【第三十三場B…にぎわうカスベガス】

 アンアッピの焼いたアップルパイは不思議なパイでした。どんな人でも、ひと口食べると笑顔になって、いい人になります。いい人は、もっといい人になります。困っている人を見ると、すぐに何とかしてあげたくなってしまうんです。助けてもらった人が、お礼に何か渡そうとしても、決して受け取りません。ただ『ありがとう』という言葉が聞きたくなるんです。そのうち、街では何でもタダで食べられるようになって、誰でもタダで働いてくれるようになったのです。とうとう、街にはお金が必要なくなってしまいました。
 今では、困っている人を探すのが大変で、取り合いが起こる始末です。もちろん、それも笑いながら譲り合っています。どうして、いい人になるかと言うと、それもそのはず。わたしの下には、ありがとう星人のおじさんが埋まっていました。おじさんは、埋められてからも、ずっと、ありがとうエキスをわたしに吸わせてくれていたのです。弟や妹たちも、たっぷりエキスをいただいていました。
 そのうち、噂を聞いた旅人たちが、たくさんカスベガスに集まってきました。中には、ドクダミシィに、ありがとうエキスを吸いとられた人もいましたが、パイを食べると元より断然いい人になっていきます。そして、その頃には、わたしの弟や妹たちも、たくさんのリンゴを実らせるようになっていました。カスベガスに住む人がどんどん多くなっていきました。初めは、助けてもらいたくて来た人たちも、パイを食べると助けたい人に変わります。ますますカスベガスは大きくなって、にぎわっていき、とても平和な月日が流れて行きました。

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