僕の好きな漫画4「わが指のオーケストラ」

「僕の好きな漫画」第4回目です。

今回取り上げるのは、山本おさむさんの「わが指のオーケストラ」という作品。

連載してたのは確かヤングチャンピオンじゃなかったかな…?僕が高校3年生の時に出会った作品です。生涯を聾教育に捧げた高橋潔さんの生涯を描いた作品で、娘の川淵依子さんの実話エッセイ『指骨』がベースとなっており、大阪市立盲唖学校の教師に赴任した主人公・高橋潔が、耳の不自由な子供たちの教育に情熱を傾ける姿が描かれます。

当時、障害者は家に閉じ込められ、差別に晒されながら、教育を受けることもなく社会の片隅で生きていました。教育者となった潔は手話と出会い、子供たちが人間らしく生きていけるように学校、家庭、地域、社会を変えるべく奮闘します。

一方、聾教育はまだ手探りの時代で、教育の現場では「口話法」と「手話法」が対立していました。やがて「手話とは聾者とその近親者の間でのみ成立する少数言語であり、聾児が社会に適応するためには、発声と読唇による意志疎通法である「口話法」を身につけるべきである」とする意見を政府が発表し、聾学校教育においては手話を禁じ、「口話法」で教育を行うという方針が事実上決定されます。

しかし、「口話法」は万能ではなく、現実には3割程度の聾児しか口話を上手く使いこなせませんでした。潔は「聾唖者が手話をすることが認められる世界、すべての人びとが手話を理解する世界を理想とする」との信念から、「口話に適する者には口話法、適さない者には手話法で、一人の落ちこぼれもない適正教育を」と訴え、逆風の中、全国で唯一、手話教育を守り続けます。

…と、そんな物語です。

差別と闘う一人の教育者の物語。前半は「一作」という耳の不自由な子供と主人公が激しくぶつかり合いながら、交流を深めていく姿がメインですが、中盤からは本来味方同士であるはずの教育者同士が闘わなければならない展開となり、差別を憎んでいるはずの者がやはり差別の呪縛から逃れられずに闘ってしまうという因果な光景に感情を揺さぶられました。

僕はこの作品で漫画で初めて泣きました。それまでアニメ映画を観てじんわりと泣いたことはあった(確かナウシカとか長編ドラえもん)のですが、漫画で泣くということは自分の想像になく、涙が出てきて自分でもびっくりしたのを覚えています。山本おさむさんの丁寧な作画が素晴らしく、差別に苦しみながらもしぶとく、前向きに生きる人間の姿に震えるほど感動しました。物語に感動したとはもちろん、漫画という表現が持つ力に感動しました。

読んでいたのは将来の進路に悩んでいた高校3年生の頃です。
僕は「漫画家になりたい」という気持ちを両親に打ち明けましたが、頭ごなしに否定され、まともに取り合ってもらえませんでした。公務員の父には、理解のできない価値観でした。母は「育て方を間違った」と言って泣きました。僕のやりたいことはそんなに悪いことなのだろうかと苦しみました。鬱屈した毎日の中でこの作品に出会い、震えました。当時発売されていた2巻までを手に入れると、また号泣。僕は母に「僕は自分の描いた漫画でそれを読んだ人をこんな気持ちにさせたいんだ」と訴え、単行本を手渡しました。

「わが指のオーケストラ」はぜひ多くの方に読んでほしい作品です。
僕がその後、自分の漫画で読者をこんな風に感動させることができたかどうかは分かりませんが、大きな影響を受けた作品です。

山本おさむさんの作品で言うともう一作、「ペンだこパラダイス」という漫画家を目指す青年の物語がありまして、こちらも大好きな作品です。

こちらを読んでいた当時はやはり漫画家を目指していた真っ最中(20歳くらいだったかなぁ?)で、主人公を自分を置き換えて感情移入しまくりで読んでいました。漫画家漫画では藤子不二雄 A先生の「まんが道」と並んで大好きな作品です。

ではでは、また次回。

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