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2.乱立する人権DD法・イニシアチブまとめ

人権デューデリジェンス(DD)に関する情報開示のフレーム、法律、イニシアチブが乱立しています。(人権DDについては前記事参照)
そこで一度整理してみました!まとめた中でも特に有名どころは下記で解説をします。


1章:国際的な情報開示のフレームワーク

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①ビジネスと人権に関する指導原則
人権DDが国際的に企業が実施するようになった背景には、2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」(別名:ラギー報告書)があります。
https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

この指導原則の革新的な点は、これまで人権の尊重は国家の義務であったことに対し、企業が人権の尊重の役割を担うべきと明記した点にあります。指導原則において、企業の果たすべき役割として人権DDが定義されており(「指導原則17」より)、定められたプロセス(後述)にて人権課題調査と情報の開示が求められます。
また、企業は国際人権条約に基づいた事業実施が求められるとも明記されているため(「指導原則12」より)、事業実施国の国内法ではなく、国際条約にも順守する必要があります。
こうした指導原則ができたことにより、企業はNGOや市民社会より、根拠を持って人権侵害を指摘されるようになりました。

②国連グローバルコンパクト
2000年に国連本部で発足したイニシアティブで、企業に対し、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野に関する10の原則を順守し実践するよう要請しています。こちらの原則1と2が人権に関するものです。
https://www.unglobalcompact.org/what-is-gc/mission/principles

③GRIガイドライン
国際NGOであるGlobal Reporting Initiative(GRI)のサステナビリティ報告のガイドラインです。開示項目は経済、環境、社会の3つのカテゴリのうち、社会の中の一つとして人権が位置づけられています。
https://www.sustainability-fj.org/gri/

④-1 ISO26000
ISO26000とは、社会的責任に関する国際規格である。包括的に社会的責任の指針を示した手引きとしての役割を果たす。下記の図の通り7つの中核的主題があり、その一つの人権が位置付けられている。

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https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0500/index/dev/iso_sr

(余談)
このISO26000が企業のCSRの方針のもとになっているが、ここで人々の頭を悩ますのがよく聞くESGやSDGsとの関係性である。これに関しては、伊藤園顧問である笹谷氏のESGとSDGsの関係性マトリクスが非常に分かりやすい。

伊藤園

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sdgs_esg/pdf/001_05_00.pdf

こちらは伊藤園のCSR報告の事例である。
一番左の列がESGである。その次の列が7つの中核課題がISO26000である。そして、表右側の各縦の列がSDGsの各ゴールになっている。

④-2 ISO20400
次にISO20400だが、これはISO26000が包括的な企業の社会的責任を示していることに対し、企業の持続的な調達の仕組み構築に特化した参考書としての位置づけです。

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「ISO 20400:2017(en) Introduction Figure 1 — Schematic view of the content of ISO 20400」より

⑤OECD責任ある企業行動に関するデューデリジェンス・ガイダンス
こちらはOECDのデューデリジェンス実施の手引きです。実施に関して事細かに方法論が書かれており、また業界ごとのデューデリジェンス実施方法に関してもまとまっている。

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https://mneguidelines.oecd.org/due-diligence-guidance-for-responsible-business-conduct.htm

2章:各国の人権DD法

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こちらは一つずつ解説はせずに重要な点だけ補足をします。
まず人権の情報開示を義務化する罰則付きの法律(ハードロー)と、情報開示を推奨する国家行動計画(NAP)(ソフトロー)があります。日本はソフトローとして2020年に「ビジネスと人権に関する行動計画」(NAP)が定められました。下記が日本のNAPです。

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https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008862.html


また、今後ハードローの整備が見込まれます。西洋の法律を日本に取り入れるにあたり、法整備のタイミング/対象企業(従業員数や売上)/罰則内容/人権情報の開示方法情報取得プロセスや結果)など日本の実態に合わせたローカライズが必要になります。

3章:イニシアチブ

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各社が独自で人権DD調査方法を確立したり、情報をため込むのではなく、他社と共同のイニシアチブを作ることが多いです。業界ごとに様々なイニシアチブがあるため、特に有名なイニシアチブだけを説明します。

・RBA(Responsible Business Alliance)
RBA(旧EICC(電気メーカー中心のイニシアチブ))とは、米国企業中心に作られたイニシアチブであり、日本企業も多く参画しています。RBAの人権調査の方法論、監査基準、データプラットフォームを持ちます。

4章:評価ツール

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大企業になるとサプライヤーの数も膨大になるため人権調査に大きな工数が発生します。(しかもリスク回避の観点からは毎年実施が必要!)
自社のexcelで質問票を作り、サプライヤーを管理している会社もあれば、特に有名なツールのフランスのスタートアップのEcovadisと国際NGOのSedexを使う会社もあります。
これらツールはどちらも共通し、バイヤー(発注する企業)とサプライヤーの間に立ってプラットフォームを提供しています。そうすることでサプライヤーは複数のバイヤーからの質問票に答える事態が防がれ、バイヤーとしても他社の調査結果を共有してもらうことが可能です。また複数社の調査をまとめることで、相対的にバイヤーの人権配慮の取り組みを評価することが可能です。ちなみにこのツール2社の違いは、第三者がサプライヤーを監査するか、サプライヤー自身がアンケートに回答するかといった違いがあります。

Ecovadis
https://ecovadis.com/ja/

Sedex
https://crt-japan.jp/service/about_sedex/

5章:NGO

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こちらではNGOの中でも特に企業の人権配慮のスコアを算出しているNGOに特化して紹介をします。
①CHRB(Corporate Human Rights Benchmark)
主に農業、アパレル、資源採取、ICTの業種で毎年200社をスコアリングしており、日本企業も含まれています。採点基準はガバナンスとポリシー、人権尊重と人権DD、グリーバンスメカニズム(苦情対応の仕組み)、人権慣行、深刻な申し立てへの対応、透明性の6カテゴリです。
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/corporate-human-rights-benchmark/

②KnowTheChain
こちらは隔年で人権侵害リスクの高いICT、飲料系、アパレル・靴の3業種で120社ほどを対象にしています。評価項目はコミットメントとガバナンス、トレーサビリティとリスク評価、調達行動、採用活動、労働者の声、モニタリング、救済措置の7項目です。
https://knowthechain.org/

私のモチベが続きそうな場合は、今後とも引き続き人権関連の記事を書こうと思います。
次回の記事は「3.日本企業の人権DD重要テーマ:技能実習生」です。

※本記事は私の所属する組織として成果物ではありません。また本記事の内容は私個人の見解や分析を含みますので使用に関して一切の責任を負いませんのでご了承ください。

◆連絡先
山澤宗市
shuichiyamazawa0728@gmail.com
記事に関する質問、意見等ありましたらこちらの連絡先までお願いいたします。


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