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『ベン・イズ・バック』【過去メルマガPick Up】

主催するメルマガ
『陣内俊の読むラジオ』の、
過去記事からピックアップして、
読んだ本や見た映画を紹介していきます。

今回は、、、、

●ベン・イズ・バック

監督:ピーター・ヘッジズ
主演:ルーカス・ヘッジズ、ジュリア・ロバーツ
公開年・国:2019年(アメリカ)
リンク:
https://tinyurl.com/ya8awmmc

▼140文字ブリーフィング:

私の尊敬するジャーナリストの神保哲生さんが、
『ドープ・シック』という本を翻訳しています。
昨年読んだこの本は私の中でも大きな爪痕を残した本で、
たしかメルマガでも紹介しました。

、、で、確かダースレイダーとのYouTubeだったと思うのですが、
『ドープ・シック』を紹介する動画のなかで、
神保哲生さんが言及していたのが、
本作の原作『ベン・イズ・バック』なんですよね。
神保さんは原作を読んで泣いた、と言っていました。
何が描かれているかというと、
鎮痛剤の依存症というアメリカの社会問題です。
神保さんもいっていたのだけど、
これは日本人に理解するのは極めて難しい。

90年代にパデューファーマという大手製薬会社が、
大規模な宣伝予算を使って全米に広めた、
「オキシコンチン」という鎮痛剤の依存症の影響は、
アメリカという建物を蝕むシロアリのように、
社会の根幹を腐らせ続けています。

神保さんが言っていたのだけど、
タイガーウッズの復活劇を日本人はほとんど理解していないのだそう。
(余談ですが、事故からの回復を祈ります)
どういうことか。
タイガーウッズが戦っていたのがまさに、
鎮痛剤中毒だったからです。
これによって本当に多くの命が失われていて、
今も毎年交通事故に匹敵するほとの人が、
この薬の依存症で命を落としている。
リハビリ施設は全米にあるけれど、
この依存性は本当にきつくて、
離脱症状もひどい。
いちど依存症になった人が、
社会に復帰するのは本当に難しい。

麻薬とか覚醒剤とかアルコールとかニコチンとか、
依存性のある物質というのは世の中に多々あれど、
オキシコンチンはそのなかでも本当にタチが悪く、
多くの将来ある若い人々の命を奪い続けている。
ドラッグ、アルコール、ニコチンと違うのは、
依存症の入り口が本人の好奇心や非行、
現実からの逃避ではなく、
信頼していた医師からの、
お墨付きの処方箋だというところです。
これは、戦闘地帯で打たれて死ぬのと、
町を歩いていて突然狙撃されて死ぬのが違うぐらいの、
大きな違いがある。
つまり依存症者は少なくとも入り口は、
純粋な被害者なのです。

当時オキシコンチンを処方されたのは、
学校のスポーツで怪我をしたり、
スポーツ競技で怪我をした、
たとえばタイガーウッズのような人々です。
医者は彼らに、パデューファーマに言われるままに、
「この薬はまったく安全です」といって、
処方し続けました。
しかも病院や医師は、
処方すればするほど、
パデューファーマから経済的な見返りを受ける、
というインセンティブ構造もあった。
(パデューファーマは後に敗訴し、
 多額の賠償金を被害者に払いましたが、
 社会に蔓延したこの「汚染」は元には戻りません。)

この依存症がもたらす地獄はすさまじいわけですが、
さらに困ったことに、
依存症者が次の薬を手に入れるために、
薬の売人になるという、
ネズミ講的な広がりに歯止めがかからないわけです。
法律が改正され強い鎮痛剤の処方が制限されるようになっても、
依存症者がいるかぎり、闇マーケットが広がり、
汚染はとどまるところを知らない、、、
という、けっこう絶望的な状況なのです。

Amazonのレビューを見るとわかりますが、
この映画、日本の視聴者は、
ほとんどまったくピンと来ていません。
その理由は、日本人がタイガーウッズの復活のすごさが
分からない理由と同じです。
日本とアメリカで、
この鎮痛剤の薬物依存という社会問題の文脈が、
まったく共有されていないわけです。

タイガーウッズの復活のとき、
多くの米国人が涙を流したといいます。
その理由はただのカムバックではなく、
「あの地獄から這い上がってきた」
という苦しさと過酷さと壮絶さが、
身内に依存症と闘う人がいる多くのアメリカ人には、
痛いほどよく分かるからです。

、、、よくぞあの地獄から、、、
という涙なのです。

こういう背景を知ってこの映画観たら、
泣かずにはいられません。
主演の2人の演技も素晴らしいです。
(1,127文字)


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