(僕が使っているのは28万円のMacbook Pro)もしも20万円のPCを使っていたとしたら、PCの法定耐用年数は4年だそうなので、毎年5万円を経費にできます。
画材費は執筆枚数や、アナログ作画かデジタル作画かによって大きく変わるところですが、デジタルで毎月30枚描いたとして「(作家PC+スタッフPC1台=2台)×1台20万円=40万円」÷4=10万円」が毎年経費に計上できるということになります。画材や文房具はデジタル作画の場合、あまりかかりませんが、それでも毎月5000円くらいはかかりますかね?ということで、デジタルで毎月30枚描いたとして年間16万円。アナログ作画の場合はその倍以上かかる気がします。

「地代家賃」は仕事場の家賃ですね。個人事業主で自宅兼作業場という場合はまず、机がある部屋を仕事部屋と決め、その床面積を家全体に対する事業使用割合とし、トイレや廊下などの共用部の面積もその比率に基づいて事業使用面積を割り出します。
「(事業使用床面積÷自宅床面積)×自宅家賃=家賃」となるでしょうか。
家賃7万円、2Kの自宅アパートの一部屋を仕事部屋に使ったとして、3.5万円が経費。年間42万円が経費。

「通信費」「水道光熱費」は文字通りの意味。自宅兼作業場という場合は、家賃と同じく事業使用割合を出して計算。携帯とネットに毎月1.5万円使い、水道光熱費が2万円という人の場合、毎月の経費は3.5万円÷2=1万7500円
年間21万円になります。

「新聞図書費」は仕事上で使用した新聞、雑誌、書籍、DVDなど資料代、メルマガ購読料などです。漫画家でいうと作画用の資料代などがこれに当たりますかね。
漫画家さんは資料が大好きなので、漫画本やイラスト集、アニメDVDなど毎月数万円は普通に使っている人が多いのではないでしょうか。少なめに見積もって毎月1万円使っているとして、年間12万円。

「租税公課」とは「税金や公の負担金のこと」です。経費にできる税金は以下。

・事業用の自動車税、自動車取得税、自動車重量税
・事業税、事業所税
・印紙税
・固定資産税
・不動産取得税
・登録免許税
・都市計画税
・地価税
・利子税
・納付済みの消費税

経費にできない税金もあります。

・家庭用の自動車関連税
・所得税
・住民税
・相続税
・贈与税
・加算税、延滞税

ここでは作家の年商について触れていないので、税金の金額については算出しません。と言うか、あまり詳しくありません。「稼いだお金の3~4割くらいは税金で持っていかれるな」という感覚です。税理士さんにお任せしています。税理士顧問料は経費の科目は「支払手数料勘定」ですかね。月額固定費と決算時の費用が別途必要になりますが、個人事業主の場合、自分で税務をこなしている人が多いと思いますのでここでは経費に加えていません。

「接待交際費」は、打ち合わせのコーヒー代とか営業用の接待とか。人によりますが、派手な接待をしなければ年間10万円程度でしょうか。

さて、上記を鑑みまして漫画家の年間の経費はどのくらいかかるでしょうか?
「『月産30ページ』『作画スタッフ1名雇用」』の個人事業主漫画家」をモデルケースに考えて見ます。

・役員報酬 なし

・給料手当 182万9,760円

・法定福利費 27万4,464円

・福利厚生費 24万円

・消耗品費、事務用品費 16万円

・地代家賃 42万円

・通信費、水道光熱費 21万円

・新聞図書費 12万円

・租税公課 ?円

・接待交際費 10万円

合計3,264,224円+租税公課

スタッフを1人雇って家賃7万円のアパートで細々と漫画を描くだけで年間このくらいの経費がかかることになります。作家本人の報酬、生活費はここに含まれていません。
2013年の国税庁の調査によると、全サラリーマンの平均年収は414万円だそうです。(そこから個人の所得税やら年金、保険などを差し引くと手取りは300万円前後でしょうか)「サラリーマンの平均レベルの収入が欲しいな」と思ったら売り上げはいくら必要でしょう?「売上-(経費326万4224円+経費分租税公課)=414万円」→「売上=740万4224円+経費分租税公課」が必要です。本当にざっくりとした話になりますが、年商900~1000万円くらいあるとその年は安心して暮らせますかね?

新人の原稿料は5000~1万円が相場。comicoは1話5万円と聞きますし、IT系企業の漫画への参入で近年は原稿料は値崩れを起こしている状況です。例えば、原稿料が1万円の場合、原稿生産枚数年間360枚×原稿料1枚1万円=360万円。900万円に到達するためには、印税は540万円必要です。印税を540万円得るためには600円のコミックスが9万部部発行されないといけません。年間2巻発行されるとして1巻あたり4万5000部売れないといけませんね。1巻が4万5000部売れている作品は全体の上位10%以下。まあ、無理です。
つまり、漫画家は出版社やアプリ企業に対して原稿料の値上げ交渉をしないといけない訳ですが、それができる人はあまりいません。特に新人。実績もないのに原稿料の値上げを要求する新人など、誰も使いたくありません。本当は作家が作品制作に必要な金額の見積もりを出して、出版社が納得すれば契約、発注という流ればあればいいのかもしれませんが、出版業界は未だに昭和の口約束の世界です。そして、打ち切りになれば即無職。

今回挙げた経費の中で「給料手当182万9,760円」「法定福利費27万4,464円」「福利厚生費24万円」の合計234万4,224円は作画スタッフを雇わなければ削ることができるものです。週20時間程度の雇用で経費を半分に抑えることも可能です。在宅スタッフと委託契約する方式も考えられますが、「○日後までに○枚描いて」というノルマを課せられなくなりますので、生産性は大きく落ちます。委託をということは上司でも部下でもなく個人事業主同士ということになりますので、最低労働賃金レベルでは引き受けたい人もいないでしょう。結局、報酬は割高になります。じゃあ、1枚いくらで請負契約にすればいいって?多分、偽装請負になります。スタッフを雇わなければ年商650万円くらいで人並みの生活を送れるかもしれません。「月産30枚くらい1人で描け」と言われたら、まあ、原稿の密度を下げるか、睡眠時間を削って休みなしで描き続ければ、それも可能です。あるいは、スタッフの社会保険料を支払わず、最低労働賃金以下の給料を支払い、家賃を100%経費に乗せ、生活費も全て経費で計上すれば…。実際、そうしている漫画家が主流かもしれません。

出版社を含めみんなお金がないから安く働いている、働かせているというのが、今の漫画界の実情ではないでしょうか。作画スタッフに「残業代を支払え」「給料を上げろ」と言われて、支払える余力のある漫画家がまず少ない。「人並みの暮らしがしたい」「作画スタッフの給料を上げたいから、原稿料を上げろ」と言われて、原稿料を引き上げられる出版社がない。本の価格を現在の3倍くらいにすれば、全員に人並みのお金が行き渡りますが、3倍の価格で本を買いたい読者がいない。そうです、これが斜陽産業です。もしも、自分の子供が「漫画家になりたい」と言ったら、こうアドバイスします。

「やめとけ」


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佐藤秀峰

マガジン1

コメント1件

悲しくなる話しです。
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