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高層ビル街に現れた超変則都市型野球場の物語。プロ野球小説『ザ・ウォール』感想

こんばんは!コダカです。
ひさしぶりにnote更新していきます。
時間がありましたらぜひお付き合いいただければと思います。

ペナントレースも交流戦前の山場に差しかかろうとしている昨今、
今回は読み応えたっぷりの激アツ野球文学作品をご紹介します!

作品名は『ザ・ウォール』(作・堂場瞬一)です!! 

プロ野球チームの1シーズンを舞台にした物語なのですが、
変則構造の新球場という設定を聞いた時点で一目惚れ。
変形のスタジアムが大好きなボクとしては裏表紙に描かれた球場の建築図面を見ているだけで至福の時間を過ごすことができました。

あらすじ
低迷にあえぐかつての名門球団「スターズ」は、
本拠地を副都心・新宿の新球場に移転し、開幕を迎えた。
地下鉄駅に直結、オフィス棟、ショッピング棟、
ホテルの高層ビル三つが周囲にそびえ立つ形状で、
<ザ・ウォール>の異名をとるスターズ・パークには、
大リーグ好きオーナー沖真也の意向がふんだんに盛り込まれている。
日本的発想に捉われないサービスや施設の魅力で観客増を図るオーナー。
狭くて打者有利の球場に四苦八苦しつつ、堅実な采配で臨む監督・樋口孝明。
両者間には軋轢が生じ、序盤は苦戦が続いたチームの成績は、
後半戦に入ると徐々に上向き始める……。
ファンが求める「面白い野球」とは。
「理想のボール・パーク」とは。
野球小説の旗手が放つ、「球場」が主役の革命的一作。渾身の書き下ろし!
引用:実業之日本社HPより

ひさびさに没頭できたスポーツノベル。

新宿の高層ビルの間に建造された変則的な新球場「スターズパーク」での開場初年度、スターズの監督に復帰した主人公・樋口の目線で物語が進んでいきます。

野球小説は数あれど切り口がなかなか独特。



その1「変則的構造の新球場での戦術」


新球場はボストンレッドソックスのフェンウェイ・パークやオリオールズの本拠地カムデンヤーズばりに外野の片方の奥行きが狭く、打ち上げればホームランが出やすい変形構造になっています。しかも、フェンスの高さは低く設計されているにもかかわらず、現状スターズに長距離打者はほぼ在籍せず、一応該当選手はいるがオーナーからのプレッシャーをかけられてイマイチな状態。
かたやホームランが出易いのは敵チームも同じ条件なので、ここ数年ピリッとしないスターズ投手陣にとっては頭痛の種であり、なおかつフェアゾーンギリギリまで客席がセリ出しているため、ファールゾーンがほぼなし。ピッチャーはファールで粘られ球数を投げさせられるため体力を消耗するという無理難題がのしかかってきます。



その2「アメリカ野球カブれのオーナーと監督の衝突」


観客動員を伸ばすため、前記した変則的球場に合わせるホームランと豪速球の三振の「メジャー的」野球を注文してくるオーナーに対し、樋口監督はトレードによる戦力の見直しをお願いしますが膨大な球場建築費の回収や独立採算制を目指すスターズにあって、現場の意向である選手獲得や施設の改善は2の次3の次で拒否。
ならばと、単打と足でかき回すスモールベースボールを実行するチーム作りを画策しますが、今度は「華がない」と一蹴され、挙句は打線の組み替え等、現場介入してくる有様に樋口監督は頭を抱えてしまいます。

「結果」の解釈が互いに噛み合わないオーナーと監督。
もっと言ってしまえばこのスターズへの「愛」が噛み合わないのです。

同じ方向を向いてない彼らの対立が将来(いや、もう起こっているかもしれない)の日本のプロ野球をはじめとする、スポーツエンタテイメントビジネスへの原罪ともいえる問題点をクローズアップしているような気がするのはボクだけでしょうか。



その3「嫉妬する選手とオーナーの影」


みんな一丸となってペナントレースを戦うのがチームスポーツの定石ですが、何人かオーナーに目をかけられ内通している選手がおり、チーム内の空気はなかなか重い感じ。チームの中に敵のスパイがいるというのは漫画の世界ではあるかもしれないですが、チームの中に味方(オーナー側)のスパイが数人いるという状況はなかなか面白く、そこを監督があれやこれやで監視の目を掻い潜って策を立てていくのが見ものです。

ここまで内容を取り上げましたが、
さらに特筆するべきは、試合描写が読みやすい!
スポーツものというと、一つのプレーに対していっぱい文学的表現がつきやすいですが、この小説は野球好きにわかりやすいようにシンプルな表現で情景がストレートに伝わってきます。
そこに選手の表情や監督はこうすると選手は安心するという、「野球は心のスポーツ」と象徴するような内心描写が重なって書かれていてグッと引き込まれていきます。
他のかたのレビューでも、「白熱する試合のシーンは読んでいるこっちが疲れる」と書かれてましたがボクと同じく引き込まれたのでしょう。大いに同感です。
野球大好きなボクらには、あの攻防が映像として脳内を駆け巡るのは間違いないと思います。

作者はスポーツ小説・警察小説の名手、堂場瞬一先生。
この小説が未来の総論的作品で、物語に登場する選手や元選手のOBたちにスポットを当てた過去の物語「スターズシリーズ」も別の作品として出版されているのでぜひ読んでみたいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考リンク
ザ・ウォール|実業之日本社公式サイト
 http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-53738-2


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