で、結局どうやったら漫画家になれるんスか? 3

商業漫画家になるのは簡単ではありません。
なったところで、従来の漫画家モデルで食っていくのは至難の技。
単行本を出したくらいじゃ暮らせません。
漫画家とはもはや職業の名前ではないのかも知れません。

こんなツイートを見かけました。

https://twitter.com/seijimatsuyama/status/1113619682215354368より)

「漫画家にしても芸術方面で『食えない』っていう人はマジ黙っていてほしい。

それは君がフリーランスとして向いてないだけで、僕の周りには、漫画やイラストやゲームに音楽に絵画と食えている人たちはたくさんいるし、自分がアーティト目指して失敗したのを『食えない』って若い人に呪いをかけちゃだめ」

4月6日9時時点で5860RTされています。
発言主は漫画家の松山せいじさん。
昨年の年収(年商じゃないかと思う)は1600万円だそうで、稼いでいる人に言われると何だか説得力があります。
が、漫画家になれなかった人たちに対して「食えなかった奴に発言権はない」とマウントしているようにも見えてしまい、語弊の多い書き方だと感じました。

松山さんは食えているのだと思います。
僕も食えていますし、知り合いには多くの有名作家がいます。
しかし、それは個別の事例です。
全体に当てはめて語るのであれば、ある程度の客観的データ、具体例を示すべきでしょう。
精神論と経済は別です。

繰り返しとなりますが、 2018年の紙出版物の推定販売金額は1兆2,921億円。
14年連続のマイナス、ピークだった1996年(2兆6563億円)の半分以下です。
漫画市場はピーク時の半分に縮小し、漫画家の数は倍以上に増えています。
単純に考えても、食えている作家は4分の1以下に減っています。

急速に食えなくなりつつある業界で、「食えてるヤツは食えてる」と言い放ったところで何の解決にもなりません。
それよりは、こんな時代をどう生き抜けば良いか模索すべきです。

答えはすでに出つつあります。

2018年の電子出版市場は2,479億円。(内、漫画は1,965億円)
10年前、574億円だった電子書籍市場は、約4 .3倍に成長しました。
2017年には、電子コミックスの売り上げ(1,711億円)が、紙のコミックスの売り上げ(1,666億円)を初めて上回りました。
この先も紙書籍は売り上げを減らし続け、電子書籍が伸び続けることは間違いありません。
ならばどこを目指せば良いのか?
誰の目に見ても明らかです。

そして、電子書籍を作品の発表媒体に選んだ時、出版社は必ずしも必要な存在ではありません。
編集者がいなければ作品を描けないという作家もいますし、必要なケースは多々あります。
しかし、絶対じゃありません。
大抵の場合、彼らと付き合うことは、電子出版権や映像化など二次使用権を取られることとセットです。


「出版」 読み方:しゅっぱん

「著作物等を印刷その他の機械的または科学的方法により文書または図画として複製し,その複製物を頒布することをいう。ネットワークを介して配信するごときは、『出版』には当たらない。」

電子書籍は出版物ではありません。
「出版物=書籍」に似ているので、便宜上「電子書籍」と呼んでいるだけです。

2018年の佐藤漫画製作所作品の電子書籍収入は4245万7581円でした。
紙単行本で換算すると、70~80万部の印税額に相当します。
紙書籍は単行本が1冊出ました。
初版3万部弱、増刷は1回、1000部。

一方、弊社が運営する電子書籍取次サービス「電書バト」は、利用作家にお支払いしたロイヤリティ総額が昨年は億を超えました。

これが僕の事業規模です。


電書バト利用作家を個別に見ると、商業作家として著名な方で冊数を多く出されている方は、月数十万~数百万の電子書籍ロイヤリティが発生しています。
売れている方は、これまでの総額でマンションを買えるくらいには儲かっているのではないでしょうか。

商業作家としてキャリアのあるAさんは、以前は別の取次を使っていました。
ある時、ストアランキングが上がっている時期があったので、お会いした際に「儲かってますね」という話をしたら、全くお金をもらっていないとのこと。
「調べてくれ」と言われて、支払い報告書などを調べたところ、取次が報告書を偽造し、本来Aさんが受け取るべきロイヤリティをごっそり抜いていたことがわかりました。
その後、「電書バト」に乗り換えていただき、今は毎月数百万円のロイヤリティをお支払いしています。

こうした事例は他にもありそうと感じたため、調べてみるといくらでも出てきます。

作家ロイヤリティを担保にお金の貸し借りをしている取次もありました。

弁護士を紹介し、契約を解除し、乗り換えてもらうという事例が、最近の1つのパターンになりつつあります。
なかなかお節介な営業スタイルです。

『解体屋ゲン』より、お詫びとお知らせ

ごく最近では、「解体屋ゲン」のお取次を担当させていただきました。
6月1日に全ストアリリース予定です。
作家に適切なお金が渡るように努力することが、僕の仕事だと思っています。

本筋からズレますが、「電子書籍はやってるけど、言うほど儲からねえよ」という作家は、きちんとロイヤリティを受け取れているか、実際に配信先ストアを確認し、支払い報告書を精査してください。
報告書にないストアで配信されていたり、契約書に書いてある計算式通りに支払われていない疑いはないでしょうか。
弊社では、契約に悩む作家のために、専門家による無料相談室をご紹介しています。

契約お悩み相談室


話を戻しまして、1冊単価でダントツに売り上げがいいのは吉田貴司さんの「やれたかも委員会」です。
ご本人が売り上げをnoteで報告しています。

バズった後のこと。やれたかも売上報告


単行本2冊、11ヶ月間で電子書籍の総売上8,147,871円とのことですので、かなり良い数字です。

しかし、記事に対する反応を調べてみると、数字の意味がわかっていない方がほとんどです。

「あれだけバズってこの売上ってちょっとつらいな」

「これだけネットで有名な漫画でこれだけなんだ、という感想でした。」

「やれたかも委員会で2千万もいかないのはかなり厳しい数字だなという印象」

上記は「2冊でこの数字」「今後も同様に売れ続ける」という視点が欠けています。
電子書籍は紙書籍と異なり、新刊と呼ばれる時期を過ぎても長期間一定量が売れ続けます。
僕はこの5年くらい、著作電子書籍で毎年数千万~億を稼いでいます。

「やれたかも委員会」は現在3巻まで出ていますが、まだ3巻です。
1冊あたり年間400万円のロイヤリティが発生した場合、3冊で1200万円。
10巻あれば年間4000万円です。
それが今後何年も自動的に懐に入ってきます。

僕が吉田さんであれば、まずは必死で10巻まで描きます。
後は適当に働き、適当に遊んで暮らします。
それが手に届く範囲にあるのです。


吉田さんは別格としても、アダルト作品、BL、TLなどは売り上げが順調です。
マンションは買えないまでも、多くの作家さまに電子書籍収入で生活できるレベルでお支払いできています。


「人妻弓香の淫ら堕ち」リリース情報



北里さんはオリジナル新作を定期的に配信し、その収益で新作を描くサイクルを実現しています。
アダルト作家にとって、新しい流れを提示できたのではないでしょうか。


さて、上記はやはり個別の事例にすぎません。
電書バトの宣伝記事として、聞き流していただいても構いません。
電書バトを使って、それほど儲かっていない作家さんがいらっしゃることも事実です。

ただ、電子書籍で成功している作家に共通して言えるのは、「権利を出版社に預けず、自己管理している」ということです。

食えない時代に食っていくためには、「電子書籍を主戦場に作品を自己管理する」という方法が、1つの大きな選択肢になりつつあるのではないかと思います。

そうは言っても、どこから手をつけたらいいのかな…?

次回、書くことがあればもう少し具体的な話をします。

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