オフィスで暑気払いの飲み会の話になった。
驚くべきことに弊奴隷商会も、今年はお盆休みを導入。その初日に飲み会を開くという。
「このご時世に飲みニケーション(死語)もあったものではなかろう、大体その参加費用は自分自身の稼いだ金から出るとかわけがわからんぞ。むしろ時給をつけてくれ」
などと思うひねくれたぼくは当然不参加。
同僚達の参加不参加が次々と決まっていく中、これまでの飲み会(※ぼくは一度も参加していない)でそれぞれが見せた酔態に会話が及んだ。
「○○は歌い出すが、オンチでナニ歌っているかわからない」
「そもそもあいつの選曲が知らないアニソンばかりでわからない」
「××はカラオケ行っても絶対に歌わないがいっつも脱ぐ」
「△△は歌うし上手いけれど、歌が古くてわからない」
酔態に話が及んだと云っても、どうやら主に悪口だ。まぁ酔態の評価なんてもんは、往々にしてそういうもんなのだろうけれど。
そんな中、ぼくのアシスタントをしてくれている女子大生が話に加わった。
「アシさんは酔うとどうなるの? というかそもそも飲むの?」
「わたしは……面倒くさくなりますね」
「面倒くさくなる……酔うと突然熱い自分語りを前世あたりからはじめたり、インドとアフリカの素晴らしさに語り始めたと思ったら、大麻解禁を唐突に訴えはじめたり?」
「なんですかそれ(笑)。いや、なんか、どこかで軽く寝ていたりしますね。それで起こされたり」
「それは《面倒くさい》じゃなくて《危ない》だよね」
「いやいや、全然危なくないですよ。自分で寝ようって思って寝ていますし、場所選んで寝ていますから」
免許取得中だった記憶があるが、少なくとも彼女の運転する車には同乗したくないと直感した。危険が危なくてブレーキを踏もうと思って場所を選んでアクセルを踏みそうだ。話を逸らす。
「なるほどねー。こう周りが面倒くさくなる感じ? あとウザがらみとか?」
「いや、ウザがらみっていうか……絡み酒ではないと思うんですけれど、なんか楽しくなっちゃって、よく人を褒めますね。なんでもないこととかで」
「《ちゃんと呼吸できていてすごいねー》とか《二足歩行していてえらいえらい》とか《二酸化炭素はいてるの? さすが!》とか?」
笑うアシスタントさん。
「いやさすがに、それはないですけど……」
「けど?」
「でも、そんな感じかもですね。今度使いますそれ(笑)」
なるほど、面倒くさいかどうかはわからんが、なかなかに強かである。
「みやもとさんは酔うとどうなるんですか?」
「変わらなそう(笑)」
「酔っているとこ想像つかない」
「暴れられたら止める人選困りますね」
お鉢が回ってきた上に随分と非道い言い草である。酔ってもさほど変わらないが、自覚している部分としては喜怒哀楽という情動の閾値がグイっと下がっている感じはある。
些細なことで大袈裟に喜んだり泣いたり笑ったり、怒ることはあんまりない。記憶が消えたこともない。暴れたことも……ない。ただ瞬間的に激怒して止められたことはある。まぁアレは酔っていなくてもそうなっただろうなという自覚もあるが。
「なんか非道い云われようですが、ぼくは酔ってもそんなに変わらないですよ。深酒もしませんし。多少賑やかになる程度ですかね」
ここまで答えて、さて、と考える。ありのままの事実を話したまでだし『自分、酔うとブチギレ金剛で誰彼構わず靱帯捻り切りまわるクセがあるんで夜露死苦!』はさすがにオチとして最悪なので、なんかないかと考え口から出るにまかせる。
「激しく酔っ払うと号泣しながら右翼の街宣車から流れる軍歌のモノマネしながら熱唱し出すくらいですかね」
と、しれっと大嘘ぶっこいておいた。なお、モノマネができるのは事実である。十八番は『出征兵士を送る歌』。大仰にならない程度のビブラートがポイント。
まぁそんなぼくの話はどうでもよく。自分で出したネタながら「二足歩行しているし二酸化炭素吐いててえらいねー」って褒められてみたいなーなどと思うあたり、月曜日から疲れているのだろうなと思った次第。
なお、その後その会話は「えっ……」という雰囲気になりつつ仕事が忙しくなったので終了した。なんか解せぬ。
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