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『不寛容論』【過去メルマガPick Up】

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今回は、、、、

●不寛容論

著者:森本あんり
出版年:2020年
出版社:新潮選書

リンク:
https://tinyurl.com/ya6hcmkt

▼140文字ブリーフィング:

本書はめちゃくちゃ面白かったです。
面白すぎたので、
近くPodcast/YouTubeで紹介する予定です。
お楽しみに。

詳述はそちらに任せるとして、
ここでは簡単に解説します。
本書の主人公は、
アメリカの建国時代の重要人物のひとり、
ロジャー・ウィリアムズです。
ウィリアムズはあまり焦点が当たることが少ないし、
まして日本では名前を知っているという人も少ないでしょう。
私も知りませんでした。

しかし、アメリカ史を考える上で、
彼は最重要人物のひとり、
というのが近年の歴史研究家が主張しはじめていることなのです。

なぜか。

アメリカは宗教国家です。
具体的には英国国教会の支配から逃れるため、
ピューリタンたちが政教協力体制の新国家を建設するのですが、
独立以前には、建前上はイギリスの植民地だったわけです。
そうすると、英国国教会からの影響を強く受ける。
彼らから派遣された神学者や牧師や政治家が影響力を振るう。

その影響力のなかには、
先住民の取り扱いということも含まれます。
「先住民に洗礼を授けてキリスト教徒にせよ」
という主張や、
「契約という概念を持たない先住民から、
 契約という形で土地を奪え」
という主張をイギリスの薫陶を受けた指導者がする。

それに対して、
断固「NO」と言って、
寒空の荒野に放り出され、
コトンという神学者とバチバチの論争をし、
「政教分離」と「良心の自由」という、
現代世界では常識的な法概念の原石をつくったのが、
ロジャー・ウィリアムズなのです。

ロジャー・ウィリアムズは、
ネイティブアメリカンと心の交流を持ち、
寛容を彼らから教えられた、といいます。
つまりネイティブアメリカン側からすると異教であり、
政治的には敵であるイギリス人が、
彼らの土地で礼拝や祈りをするときは、
先住民たちもそれを決して邪魔せず、
一緒に頭を垂れた。
「私はあなたが帰依するものを知らないが、
 何かしら神聖な時間を、
 私たちは邪魔しない」
という態度を取った。

イギリスからの侵略者である多くのピューリタンは、
その逆のことをネイティブアメリカンにしたのです。
彼らを「文明化」するという大義のもとに、
先住民をキリスト教化していった。
それに対しロジャー・ウィリアムズは断固反対したわけです。

それは信仰の不在からではなく、
燃えるような信仰心からでたことだった、
というのがこの本の最も重要な主張です。
引用します。

→P134~135 
〈だからウィリアムズは、
そのような宣教をはっきり拒否するのである。
自分がその気になれば、何千という先住民を、
いや彼らの国全体を、
キリスト教へと回心させることだってできる、
と彼は豪語している。
先住民の間で彼が得ていた信頼の厚さを考えれば、
それも「空威張り」とは言えないだろう。
けれども彼は、洗礼という「儀式」で
外面的なキリスト教徒を作ることには反対なのである。
むしろそれは、反キリストの業である。
外から仕向けられた回心は、真の信仰を伴わない。
ウィリアムズにとって、
伝道とは「回心者の獲得」ではない。
先住民であろうとイギリス人であろうと、
ただ神の恵みによって生まれ変わることを求めるだけである。
信仰は、内心の自由からのみ生まれるからである。
以上を通して分かるのは、
寛容に対するウィリアムズの信念が
すべてただ一つの枢要点から流れ出ている、ということである。
本章で見てきたように、
彼は真の教会は真の信仰者のみで作られるべきだと主張した。
教会員でない住民に宗教的な宣誓をさせることに反対した。
先住民を形ばかりのキリスト教徒にすることに反対した。
これらはみな、
「内心の自由こそ、人間のもっとも尊い価値であり、
人格の中心である」と彼が考えていたからに他ならない。
特に注目すべきは、異教徒に対する彼の寛容が、
キリスト教への無関心や軽視からではなく、
むしろ燃えるような信仰心から出ている、という点である。
無宗教ゆえの寛容ではない。
信ずるがゆえの他者への寛容である。
だからこそ、それは強い。
たとえ主流派や大多数と異なる意見でも、
たとえただ一人で冬の原野へ追放されても、
なお貫き通す不屈の意志となる。
それが社会の体制を根本から変える力になってゆくのである。〉


、、、本書の冒頭で紹介されるのですが、
良く、「一神教は不寛容、多神教は寛容。
だから日本人は寛容」という床屋談義がなされますが、
それは実質的にも統計的にも間違いです。
データは多神教の日本人が、
国際標準でも極めて不寛容な民族であることを示しています。
印象論とは逆に、
実はアメリカは最も寛容な国のひとつです。

佐藤優さんが別の本で言ってたのですが、
本当の寛容って、
「自分の中に強い信念がある人」にしか持てません。

なぜか。

強い信念(信仰)があると、
他の人の信仰もまた、
自分の大切な信仰と同じく大切だと分かるからです。
あと、本当に強い信仰があると、
その他のことは「ささいなこと」と思えるからです。
ロジャー・ウィリアムズの人生は、
その実証となっています。
今の時代、寛容を考える上で、
本書は必読の一冊です。
(2,044文字)

YouTubeでも解説していますので、こちらもどうぞ。



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