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LIVE演奏よりLIVEバク転

中学2年の同級生でビートルズを紹介してくれた(シングル盤の『Let it be』と『Get back』を貸してくれた)女の子を、今も『特別のひと』と思っている、と書きました。

高校時代にもひとりいました。
1年の時私に、というより、そのクラス全員に井上陽水を紹介し、アルバム『断絶』を持ってきて聴かせ、
「いいだろう? ── 俺は聴いているだけで涙が出てくる」
と言ったM君である。

この人は個性的な人物で、陽水以外の面でもクラスメイトに『思想的』影響を与えました。
── 思想? そう、管理の厳しい市立や町立の中学を卒業して県立高校に入って来た我々に、『高校では何をやってもOK』と教えてくれました。

マガジン『アノ人の正体』に入れるべきかもしれませんが(一応入れておきますが)、半世紀たった今も友人関係を保っているので、『奇人変人コーナー』と一緒くたにするのは迷うところです。

そのクラスで彼が最初に注目されたのは、
「学級文庫を作ろう!」
と提案したことでした。
そして、自宅から、前年発売され大ヒットしていた奈良林祥センセイの『How To Sex』やゲイ雑誌『さぶ』を持ってきて教室後部の棚に並べ出したのです。
共学校でもあり、今ならレッドカードでしょうね。

これだけなら単なる問題児ですが、彼は学級文庫の『持続性(今でいうSustainability)』まで考えていました。
昼食時間に購買で瓶入りの牛乳を売っていましたが、空瓶を持って行くと5円だか10円だったか、返金がありました。生徒の中には、
(そのうちまとめて持って行こう)
と思いつつ、教室後方に放置しておく者もいました。
彼は『なんとなく溜まった』その瓶をまとめて(本来の持主には無断で、でしたが)購買に持って行き、その金を貯めて新しい本を買う、というシステムを確立したのです。

教室の天井ほぼ中央に高さ50センチほどのはりが下がっていましたが、彼はある日、そのはりの後方に向いた面にヌードポスターを貼りました。
記憶の中では『平凡パンチ』のグラビア『麻田奈美のりんごヌード』ですが、どうだったんだろう……。
このポスターは教師からは見えず、教室後部の生徒は授業中顔を上げれば……という『完璧な仕掛け』でした。

もちろんセクハラ(という言葉はなかったけれど)該当事案だし、当時も女子生徒が騒ぎ出せばクラスにおける彼の立場は危うくなったでしょうが、ほとんどの生徒は、
『ユニークな出し物』
として面白がっていました(……と思うんだけど)。

ところで、M君が持ってきたアルバム『断絶』の中で、私が好きだったのは『白い船』と『愛は君』でした。

今聴いてみると、M君が「涙が出てくる」と言ったのも『白い船』だったのかもしれません。

さて、表題の『オチ』に近づいてきました……。

音楽の授業で、
「チームを作って1曲ずつ演奏をしなさい」
という課題が出たことをきっかけに、M君を含む男子5人組でバンドを作り、Beatlesの『Hey Jude』をりました。
私はギター(この時点ではエレキでなくアコースティックだったかもしれない)、M君は(音楽室の)ドラムでした。

最後の「ダダダッダー、ヘイジュード」の繰り返しを誰も止めないので延々と続き、最後はブーイングの嵐でした。

この成功(?)に調子づいた我々はそのままロックバンド『Orange』を結成し、体育館兼講堂の舞台裏中2階を勝手に占拠して放課後や昼休み、時に授業をさぼって練習していました。
M君は中古のドラムセット、私もエレキベースを買いました。

2年の秋になり、我々のバンドはまだ人前で演奏できるようなレベルではなかった。
けれど、リーダーのK君が、
「1学年下の彼女に『体育館で演る』と宣言した。今さら引っ込められるか! 嫌だというヤツはオレが殴る!」
と顔を真っ赤に咆哮するので、一同仕方なく従う羽目になりました。

ここで問題だったのは、多くのグループは体育館での演奏時間を30分ずつ確保したのに対し、K君が、
「たった30分でオレらの良さがわかるか!」
とかなり強引に1時間、『枠』を取ってしまったことでした。
彼女に約束した、と張り切るK君と、緊張感などは無縁のM君以外は憂鬱な気持ちでその日を迎えました。

演奏したのは(今もはっきり憶えているのは)、
The Beatlesの『All my loving』、『While my guitar gently weeps』、『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』、Chicagoの『長い夜』……

ちなみに、私はビートルズの中で一番好きなのは職人肌のジョージで『While my guitar …』を推しました。

メンバーの中では私ひとりがフォーク系であり、アコースティックギターでチューリップの『心の旅』を弾き語ることになっていましたが、
「旅立つぼくのこころを~」
から始まるアルペジオ部分で、指が(緊張で)まったく動かず、大恥をかきました。
ま、それはともかく……

練習済みのレパートリーが全部終わっても、まだ時間が余っていました。
「あの曲やるか?」
「いや、無理無理」
なんてささやき合っていると、観客がざわめき始めました。

── その時です。

ドラムのM君が持ち場を離れ、ステージ最前線まで来ると、いきなり『バク転』をしました。
他のメンバーはあっけにとられました。
彼はさらに、ステージ上を端から走って行って『前方宙がえり』も披露しました。

観客席は大拍手です。

いやあ……演奏後の拍手をはるかに超えていましたね……。


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あべみょんさんの下記オレンジてんこ盛り記事に『Orange』連想でコメントを書いているうちに、このエピソードを記事化したくなりました。

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