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キャンプ場とレベニューマネジメント

「レベニューマネジメント」という言葉を聞いたことありますか?ざっくり言うと、ホテルの宿泊料が日にちによって全然違うアレです。

あ、ちなみにキャンプ場の話は後半まで登場しません。笑

レベニューマネジメント・・・在庫の繰越しができないビジネスにおいて、需要を予測して売上高(レベニュー)の最大化を目ざした販売の管理方法
(利益に貢献「レベニューマネジメント」 | JAGAT)

「需要を予測して売上を最大化~」と書いてあるのでビジネスとして当然のことでは?と思うかも知れません。

身近なレベニューマネジメント

先ほどの「ホテルの宿泊料」を例にとってみましょう。平日料金と休日料金の違いだけでなく、その土地の観光シーズンや休前日によって料金にかなり差があります。都市部にあるビジネスホテルだとアイドルのコンサートが開催される場合にも宿泊料が高騰したりしますね。

レベニューマネジメントとは単に「需要が高いときに価格を上げること」ではありません。

改めてレベニューマネジメントの定義を見ると「在庫の繰越しができないビジネスにおいて」という言葉があります。ホテルなどの宿泊業において「在庫=客室」です。(アメニティとか食材じゃないよ!)

ホテルの予約は全く同じ日の同じ客室タイプであっても、3ヶ月も前から計画している旅行の予約や、急な出張の決まったビジネスマンの予約などさまざまなケースがあります。前者は比較検討する時間が存分にあるので価格にはシビアになる傾向があり、後者はなんとしても宿泊場所を確保しなくてはならないので価格より確実に予約が取れることが重視されます。

これらの場合、ホテル事業者は前者のケースでは割引価格を適用することで早期に売上を確保でき、後者のケースでは正規価格で客室を販売すること高い利益を確保することができます。

例)定価10,000円の客室が10部屋のホテル

すべて定価で販売した場合
10,000円 ✕ 10部屋 = 100,000円

2室を8,000円(早割)、4室を10,000円、4室を13,000円で販売した場合
8,000円 ✕ 2室 + 10,000円 ✕ 4室 + 13,000円 ✕ 4室 = 108,000円

総売上+8%となる

”全く同じ日の同じ客室タイプ”とは、つまりは"まったく同じ商品"ということです。ホテル事業者は全く同じ商品を、在庫が多く残っている時期には安く販売し、残り少なくなってきたら高く販売しています。これがホテル事業者のレベニューマネジメントです。(ほんの一例です)

レベニューマネジメントが適した業種の特徴

レベニューマネジメントが有効なビジネスには他にも下記の特徴があります。

⚫在庫の消滅性

スーパーなどの小売店であれば今日売れなかった商品は、また明日販売することができます。ところが宿泊施設の場合はそうはいきません。客室200室のホテルは今日180室しか販売できなかったとしても、明日は220室販売することはできません。売れなかった20室の在庫は"消滅"してしまいます。これが「在庫の繰越しができない」ということ。一般的にビジネスがこの特徴を持っている場合にはレベニューマネジメントが有効とされています。

供給制限

アイスクリームメーカーは需要の高い夏に生産量を増やし、需要の低い冬には生産量を減らすことができます。ところがホテルなどの宿泊業は一度200室の施設を建設すると基本的に、需要の増減に関わらず200室の在庫を抱えることとなります。最大需要に合わせて施設を設計することは、ピーク時以外は常に空室が発生することになるので通常はありえません。つまり最大需要時には供給が追いつかなくなります、そのためレベニューマネジメントが有効な手段となるのです。

高固定費事業

宿泊業のように施設を維持管理しながら運営するビジネスは一般的に固定費が高くなります。賃料、人件費などは客数に関わらず発生するため高需要のときは固定比率が低くなり、低需要のときは固定比率が高くなります。顧客1人あたりの変動費にあたるのは、アメニティやリネン代ですがこちらは売上に占める割合は比較的低くなります。先ほどのアイスクリームメーカーのように製造量に応じて変動費となる製造原価が発生する事業とは構造が異なるのです。

需要変動

これは先に説明した通りでレベニューマネジメントとは需要の増減に応じた販売管理のことなので、逆に需要が常に一定のビジネスには適さないということになります。

商品モデルの加工機会

ホテルの客室を増やすことは容易ではない~ということをお伝えしましたが、価格や時期・客室のランクなどの要素を用いることで他種類の商品を販売することは可能です。例えば朝食の有無によって異なる2種類の客層に対してアプローチすることができますし、45日前割引や直前割引なんてこともできたりします。その結果限りある在庫を適切に顧客へ提供することが可能となります。

レベニューマネジメントが効果的な業種

これらの要素を含む業種ではレベニューマネジメントが効果的であるとされています。一般的には下記のようなものです。

・スキー場・ジム・プール・遊園地・ゴルフコース・会議スペース・スポーツ観戦・温泉・スパ・映画館など

遊園地といえば、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが1月から変動価格制(ダイナミックプライシング)を取り入れたニュースが記憶に新しいですね。

ちなみに「レベニューマネジメント(収益管理)」と「ダイナミックプライシング(変動価格)」は何が違うの?となると思いますが、両者の定義はすごく曖昧で人によって認識もまちまちなので、ここでは触れません。

さらに航空業界で使われる「イールドマネジメント」も大きくは「レベニューマネジメント」と一緒なのですが、市場環境やアプローチが微妙に違うのでこれはまた別記事で。

キャンプ場における価格設定

これまでの話を踏まえ、キャンプ場のケースを考えてみたいと思います。

まずキャンプ場がレベニューマネジメントが適する特徴をすべて満たしていることはお分かりと思います。言ってしまうと室内で寝るか、野外で寝るか以外はホテルと大差ありません。野外という特性上、ホテル以上に季節・天候に左右されるためよりシビアな環境にあると言えます。

ちなみに現在キャンプ場で在庫数に応じて柔軟に価格を変更しているところはほぼないように思います。(あったら教えてください!)

キャンプ場の運営者は行政なども多く、地域の公共施設に近い考えで運営されており無料~500円など超低価格で通年提供されている場合が多いです。また個人オーナーの場合も、過去の販売データから未来の需要予測を立て販売価格を決定するという労力もツールも備わっていないのが現状です。

その結果価格設定は平日料金と休日料金の2種類のみ、もしくは通年同一料金というキャンプ場が日本で大半となりました。明朗会計なのは良いですが人気のキャンプ場は数ヶ月先まで予約でいっぱい~なんて場所も増えています。もしかすると倍のお金を出してもその日に泊まりたい人がいたかも知れないにも関わらずです。

キャンプ場運営の新たなプレイヤー

近年のアウトドアブームとも相まって、大手キャンプ用品メーカーがキャンプ場運営を始めるケースが全国で増えています。ぼくもキャンプ場運営受託会社を経営している身なのでガッツリ競合ではあるのですが、こうした新たなプレイヤーの参入は市場健全化に向かうと思うのでとても良いことだと思っています。

キャンプ場運営を始めてみて場内の整備には予想以上の労力が掛かることを実感しました。「労力が掛かるのだからその分の料金を取るのは当然だ!」と言いたいのではありません、「価値を感じる人がいるのだから料金を取る」のです。価値を感じてくれる人を増やし、その人たちで場内をいっぱいにできればキャンプ場は無理なく運営を続けることができますし、そうすることがキャンプ場側の責任だと思います。

少し長くなりましたが、要はキャンプ場運営もホテル運営同様に「レベニューマネジメント」の概念を取り入れれば収益性は上がるはず!ということ。そしてこの流れは民間企業の参入により高確率で起こると思っています。

「1,000円以上のキャンプ場には泊まらないよ」
「人気(ひとけ)のないキャンプがいいんだよ」

という声も(めっちゃ)分かりますが『キャンプ』というアクティビティを後世にも残すため、こうした考え方も持ってみてはいかがでしょうかー?


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