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スタジオで一番偉い人


 学生時代、名古屋制作の幼児向けTV番組で、ぬいぐるみに入るバイトをしていた事があります。ぬいぐるみを着て演技をするのは、普通の演技とは求められる技術が異なり、それはそれで奥が深いモノでした。
 通常、撮影スタジオで一番偉いのはディレクターです。何をどうするか決定権はディレクターにあります。その上にプロデューサーや映像会社の社長がいますが、めったにスタジオには来ませんし、来ても目立ちません。
 でも、ある日、桁違いに偉い人がスタジオに来ました。
 スポンサーの会社の人です。でも、現場に来た人は新入社員らしくて、まだスーツの着こなしもぎこちない若者でした。
 ところが、この人に、スタジオの皆はニコニコ、ペコペコなのです。気むずかしいディレクターも、威厳ある先輩役者達も、無愛想なはずのスタッフの皆さんもみんな、私とそれ程、年の変わらないこの若者をチヤホヤするのです。スポンサーの会社の人も、自分の親ほどに年上のディレクターにペコペコされて、ドギマギしていました。
 私は古いコントを見るようで笑いをこらえるのに必死でした。
世の中のことがよく分かっていなかったのですね。
 有史以来、お金のことを気にしないで創作活動の出来る人は、一握りです。神か、王侯貴族か、パトロンか、民衆かスポンサーに愛されなければ、創作活動そのものができません。私のバイト代だってスポンサーに出してもらっていたのです。笑い事ではありません。
 ギリシャ神話で芸術の女神はムーサだそうです。9人姉妹で一人一人担当する芸術が違うそうです。ミュージックの語源だとか。商売の神は男神へルメース。詳しくありませんが、きっと単純な関係じゃないんだと思いますよ。
 私の周囲にはムーサには愛されているのに、へルメースに愛されていない人がたくさんいます。

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イラスト by artbesouro

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