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オムツ


 認知症の母には、ある時期からオムツを使ってもらうようにしました。オムツを使ってもらうタイミングは難しくて、タイミングを早すぎると、本人が怒ってしまって、オムツをしてくれなかったりするのです。認知症患者の多くは自分が病気だという自覚がありません。私達だって、突然、誰かに「オムツをしろ」と言われたら怒りますよね。
 母の場合はケアマネさんが絶妙のタイミングでオムツをすすめてくれたおかげか、すんなりとオムツに移行できました。
 ただし、母の前では「オムツ」という言葉を使わないように気をつけていました。認知症になっても、自分が「オムツ」を使っているという認識は屈辱なのです。母の前では「リハビリパンツ」という言葉を使っていました。これもケアマネさんに教えてもらった事です。
 母に認知症の診断がおりて約十年が過ぎた頃、もう会話も成り立たないことが多くなったある日、私と愛妻は油断して、ついうっかり、母の前で、「オムツ」という言葉を使ってしまいました。すると母は怒り出したのです。
「誰がオムツを使うの! 私はオムツなんてせんよ!」
とっさに私はこう言いました。
「私のオムツの話をしているんです。私はオムツをしているのです」
すると母は安心してこう言いました。
「あんたのオムツの話か、ならいいわ」
50才も近い息子がオムツを使っているのも心配だと思いますが、母が納得するのならそれでいいのです。
 よい認知症介護者は、よい役者でなくてはならない。即興芝居やアドリブ等の経験は認知症介護の現場では大変役に立ちます。
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イラスト by hermandesign2015

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