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海獺(ラッコ)の季節

出稼ぎ中の娘が連休に帰省した。
寄生 ── あ、いや、帰省するのはいいけれど、海獺ラッコが2匹目になるとひとつしかないソファの争奪戦が始まる。
そうか ── 前回は確か12月、寒い季節だったので、床(というより、床暖房)に張り付いていた。さらに気温が上がれば、暑苦しいソファより再びひんやりとしたじか床や畳が心地よい。
今がちょうど、
海獺ラッコの季節
というわけだ。

海獺ラッコがトイレに立った隙を逃さず若海獺ラッコがプールを占拠し、ボタンがいくつも付いていたり、表面を指で叩いたりこすったりする『貝』を腹の上でいじっている。
狭い部屋に2台のプール(ソファ)を置くわけにもいかないし、2段プール(ソファ)などというものは世の中にないし(あるのかな?)、そもそも若海獺ラッコはめったに帰って来ないからか、老海獺ラッコはどうやらこの時ばかりは定席じょうせきを譲ってやる気配である。

かつて台所以外は和室の時代、家中いたる所がプールだったはずだが、海獺ラッコ族は存在せず、それは単に畳上の『ごろ寝』と呼ばれていた。
リモコンもケータイも存在していなかったので、片手で頭を支えたり、座布団を折り曲げて枕を作り、横向き『ごろ寝』で白黒テレビを見ていた。子供たちは仰向けやうつ伏せになって『少年サンデー』の『伊賀の影丸』や『なかよし』で『リボンの騎士』を読んでいた。
テレビのチャンネルを変える時はもちろん、起き上がらねばならなかったし、黒電話が鳴り始めたらあわてて廊下まで走って行った。
子供どうしで黒電話を使うのは許されなかったので、友だちと遊びたい時はもちろん、その家まで走って行って、
「あーそーぼ!」
と叫ばなければならなかった。
玄関にドアベルのある家は限られていて ── いや、引き戸はたいてい鍵がかかっておらず、開けて叫べば友が走り出てきた。

海獺ラッコ定席じょうせきを奪われた老海獺ラッコは、仕方なくマッサージチェア上で貝殻に文字を打ち込んでいる。
海獺ラッコは貝殻から伸びたコードの端を耳孔じこうに入れて何か口ずさんでいるようだ。

人類は海獺ラッコへと ── 『進化』しているのだろう……たぶん。

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