『球体』に至るまでの三浦大知

 『球体』を聴いた上で、それに至るまでの三浦大知の音楽活動とその姿勢について思ったことを書きます。話長くなりがちですがご容赦を。尚、音楽評論ではなく一人のファンによる雑感です。ファンの戯言に興味はないという方はお戻り下さい。でも『球体』聴いて三浦大知カッコいいと少しでも心をよぎったならば是が非でも読んで下さい(矛盾)。また音楽評を含めた多角的なレビューは素晴らしいものが出たのでご紹介させて下さい。↓

 まず前置きとして。
 これまで三浦大知について積極的レコメンドをしなかった。当方男性で、とくに昔は女性ファンの数が圧倒的な中、三浦大知への心酔(笑)を人様に晒すのが躊躇われていたのだろう。情けない話だが。
 しかし『球体』を聴き、SNSの評価を見て、これは後押しできる最大のチャンスだと直感的に思った。今迄の三浦大知のアルバ厶は目一杯詰め込んだという印象で、コンセプトアルバムはなかった。聴き心地を含め一貫したコンセプトがあるというのは聴きやすい。
 その最大の機会に震えている最中、「初めて聴いた」「ノーマーク」「眼中になかった」「エキサイお兄さん」との、色々な音楽について呟いておられる様子の諸氏からの感想が目立った。無論、高評価こそが本旨で、これらの言葉は謂わば逆説的な強調に過ぎない。そう分かっていても、反射的に「おい!!馬鹿にすんなよ!!!」と心の中で反応してしまった。
 誤解して欲しくないが「音楽好き自称しておいて、ちゃんと音楽聴いてねえじゃん。プロデューサー変わったのかな?とか、出直して来いよ。」と思った訳では断じてないのだ。
 だって自分の音楽の聴き方と言えば、主に三浦大知や昔から好きな少数のアーティスト。次に三浦大知と彼の周囲のクリエイター・ライター・バンド・ダンサーから伝わってきた他アーティストの音楽。おまけ的にサブスクのライブラリへ良いと思ったものを無節操にぶち込む。後になって「あれ聴きたい」と稀に思えど、アーティストや曲の名前を覚えておらず探しようがない。シャッフル再生で奇跡の遭遇を待ち望む。多分音楽評論家が最も恐れていた聴き方を実践している。
 そんな僕が、どうして三浦大知を聴いていないというだけで、彼らを非難できようか、いやできない(反語)。
 しかし、芸歴20年選手の三浦大知は、一定数リスナーがいる状況に甘んじず、ずっと音楽活動を続けてきたのだと何としてもわかって欲しくてツイッターで三浦大知アカウントを立ち上げ、呟きを始めた。

 前置きで既に長いが、ここらが主題。
 まず上記の感想を見て、邦楽R&Bや邦楽ダンスミュージックが音楽通の間で如何に敬遠されてきたかを痛感した。(三浦大知好きはいざ知らず、ジャンルミュージックとしてこれらを応援してきた人は言葉にならない思いを抱えていることだろう)。
 そこで今一度。三浦大知は自身の楽曲の上ではR&BとEDM/ダンスミュージックをベースとしてきたこと、過去作も面白いということ、真摯に音楽と向き合ってきたのだということ。これらをアルバムを軸に振り返ることで概観しようと思う。三浦大知と音楽と時代とリスナーについて、超個人的主観からお送りします。経時的に①から⑤まで音楽ジャンル的な場合分けをしました。ジャンルの移り変わりではなく新たに挑戦し始めたジャンルと思って貰えれば。繰り返しますが、目的は音楽評論ではないので悪しからず。(過去ツイを元に纏めています)。

①R&B
 今作のプロデューサーであるnao'ymtと初めてタッグを組んだ『who's the man』は非常にR&B色の強いものだった。(このALはテーマが分かりやすい)。2000年代に活躍した、新世代洋楽R&Bソロアーティストにインスパイアされていると思う。かつて同事務所だった安室奈美恵さん経由のお仕事だとは思うが、1曲目から4曲目までnao'ymt作。当初からもの凄い入れ込みようである(笑)
 当時から既に、naoさんの書くメロと歌い回し(フロウでも符割りでも)は抜群に素敵で、大知くんはそれをサウンドから浮くことなく歌い上げられる稀有な人だった。(個人的に「Your love」が好きです)。実際、R&Bの救世主みたいに持ち上げられており、僕は勝手にその天才的なボーカルワークとR&Bを自然に邦楽に落とし込もうとする姿勢が界隈の高い評価を受けていると解釈した。
 しかし、洋楽好き日本人に刺さらないのは、日本語の意味を十分に理解できるだけに、僕が巧みだと感じた歌い回しも却って「邦楽R&Bってやはり不自然」という評価に繋がる、と勝手に解釈し、残念に思っていた。

②ダンスミュージック
 続くアルバム『D.M.』。この頃からR&Bに加えEDM/ダンスミュージック色の強い曲が出され始める。naoさんとの「Black Hole」はR&B+ダブステップである。日本人アーティストとしてはダブで歌ものをやるというのも先進的だったかと思う。(ちなみに代名詞みたいになってる無音ダンスはここから始まりました。マジで音が聴こえてくるので音源を聴いた後でライブDVD『Door to the unkown』必見)。
 ただ日本の大型夏フェスで有名DJ/プロデューサーがヘッドライナーを務めるようなことは考えられなかった時代。(彼らは夏フェスのダンスステージのようなクラブミュージックをかけるステージにはよく出演されていたと記憶しています)。これに洋楽好きのリスナーが反応しなかったとしても頷ける。
 続く『The Entertainer』では三浦大知の持ち得る得意な音楽を最高潮にまで高めた。過去最高傑作みたいなこと言ってた気がするが、それ程にそれまでの三浦大知が詰まったALで、同名ライブツアーだった。

③ポップス
 そして奇しくも、そういうミュージシャンが夏フェスのヘッドライナーを務めるような時代になったとき、三浦大知は思いっ切りポップスに挑戦するのである。めちゃくちゃに底抜けに明るいという意味でポップス。
 アルバム『FEVER』の三浦大知は僕が見た中で一番苦心しているように感じられた。何でも出来ると思っていた彼が、J-POPを説得力をもって歌うことがどれだけ難しいか。(方向転換を訝しがるファンも少なくなかったでしょうから、それも含めて)。
 うまく説明出来ないが、ポップスにはポップスの難しさがあるのだと思う。細かい技術では誤魔化せない部分がある。その努力の甲斐もあってか、最近では「music」が当時より盛り上がっているように映る。あくまで僕にとってはですけど。(今でもライブ終盤にやる曲なので大事にしているのだと思う)。

④新しいR&B+最先端ダンストラック
 遂に唯一のゴールデンタイム音楽番組Mステへの出演である。同番組でも披露した「cry&fight」「EXCITE」は知名度も高いだろう。(これらが収録される『HIT』はフューチャー/アンビエントR&B色の楽曲も多い)。
 僕はこの2曲に対して「かっけえええ」と思っていた。アンダーグラウンドで活躍するDJ/クリエイターと組んだ上で三浦大知らしさを発揮している。しかも洋楽メインストリームDJ最盛期である。「一気に音楽性ともに評価されちゃうぞ」「アルバム聞いて大知くんの全てが評価されちゃうぞ」と早とちりをしたが、あまりそういう声は聴こえてこなかった。
 メロのポップさのせいか「邦楽ダンスミュージックは不自然」という評価を下されていると解釈した(あれ?デジャヴ?)。
 ちなみに、テレビの三浦大知しか知らず、彼をエキサイお兄さんとお呼びの諸氏は「cry&fight」のDVD・MV盤(振付にフィーチャーしたchoreo盤ではない)のseihoさんとのlive sessionを。それから「EXCITE」のT3のcarpainterさんのセルフremixを騙されたと思ってお聴きください。(T4のQuartro330さんのremixもイイよ)。

⑤ナニコレ?
 いよいよ『球体』である。もう音楽好きの方が評してくれているが、『球体』は感覚的に洋楽のエッセンスを邦楽で再現するといったものではない。三浦大知が標榜する唯一無二の音楽を死角なしに文字通り表現できたのではないかと思う。
 ただ分かってほしい。『球体』はポップスターの突然の覚醒による産物でも、一朝一夕の代物でもなく(実際製作期間三年半)、これまでの三浦大知と文字通り地続きにある(naoさん以外の作品も含めて)。今までの音楽への取り組み方やエッセンスが過去作にも詰まっているのだ。
 それと同時に『球体』という作品だから多くの人に届いたのも事実。三浦大知本人は、テレビメディアを通じたブレイクに関して「(テレビのブレイクに限らず今までも)ステップアップできる度に自然とリスナーの輪が広がっている感覚」と述べている(意訳です)。三浦大知は『球体』でもまた一つ大きなステップアップを果たした。

 以上、今迄の三浦大知についての概観。この長ったらしい文章を通じて、「トレンドと対峙しつつ音楽を作るという根本の姿勢を彼なりに貫いてきた。」「そして今までも面白いものを実際に作ってきたのかもしれない。」そんな風にほんの少しでも感じてもらえればそれ以上に嬉しいことはない。
 そして、これからの三浦大知。naoさんとのシングルが出る。「ファンの期待を裏切り超える」を信条とする三浦大知であるが、コアなファンでも、きっと今迄以上に予想がついていないはず。何が起こるかは分からないが、これからの三浦大知に着目したいと思ってもらえたら嬉しい。

 「ツイートと同じ話読まされたのですが」という方含め最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました。理解を深めたいので「お前勘違いしてるわ」というツッコミ+「君は理解が足りない」という講授、お待ちしております。もちろん普通の感想でも。(ツイートと同じ話読まされたという感想には直接謝罪させて頂きます)。

 ふぅ、ファンって暑苦しいよね(自戒)。

※本当はボーカリストとしての三浦大知ファン、次点でダンスボーカリストとしての三浦大知ファンなので、ボーカルとダンスについても喋りたい。
※注目された理由としてのシングルやタイアップベースではないアルバム製作の価値も記しておくべきでした。誤解かもしれないけど、星野源さんが言いたかったのはこういうことなのかも。(僕はコンテンツが音楽シーンに早々と消費されてしまう危機感まで邪推しましたが)。いずれにせよ源さんいつもありがとう。三浦大知以上に多忙でしょうが、新アルバム出たら買います。お体ご自愛下さい。
※そして恐ろしいことに、2010年からの熱心なフォロワーなので、ファーストとfolder時代が抜け落ちてます。ベストアルバム発売時の記事貼りますね。これまたFNMNLさん。(いやこれ読めば良かったじゃん。このリンクを貼れば済んだ話じゃん。音楽評も纏めらているし。そうなんです、Your Loveの歌い回し、そこが最高なんです。特にライブだと。当たり前だけどHIPHOPが他ジャンルに接近して歌の領域に影響を与えたのは今に始まったことじゃないんです。逆もまた然り。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?