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祖母の遺影


 
私は父方の祖母と同居していました。
祖母が亡くなったとき、母は困ったそうです。葬儀に使う写真がないと。母と祖母は嫁姑で仲が悪かったせいか、祖母の写真を撮る機会がなかったのです。
 父方の祖母が亡くなり、私達は、今度は、母方の祖母と同居することになりました。
 母は父方の祖母でこりたせいか、事あるごとに母方の祖母の写真を撮りました。祖母はそのたびに嫌な顔をしました。そうですよね。「お前はもうすぐ死ぬからな、お前の葬式用の写真を撮るぞ!」とカメラを向けられてはいい気分はしません。
 母方の祖母は長寿を授かり、96才で他界しました。しかしこの時、母には認知症の症状が出ており、祖母の死前後の諸々の手続きをしたのは私です。
 葬儀屋さんに葬儀に使う写真をくださいと言われて、私は適当な写真を渡しました。まぁ。いい写真だったと思いますよ。
 葬儀の後、遺品の片付けがあります。それも私がやりました。
 遺品の中から、ハッとする物が出てきました。葬儀用の写真です。すでに引き伸ばされて、額に入った写真。和装と洋装2枚。いずれもプロのカメラマンにスタジオで撮ってもらっただろう美しい写真でした。祖母は自分で用意していたのです。
 祖母はその写真のことを母には教えてあったはずです。長生きするのも考えものです。自分の死後の備えをすることはできますが、自分が死ぬより先に、一人娘が認知症になってしまうことがあるのです。母はその写真のことは忘れ、事あるごとに祖母の写真を撮っていたのです。嫌な顔もしますよね。
 死はいつ訪れるかわかりませんが、葬儀用の写真はいつでも撮れます。年に一度、家族で正装して、ヘアスタイルをキメて、スタジオでプロのカメラマンに写真を撮ってもらうのを習慣にしてもいいですね。
 葬儀が無かったら、ラッキーでした。その年の、いい思い出になりますよ。

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イラスト by 星野スウ

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