見出し画像

そしてドラマに【好感度上昇サプリあとがき#2】

前回はこちら


追い付かない実感


メールの中に、ウソは1ミリも無かった。

賞金の入金、授賞式の案内、テレビ東京の方との顔合わせ。

流れるように話は進んでいった。
気持ちに整理もつかぬまま。


2022年4月28日。
表参道を歩く私の表情は、強張っていた。

――どうすりゃ良いんだ……。

賞をもらったことなど殆どない。
あると言っても、書初めの金賞ぐらいだ。

30数人のクラスの中で選ばれるのさえ緊張するのに、
創作大賞の応募数は、17,000近く。
もはや、よくわからなかい。

確かにあったのは、フワフワと浮き上がる感覚。
それだけは、ずっと離れなかった。

授賞の挨拶を終えても、

noteの方や他の受賞者の方と話しても、

勢いよく酒を流し込んでも。


暮れの衝撃


それから半年が過ぎた。

私は、小説を書き続けていた。
まとめサイトで探した公募に向けて。

転職先の職場は多忙で、深夜まで働くこともしばしば。
それでも、持てる限りの時間は捧げた。

始業前、打合せの合間、終業後。
休日も家に引き籠り、ひたすら執筆を続けた。
字数や期限のノルマを課して。

慣れもあってかペースは早まり、
月に2~3本は作品を書き上げていた。


年の瀬も迫ったある日のこと。
私は、赤坂を訪れていた。
テレ東の松本さん、監督、脚本家の方と会うために。

ドラマ化の検討は、着実に進んでいた。
定期的に進捗の連絡を貰っていて、
秋口には、制作決定の旨を聞いていた。

とは言っても、まだわからないことも多い。

いつどんな形で配信されるのか、
どんなストーリーとするのか、
監督と脚本を書く方の正体はもちろん、
どの役者さんが演じるのかも。

――そんな大体的にやらないでしょ。原作も無名で短いし……。

幼い頃から何度も裏切りに遭っていた私は、そう考えるようにしていた。

でも、そんな防衛的な見通しは想定外の形で崩れることになる。


配信は4話の連ドラ。
監督は角田恭弥さん、脚本に安里麻里さん。
松本さんと合わせ、『ただ離婚してないだけ』の制作チームだった。


予想外の展開に、脳は処理を放棄した。
年が明けても、続く麻痺。

そして、シナリオ案と共に届いた言葉で、
思考は再び混沌とした。

『主演は、三浦貴大さんに決定しました』


そしてドラマに


4月を迎えるまで、心が落ち着く暇は無かった。

生駒里奈さん、山口大地さん、萩原聖人さん、とろサーモン久保田さん
といった、豪華な出演者。

身震いするほど面白い脚本に、撮影現場の見学。

脚本を読み終えた瞬間、私は言葉を失った。

圧倒されたのだ、その芸術的なまでの膨らみに。

元のテーマと世界観を残しつつも、それらを際立たせる描写や場面。
原作では書かなかった、個人的なエピソードも加わっていて、
ひと味もふた味も違う『好感度上昇サプリ』が、そこにあった。


撮影現場は、別の意味で刺激に満ちていた。

スタジオに踏み入れた先には、30名以上の人達。
プロデューサー、監督・助監督、俳優の方々だけでなく、
撮影、照明、ヘアメイク、小道具などなど、
様々な分野のプロフェッショナルが一堂に会していた。

和気藹々としながらも、その空間には熱気と緊張も混ざっている。
その理由は、撮影が始まると直ぐに判った。

カメラ、照明、舞台セットなどの調整。
想像以上にシーンの切り替えは精緻で、その度に入念な下準備が必要。
監督から「本番」の号令が掛かると、場の空気は一変した。
そんな中、瞬時に役に入り込む俳優の方々は、圧巻の一言だった。


――こんなに大勢の方が、『好感度上昇サプリ』に関わって下さっている。しかも、こんなに真剣に……。

只々ありがたく、頭が下がった。


そして迎えた4月の中旬。
錚々たる媒体で、キービジュアルが公開された。

(#3に続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?