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J3 第11節 レビュー【アスルクラロ沼津 vs 鹿児島ユナイテッドFC】積み上げあれど賽の目次第

2021.6.13 J3 第11節
アスルクラロ沼津 vs 鹿児島ユナイテッドFC

こんにちは。
今回もご覧いただきありがとうございます。
今回のお相手は、沼津。

沼津戦は印象深い試合が多いですが、敵地での対戦は鬼門。
その沼津は開幕3戦は2勝1敗とまずまずのスタートでしたが、5月の泥沼4連敗などでその後は乗り切れず。

前節熊本戦で久しぶりの白星を挙げていました。また嫌なタイミングで勝ってもうて。

さらには鹿児島。
怪我が続き、かなり厳しい台所事情。様々なイレギュラーもあった一戦でした。選手起用の理由や、結果も考察していきます。

ご笑覧ください。

0.スターティングメンバ―

TACTICALista_2021A沼津戦スタメン

まずは沼津。
「フォーメーションは電話番号」だとは思いつつも表記に迷いましたが、スタート時は4-1-4-1と表記するのが理解しやすそうです。

中盤3枚は、20番佐藤・6番北がIH、15番菅井がアンカー様のポジショニングを取っていました。最終ラインまで落ちる鹿児島DHまで追っていたのは主に20番佐藤でしたが、6番北もタスク的にはIHと見て良いと思います。

ただ中盤は流動的でもあったので、結局は「そこで何をするか」。鹿児島の中盤3枚と噛み合わせてビルドアップを阻止する狙いは持っていたはずです。

また、CBまでのプレスは11番染矢が担うことも多く、その運動量には手を焼きました。が、それが仇になったことも、「なりかけた」ことも。ここについては、このあとすぐ。

そして守備ブロックでは、15番菅井や33番高橋が最終ラインに吸収され、5バック化する場面も見られました。前節以前を詳しく予習出来ていないので断言できませんが、大外SH・インナーSBなどで相手陣地を攻略する鹿児島対策と見ても良いかもしれません。

…スタメン振り返りというより沼津の挙動振り返りになりました。
続けて鹿児島のスタメンです。

まずは白坂に代わり、大西が久しぶりにスタメン。GKは競争が激しくて良い傾向ですね。

そして、ここで先ほどの11番染矢の件です。
右SH染矢は田辺まで追い、衛藤が空く場面が数多くありました。2点目なんかはゾーン2にて「衛藤空き」が起こり、サイドで局地的な数的有利を作り出すことができ、五領のクロスに繋がっています。

気になったのはゾーン1のビルドアップで「衛藤空き」が起こった場合。
以前の大西ならそこでボールを持った時、SBまでのミドルパスもサッと送れていたのですが、今節はほぼ無し。どうしたんでしょう。試合勘の問題や、ピッチ上でしか見えない景色があるとは思いますが、おや?と思った一幕です。

また天皇杯で負傷交代した木出に代わり、左SBに衛藤。右SBには野嶽惇が落ちてきて、右SHには三宅を起用。トップ下には五領が入りました。うん、妥当です。木出くん、早い復帰を祈ります。

SHについては逆足配置か!と思いましたが、山谷投入時は縦への推進力の他、カットインも求められていたとのことなので、カットインからのフィニッシュ・カットインでDF引き付けて逆サイドの米澤でフィニッシュなどの形を、大島監督は思い描いているのかもしれません。

ーー後半途中から入ったが、ピッチに立つ前にどのような指示を受けていたか?

自分の特徴である縦への推進力だったり、ドリブルをカットインして攻撃に厚みをかけてくれと言われました。

いずれにせよ、パパス監督とは違った大島監督の思想が見えてきました。ちょっとずつ理解出来てきた気がします。

左右問題で言えば、野戦病院状態の中、左SBに放られた衛藤の挙動も試合を優位に進める為には、重要なファクターでした。ざっと振り返ります。

1.左サイド衛藤の振る舞い

そもそも熊本時代含め、左で起用されたことってどのくらいあるんですかね。詳しい方、良かったらお教えいただきたいです。

いずれにせよ、慣れ親しんだサイドの逆で起用されると、体の向きやらボールコントロールにエラーが起きがちですが、衛藤の場合ほとんどそれは無かったのではないでしょうか。

というのも、基本的には右サイドでのプレーと同じように、幅を取った位置でタッチラインを背にしてビルドアップに関わっていたので、処理する情報が少なく、そういったエラーは起きにくかったのだと思います。ポジショニングの強みの1つですね。

また、攻撃参加ではインナーラップはほとんど無く、米澤の外側から駆け上がりオーバーラップがメインだったかと思います。

ここでも、認知的な負荷を抑え、得意な形に持ち込もうとしていましたが、流石に左足のクロスは精度を欠くのか、そこからクロスはありませんでした。まぁ、そもそも無理なお願いをしているわけで、そこまでを要求するのは酷な話ですが。

一方、ゾーン2でCBがボール保持して前進しようとする場面では衛藤がインナーに位置取って、田辺→米澤のルートを開通させる動きをしていました。

15:00辺りのプレーでは、タイミング良くインナーに移動することで11番染谷を中央に引きつけ、田辺→米澤を通す手助けをしていることが分かりやすいかと思います。

挙げ出せばキリが無いですが、全体的に見て今節の貢献は、勝利を近づけたと評価して良いのではないでしょうか。

さらに、その衛藤の後方では、衛藤だけでなくチームの支えとなった選手がいました。

2.田辺が必要な理由

先ほどは、衛藤が手助けしてくれれば田辺→米澤はそりゃ通るよね!みたいな言い方をしましたが、そんなに簡単じゃないことは理解しているつもりです。

その少し前、12:15辺りの米澤へのパスもそれが通っちゃうならなんでもアリだよね!感があります。

今シーズンから左CBで起用され続けている田辺。
中央での跳ね返しという文脈では不十分な部分もありますが、やはり現状外せない選手だなと改めて実感しています。

どの試合を見ても、前線へのパス成功数、特に米澤へのパス成功数を数多く記録していますが、パス強度や出す時の体の向きなど、卓越しています。

それに加え、今回取り上げたいのは41:30辺りのプレー。

TACTICALista_2021A沼津戦Fijar

場面は、田辺が自陣ペナ内での持ち上がりから始まります。
運ぶドリブルによって、沼津の選手は田辺に行くか?後ろのスペースか?という判断を求められています。Fijarの類ですね。

運ぶドリブルの導入知識には、以下の記事をどうぞ。

ここでは、前線の選手が沼津DFラインをピン留めしていたこともあり、中原がライン間で受けることが出来ました。

このように運ぶドリブルやパスで前進を促せる田辺は、やはり必須の選手の様に思います。

3.先制点と布石

次は先制シーンについてです。
なんだか長野戦でもこんな項書きましたね。
しかし、狙い続けた形が奏功しているということを表していると思います。

今回のキーワードは「サイドチェンジ」。
まずは布石の25:45~。

TACTICALista_2021A沼津戦布石

場面は野嶽惇がファウルを受けたところから。
上図のように、沼津は右サイドの11番染矢まで中央に寄ってプレスを実行していました。

FKのリスタートから鹿児島は、各駅停車で衛藤まで届けますが、サイド密集と11番染矢が田辺と衛藤の選択肢を迫られており、スライドが追い付きません。

その密集からいち早く抜け出した中原が、6番北の脇で受けて米澤まで展開しました。この場面は15番菅井と6番北が後方で揃っている場面で、中央の人出が厚い状態でしたが、米澤はカットインを選択し、中央でロストします。

その「中央に人を揃えさせた」課題を解決出来たのが、先制点。

TACTICALista_2021A沼津戦先制点

始まりは再度、野嶽惇。
今回は、先ほどの場面より沼津プレス隊が厳しくチェックに行けていません。

そのギャップを利用し、田辺までスキップパス。これが最初の違いです。
田辺→衛藤と繋ぎますが、このスキップパスにより殊更スライドが間に合わない11番染矢は幅を取る衛藤まで追い付けません。

さらにこの時、三宅が15番菅井を引き付けており、先ほど同様中原がライン間に侵入した時には20番佐藤が追走するのみ。20番佐藤を振り切った中原はパスを受け、米澤にスルーパス。米澤が冷静に沈めました。

正直、これら各々が全て意図されたものかは不明ですが、少なくとも何度もサイドチェンジの局面は作り出してとり、沼津のサイド密集を抜け出して奪いきる狙いは見えていました。

この辺りを見ると、サイド密集を裏返せなかった長野戦の経験値がチームを熟成させていることを確認出来る得点でした。

4.右サイドの山谷

最後に、リーグ初得点を挙げた山谷について少しだけ。

パパス体制では、米澤から左サイドを「奪える」選手として(個人的な)注目を浴びていました。

今節は右サイドでのプレーでしたが、51分のような「劇走力」で自陣まで戻ってボールホルダーにアプローチしたり、スタメン振り返り項で触れたように、縦への突破もカットインも出来ていました。

1on1でも個人のプレーで選択肢を迫れて、トランジションも「気持ち」で凌げるとなると、(野嶽惇をSBで使わざるを得ない状況が続くのであれば)ファーストチョイスにもなり得ると思っています。

大島監督がどう考えているかは分かりませんが、個人的な信用度は上昇中な上、数字上の結果も付いてきて良いアピールになったのではないでしょうか。

5.あとがき

これまで触れてきたように、全体的な配置や相手の出方を見た攻略は、チームとして意図を持って出来ていた今節。

しかし、細部に目を向けると不安要素もありました。

セットDF局面では32:50などの単騎アタックになっていた三宅・萱沼の前プレ、69:30などの前線4人が横並びになって深さは無いの!?な状態のプレス。

ボール保持についても、立ち位置で選択を迫ったり予防的ポジションを取ったりすることは少なく、そのことでピッチ内における個人の質に依存しすぎたり、被カウンターを受けたりなどの場面が見られました。

大宮に就任した霜田さん曰く、「貯金でプレー」していたことが多く、もっと言えば賽の目がどう出るか?に頼っている状況だったと思います。

――ミーティングで選手に「貯金でプレーするな」と伝えたそうだが、どういった意味か。
「これまでもいろいろなところで指導者として選手たちに向き合ってきましたが、選手たちの能力や経験、感覚、才能だけに頼ったチーム作りはあまりしたくないと思っています。良い選手の発想や能力で試合に勝つことももちろんありますが、どこかで限界がきます。選手の貯金がなくなったときにチームが勝てなくなるという状況は避けたいです。ですので、どんなに良い選手でももう一度貯金ができるようなサッカーをやりたいと思っていますし、そういった練習やミーティングをしたいと思っています。

但し、暫定指揮+戦力的な窮地の中での試合。
凌ぐだけで精一杯、だけでなく白星を挙げられている時点で優秀な方だと思います、大島監督。

この優秀な方を「被害者」にしない為にも、早い決断が待たれます。それは続投なのか新任なのかは分かりませんが。

とにかく、次の試合はこの体制で動かざるを得ないであろう上、暫定体制では賽の目を我々優位に引き寄せることも重要だと思っているので、それを祈るばかりです。

積み上げてきた成果と、危うさと。
次節もよろしくお願い致します。

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