【復刻日記】■ 友達の友達の話[春九堂の場合#4]


 智史君。もう諦めようか。僕らの友達の友達の話は、何処まで行ってもシモの方面から離れられないみたいだからね。そろそろ僕も腹をくくろうかと思っているんだ。

 それにしても智史君、きみ達やりすぎ。「おはようございますアタック」は確かに一人暮らししているダチへの定番攻撃かもしれないけれども、わざわざビデオカメラ持っていかないし(むしろ持ってないし)、全裸で玄関に向かって寝て待つなんて男レベル高過ぎるよ。

 まぁそんな智史君の友達の友達たちには敵うべくもないんだけれども、僕の方も話をしようかと思う。

 これは僕の友達の友達の話なんだけどね。

 そいつ、仮にSとしておくけど、そいつはガキの頃から格闘技やっていて大学の時にとある道場に入門したんだよね。そこは流派とかを決めているわけじゃなくて、総合的な格闘技を教えてくれるところで、本当に色々なバックボーンを持っている人達が集まってたんだよ。

 極真空手、講道館柔道、テコンドー、ボクシング、少林寺拳法、古流柔術なんてのもいたって。

 で、その中でもSは身体はデカイし、そこそこ経験も長い方だったんだけど実力はもう下の下だったらしいのね。本当に猛者ばかりの集まりでさ。

 同じくらいの年代で5人くらい仲のいい人がいたんだけど、中でもKさんっていうのは、身長180cm超で、極真空手の黒帯で柔道も黒帯という猛者だったのね。でKさんと同じ大学のHさんは大学で躰道(たいどう)っていう格闘技をやっている人で、とにかくこの二人は滅茶苦茶に強かったんだよね。

 まぁどのくらい強かったかというと、うーん……そうだなぁ。「逆らっちゃいけない」くらい?いや別にイジメがあったとかシゴキがあったとかそういうことじゃないし、2人とも明るくて面白くてすごくいい人なんだけど「何かあったとき止められるヤツがいない」とでもいえばいいのかなぁ。とにかく半端なく強かったんだよ。

 で、この話はSが入門してから2年くらい経った夏の事なんだけど、最強Kさんと、準最強Hさんの呼びかけで合宿に出かけることになったのね。行く先は千葉県某所の施設で、日程は3泊4日。参加者は最強Kさん、準最強Hさん、S、Sと同期のT君、後輩のMの5人。

 合宿といっても、まぁ遊び半分ってところで格闘技のビデオもちよったり酒もちよったりしつつ、朝から昼まで練習して暑い時間はビデオ鑑賞で研究しつつ、夕方は研究を反映しながらの練習で、夜は飲み会というスケジュールだったんだけど、事件は三日目の夜に起こったんだ。

 一日目、二日目はそこそこ何事もなく終わったんだけど、三日目はもうみんなヘトヘトだったし、疲れとかそういうのから頭がおかしくなっていたんだと思うんだよね。

 そもそも夕方の時間に観たビデオとか「少林寺三十六房」とか「刑事物語」とか、既に格闘技のビデオじゃなくなってたしね。

 そんなんだったから夕方の練習は「サンドバックに頭突き100回」とか「ハンガーヌンチャクを使った演武を考える」とか頭おかしいテンションになってたからね。

 そしていよいよ迎えた夜。最強Kさんが「今夜はもう無礼講!っつーかむしろブレイクオン!持って帰るの面倒だから全員で飲み干そうぜ」とかいって、かなりの量の酒を撃退しなくちゃいけなくなったわけ。

 まぁみんなそこそこお酒は強かったし、Sも飲めない方じゃなかったから最終夜ってこともあって、かなり盛り上がったんだよ。

 でも、その前の二日間は「一応指導者だからさ」って、殆ど呑まなかったKさんとHさんが、いいペースで飲み始めちゃったのが運の尽きだったね。いや、別に暴れて誰かに怪我させた、とかそういうことはなかったらしいんだけどね……。

 飲み始めてから2時間くらいだったかなぁ。時間も深夜をまわった頃なんだけど、話題がまぁ年頃の青年が集まっている場に相応しく(?)エロエロ系の話になったんだよね。最初は普通にお互いのえっち話とかしていたんだけど、後輩Mがかなりのコマシで、かなり濃厚なえっち話をしてたんだよね。

 そしたら、それまで黙って聞きながら呑んでた準最強Hさんが、突然テーブルを「ダンッ!」とか叩いたわけ。

 みんなびっくりしてHさんをみたんだけどHさんったら、もうかなり座った眼をしていて、突然

「やばーい!」

 とか言い出したんだよ。Sとか慌てて「Hさんどうしたんスか?!」とか聞いたら、Hさん唐突に右手をびしっと挙手して

「勃ってきましたーッ!!」

 とか叫んでんの。

 もうSもMも、同期のT君も大ウケして爆笑しながら「なにいってんすかHさん! やだなーもー!」とか言ってたんだけど、Hさんもう全然聞こえてなくて

「マジだって!マジ勃ってきたんだって!」

とか力説しはじめちゃって、誰も疑ってないし、そんなこと聞いてないし、人の話全然聞いてないし。

「信用しねーなら見せてやる!」

 とか立ち上がって脱ぎ出そうとしてんの。

 もう大爆笑極まりないんだけど、真夜中に男5人のところで勃たれても脱がれても困るし、みんな止めようとするんだけど、ほら「逆らっちゃいけない人」だからさ、力づくとか無理なわけ。まぁそのときは面白半分で口で止めてただけだったらしいんだけどね。

「いやHさん! 男ばっかのところで脱がれても困りますし!」

「そうっスよ!先生だって男の真剣は抜きどころを誤ってはいけないっていってたじゃないスか!」

「うーん!でももう勃ってるから!(かちゃかちゃ)」

「うわ!Hさんベルト外さないで!」

「HさんHさんHさん!その最後の一枚だけは下ろさないでいいスから!もうわかりましたから!」

「わかっただぁ?なにがだよ!俺のビックマグナム黒岩先生見とけっつーの!だっしゃおらーー!!」

「うわ見たくねぇ!」

「「「ってでかッッ!!??」」」

 爆笑っつーか、瞬間怯んだらしいね。一部で「ファウルカップ(急所ガード)からはみ出す武士道」とか「ガマカツH」とか「三本足」とかあだ名されていたからデカイというのは知っていたけど、本気ででかい。もうあそこまでいくと凶器って感じだったらしいよ。

 で、みんなゲラゲラ笑ってんだけどHさん後輩Mの目の前で仁王立ちのまま正拳突きとか始めちゃって、Mは「揺れてる揺れてる!なんかブルンブルンしてる!」とか指さして腹抑えながら錯乱的爆笑状態だしね。

 で、あんまり酔ってなかったSは、さすがに手に負えなくなってきたから止めてもらおうと、黙って酒呑んでたKさんに話をふろうとしたらしいのね。

「Kさん!Hさんがヤバいっすよ!とめましょうよ!」

「そうっスよKさん!Hさん止められるのKさんだけなんスから!」

「揺れてる揺れてる!」

「おらー!おらー!」

「ぶはははは!Hさんマジで勘弁してくださいって!」

「Kさん!」

「Kさんッッ!」

「……」

「……H」

 促されてゆらり、といった感じで立ち上がるKさん。「ん~?」とかいいながらKさんに向き直るHさん。ちょっと張りつめる空気。そしてKさんは——

「俺も勃ったーッッ!!」

「「「なんでぇーーーッッ??!!」」」

 速攻だったね。Kさん、あっという間に短パンとトランクス脱ぎ捨ててんの。しかもHさんはいつの間にか上まで脱いでるし。無駄にいい身体した全裸男と下半身だけ全裸男が、2人向かいあってるわけ。誰か助けてくれって感じだよね。至急警察を求むって真剣に考えたくなるよね。

 で、身構えてるHさんに、Kさんもシャツを脱ぎながら近寄ると一言

「待たせたな小次郎!」

「遅いぞ武蔵!!」


?(゜Д゜)?


 待って待って。

 Wait a minute.

 小次郎ってなに。っつーかHさんも、なにノリノリで「遅いぞ武蔵」とか云ってんの。

 って、なに?!あんたらなにやりだしてんの?!いや「とう!」とか「なんの」じゃなくて!

 もうなんつーかS達も色々な意味でどうにもならない状態になっちゃったらしいんだけど、簡単に説明するとお互いに手を後ろに組んで向かい合って、ヲティムを振り回しながら、「なにくそっ」「ちょこざいなっ」とかいいながら、こー……ヲティムとヲティムをぶつけはじめたらしいのね。

 後にこれが某大学名物の「チンバラ(notチャンバラ)」だと知ったらしいんだけど、とにかくあんまりにもあんまりな状況に、とにかく爆笑するしかなかったらしいよ。

 で、ゲラゲラ笑いながら「負けるな武蔵ー!」とか「頑張れ小次郎ー!」とか応援してたんだけど、その内にKさんが

「ぬぅッ!鍔元を狙うとは卑怯な!」

「むははは!二天一流も一本刀ではその程度か!」

「くぅ!最早これまでか!」

 とか言い出して、いやもう、どっちが勝とうが負けようが限りなくどうでもいいんだけど、何故か時々T君も後輩MもSの方をみたんだってさ。

 で、その眼がもう、なんかめっちゃ期待してるわけ。「どうにかしてくれ」みたいな眼で見てるの。実際「S~なんとかしろよー」とかも云われたらしいのね。いやね、なんとかってなんだよって話なんだけどさ実際。

 で、KさんもチラチラSの方をみるらしいのね、チンバラしながら「はやくはやく!」みたいな眼で見てるの。少なくともSにはそう見えたんだって。なにか幻覚が見えるキノコでも喰っていたのかな。

 あ、話かわるけどさ。世の中には2種類の人間がいると思うんだよね。「期待されると断れない人間」「期待されると期待以上の事をやろうとしてしまう人間」ね。

 で、Sは明らかに後者だったみたい。

 借りてる部屋は二間続きの和室で、寝室と居間に別れていて居間の方で呑んでたんだけど、Sは何もいわないで立ち上がると、襖を開けて寝室に入って、襖を閉めたんだって。

 後輩MとかT君は「あれ? なんで止めてくれないの?」とか思ったらしいんだけど、それから数十秒たつかたたないかでスパーンっと音を立てて襖が開くとSが飛び出してきたんだって。

 結構思い詰めた表情しててさ、その顔見て後輩MとT君は「酔ってるとはいえ最強と準最強の悪ノリを止める為に身体を張る気合い入れてきたのか」って思ったらしいよ。

 でもね、視線を下げていったらさ、Sのヤツ、下に何も履いてない上に、ヲティムもおっきくなっていたんだって。それで仁王立ち。それは見事なフルチン仁王立ちだったそうな。(日本昔話調に)

 登場数瞬後に、もう大爆笑だよね。お前が期待されたことは2人の暴走を止めることであって、仲間に加わる事じゃないって。でも、ツッコミ入れようと思ったらその暇もなく、フルチン仁王立ちのままSが叫んだのね。

「待て待てぇぃッ!」

 いや、お前が待てと。

「うぬっ!何奴?!」

「鍔元を狙うとは武士道の風上にも置けぬ所業! 武士道の義により武蔵殿に加勢いたす!」

「おおっ! かたじけないッ!」

「小太刀風情が何を小癪な! 参れッ!!」

「応ッッ!!」


 もう救いようのないバカだよね。お前ら全員逮捕されてしまいなさいと。

 でもSのヤツは自分のヲティムをHさんに「小太刀」呼ばわりで、まぁ大きさを揶揄されたのが気に障ったのか、物凄い勢いで腰を動かして攻撃を加えはじめたらしいのね。腰の後ろで手を組んだまま、マッハピストンですよ。どこで覚えたそんな技

 助太刀がついて活気づいたのか、勢いと硬度を取り戻すKさん。そして応戦するHさん。腹を抑えてのたうち回りながら笑い転げる後輩MとT君。

 なんつーか、フォローのしようがないというか、ある意味地獄絵図だよね。さすがに友達の友達の話とはいえ聞いた僕も、どういうわけか目頭が熱くなったよね。

 繰り返しになるけど、確かに期待するような眼で見られていたかもしれないし、「どうにかしてくれよー」ってフリもあったかもしれない。

 だけど、その期待や「どうにか」ってのは「2人を止めてくれ」とか「オチをつけさせるかツッコミを入れてくれ」ってことであって「仲間に加わって盛り上げろ」ってことじゃなかったんだよね。

 なんつーか火に油注いでどうすんだと。この場合油というよりガソリンだよね。燃やすどころか爆炎させてどうすんだ、と。「期待されると期待以上の事をやろうとしてしまう人間」とはいえ、限度を知れと。

 ちなみに最後は三つ巴の鍔迫り合いから、二段突きを狙った小次郎が初太刀を武蔵にはじかれて、高速の二ノ太刀を繰り出そうとした瞬間に腰を傷めて、心ごと刀も折れて「小次郎破れたりーッ!」「無念ーッッ!!」っつってブリッジしながら倒れていったらしいよ。

 人間橋の頂点で力無く折れていくヲティムが、涙を誘う光景だったとか——って、ホントお前ら捕まってしまえって感じだよね。

 まぁその後1年くらいで、大学が忙しくなってSは道場をやめちゃったんだけど、噂によると、この合宿で行われた、このチンバラは伝説になって語り継がれているらしいんだよね。

「まさかあそこで助太刀が来るとは思わなかった」

 って。

 体育会系、それも格闘技系の集まりって、こういう話結構多いらしいんだけど、その中でもこれはかなりヤバいよね。

 ほんと、友達の友達の話でなかったら、こんな話出来ないよ。少なくとも、僕はこんな友達はちょっと勘弁願いたいよね。

 これは僕の友達の友達の話の中でも、かなり上位にくる非道い話なんだけど、智史君は他にどんな辛い過去友達がいるのかな? 個人的には「チンバラなんて日常茶飯事ですよ!」っていう返事を期待したいところだけどね!

 あれっ? なんでだろう? 涙がとまらないや。あははっ! 友達の友達の話だけど、なんでこんなことを誕生日に書いて、誰の目に触れるか分からないネットの海に放流してんだろうね? 救いようのない馬鹿なのかな?

 ハッピーバースデートゥーミー!!

 あー!!(断末魔)

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