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被爆樹木の時間を感じる展覧会「呼吸する影ー被爆樹木のフォトグラムー @gallery G」2015年

【呼吸する影ー被爆樹木のフォトグラムー @gallery G】
   

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去る2015年、7/28-8/2、広島gallery Gで『呼吸する影ー被爆樹木のフォトグラムー』を開催しました。

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私は、2012年の8月に広島に始めて訪れてから、毎年、被爆樹木を撮る為に広島に来広しています。毎年、広島への旅の中で、感じること、考えることを作品に込め制作しています。

2012年と2015年は2回、広島に来ているので今回で6回目の広島の夏。戦後70年の節目の年に個展開催の運びとなりました。

今回の個展は、gallery  G「被爆70年祈念特別Gセレクションー遺されたものたち」と言う4つの展覧会を連続開催する企画として実現しました。

竹田信平さん、ミシェル・アギレラさん、岡部昌生さんの展覧会も同じ企画で開催。

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(展覧会ブックレット)


個展開催にあたり、私は、2015年、7/23から広島に入り、個展用の作品の制作を始めました。

今回個展にあたり一つのチャレンジをしたいと考えていました。

2012年に始めて出会った、爆心地から最も近い370mで被爆した被爆樹木「シダレヤナギ」の「印象」を作品にしたいと感じました。

毎年、制作するにあたりその始めの出会いの「印象」と作品が離れて行っている感覚を感じます。今年の夏は、もう一度、始めの感覚を捉え直したいという気持ちが強くなっていました。

私は、2014年の2月に、2012年と2013年に制作した作品を収録した『呼吸する影 SHADOW OF BOMBED TREES』という小作品集を100冊制作しました。

その中に「被爆樹木との出会い」とフォトグラム制作をした印象を記したテキストがあり、今回のチャレンジに向け振り返りました。

以下にそのテキストを紹介します。

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「被爆樹木との出会い」

観光案内所にふと立ち寄った。
「被爆木マップ」 というパンフレットがあり、被爆樹木の存在を知った。被爆樹木は、1945年8月6日の原爆の爆風によって焼かれ、 吹き飛ばされたが、再び芽吹き大きく成長した樹木を指す。広島市によると2014年現在、爆心地から約2km圏内に170本もの被爆樹木が存在する。 当時の人達は、逞しく生きるこの木をみて、生きる力を湧かせていたらしい。私はすぐに、一番近くの被爆樹木を訪ねる事にした。爆心地から最も近い370mで被爆したシダレヤナギの木。土手沿いにひっそりと佇み、風に葉を揺らしている。「生きている。」と感じた。また原爆ドームとは対照的に 「時間が動いている、今を生きている」とも。私はこのシダレヤナギを撮影したいと思った。
                                        
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「影をつかまえる」

フォトグラムで被爆樹木を撮影しようと思ったのは、今生きている被爆樹木の「時間」をダイレクトに写し撮りたいと考えたから。 被爆樹木の影を、直接感光紙に焼き付けることで1945年8月6日から現在までの生きてきた「時間」を掬いとれるのではないかと考えた。
 撮影は、じっと陽光が出るのを待ち、枝葉の下に感光紙を直接差し込み、 数十秒カウント(露光) する。 撮影には、 カメラは用いない。 じっと感光紙の表面を見て露光時間を調節する。 撮影中、枝葉は風に揺れ、 木々が自ら動いている様に感じられる。それはまるで生きて動き回る生き物をつかまえる作業のようだ。
 私は撮影を続けながら被爆樹木に対して、 原爆ドームとは対象的な「時間」を感じていた。原爆によって、あの日に止まった「時間」と日々生長し、 変化する 「時間」。 後者の 「時間」を生きている影=『呼吸する影』として、撮り続けていこうと決めた。

『呼吸する影 SHADOW OF BOMBED TREES』より
      

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(爆心地から370mで被爆したシダレヤナギ)

テキストにある「まるで生きて動き回る生き物をつかまえる作業」、フォトグラムはその時間の影をほぼ原寸大で焼き付ける。あの時感じた被爆樹木の「生きている。」印象。
シダレヤナギの風に揺れる大きく、長い枝葉を「つかまえたい」と思いました。

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(土手沿いの風を受けながら枝葉をそよがせる)

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(木陰に入るととても涼しい)

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(ネームプレートが2015年より新しくなり、QRコードから被爆樹木の情報にアクセス出来る)


2015年7/24、現地でのカメラの制作から始めました。
カメラと言ってもいつもこの制作で私が使うのは、2枚の厚紙。
厚紙は遮光板の役割を果たし、中に感光紙を挟み、表のスクリーンに影を写し気に入ったところと風や太陽光の状況をみて厚紙を開くことで、中の感光紙に影を焼き付ける仕組みです。

私はこのカメラを「タイムスクリーン」と名付け、様々なサイズの感光紙に対応できる様制作しています。

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(最も使用頻度の高いA3サイズの感光紙を挟む事が出来る「タイムスクリーン A3モデル」)


今回前述した様に、始めて会った被爆樹木シダレヤナギの「印象」を「つかまえる」には、約5mある樹木の垂れ下がる枝葉が風で揺れる様を撮影したいと考えた。24日にシダレヤナギと再会し、樹木の様子をみると、きれいに散髪されているような印象を受けました。来る8月6日の原爆の日に向けて剪定されているのか、昨年よりも枝葉が短い印象。そこで、カメラのサイズを3m50cmに決め(同時に名前を「タイムスクリーン3500」と名付けた)、幹から垂れ下がる枝葉を撮る為に準備を進めました。

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(「タイムスクリーン3500」の前に試作機「タイムスクリーン1800」であたりをつける様子)


カメラは地元のホームセンターで購入した黒のプラスチックダンボール。これに感光紙を挟み撮影する。撮影は25日の午後に決めました。

7/25、2014年にユニットを組み活動を共にしている衣裳家の田村さんと合流。(田村さんとは8/1に行うWSの下見も兼ねて広島に入った。)早速、シダレヤナギの木の下で巨大な「タイムスクリーン3500」を立ててみます。陽の向きがうまく枝葉を捉えられず、始めて出会った「印象」にはほど遠い。この日は、撮影を断念し、26日の午前中にもう一度トライすることを決めました。

7/26、9:00にシダレヤナギの下に到着。この日はNHKの取材も入っていて、制作の様子を記録してもらいました。撮影は難航。午前中ともいえ強い太陽光と、「タイムスクリーン3500」扱いが難しく、焼き付けた像が、遮光する時間に手惑い、光に当てすぎて失われてしまう失敗も重ねました。

(放送された番組に制作の様子が写っているので詳しくは映像を参照)

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数回のトライ&エラーを繰り返し、試行錯誤を重ね、5枚のシダレヤナギを撮影しました。

その日の夜、現像をした。少しずつ浮かび上がってくる像に、始めて出会ったシダレヤナギの「印象」を想起されました。柔らかく風をとらえ受け流して行く枝葉の動き、優しい葉のこすれる音が画面に記録され、「生きている」ように感じました。

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(現像直後の作品。浮かび上がる影に深夜にも関わらず歓喜の声をあげてしまった。)


7/27、11:00 gallery Gに作品搬入・展示作業

第1に、作品が間に合ったことに安堵。
被爆樹木がわたしたちと同じ時間軸を「今、生きている」ことを表現したいと常に思っているのに、過去制作したものだけで展示構成することに違和感がありました。展覧会を考えた時、はじめからメイン作品は2015年の夏に撮ったものと決めていました。けれど、悪天候やその他様々な困難から、今日まで作品が用意できなかったケースを想像したら初めて背中がぞっとしました。今、様々なことを乗り越えて手元に作品を用意でき、この日が迎えられた事に、多くの支えてくれた方々に感謝し、展示作業を開始した。メインの作品は影を「つかまえたてほやほや」の7/26のシダレヤナギ4枚。315cm。大きな枝葉がギャラリーに現れた様な印象を受けました。


そして展示作業。

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高所用の機材を使いメイン作品を展示していきます。


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(個展メイン作品、315cmの被爆樹木シダレヤナギの作品が展示された)

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(外光が入り作品を照らす)

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(展覧会開催に向けて他の作品も並んでいく)


そして、いよいよオープン!

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今回の展覧会は、「READYFOR」というクラウドファンディングサービスで5月8日〜8月8日の期間で展覧会の資金を集めました。私は、今回のアクションで、広く被爆樹木の存在を知ってもらいたい、継続した制作を今後続けて行く基盤をつくりたい。幸い、8月8日に多くの方のご支援を受ける事が出来、展覧会も充実したものとなりました。

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展示作品数は28作品(映像作品を1つ含む)

以下に作品目録を記します。(作品タイトルは撮影時間を示す)

                                     
ギャラリー1F展示作品(サイズはmm)

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09:24 4/15 2015-①

被爆樹木―シダレヤナギ―A-Bombed Tree―Weeping Willow

Digital Photogram

Ink jet Framed 420×298


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09:24 4/15 2015-②

被爆樹木―シダレヤナギ―A-Bombed Tree―Weeping Willow

Digital Photogram

Ink jet Framed 420×298

                                     
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Breathing Shadow of Bombed Trees

MOVIE 2015-SPRING-

映像作品5分17秒 MOVIE 5’17”

作品、「1」・「2」は今回初めての試みの作品で、デジタルカメラのセンサーに直接シダレヤナギの影を写して撮影したものを、インクジェットで出力した。「3」は同様にして映像を撮ったものを編集し、約5分の映像とした。

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4

11:03 7/26 2015

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 3200×880


5

11:19 7/26 2015

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 3200×880

                                     
6

12:10 7/26 2015

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 3200×880


                                     
7

12:20 7/26 2015

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 3200×880


メイン作品、「4」・「5」・「6」・「7」のシダレヤナギは、展覧会搬入日前日の7/26に撮影したものを展示。「今、生きている被爆樹木」を表現した。

ギャラリーから入る陽差の変化を受け表情を変え、来場者が動くことで生じるかすかな気流の流れなどでゆらゆら揺れる事で、シダレヤナギがそこで「生きている」ようなイメージを想起させた。


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8

15:55 8/5 2014

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 1800×880


                                     
9

16:01 8/5 2014

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 1800×880

                                     
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16:07 8/5 2014

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print 1800×880


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11

08:15 8/6 2014

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print Framed 420×298

                                     
12

08:22 8/6 2014

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print Framed 420×298


                                     
13

08:27 8/6 2014

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print Framed 420×298


作品、「11」・「12」・「13」は、2014年8月6日に撮影したもの。
2014年の8月6日は43年ぶりの雨の式典となり、雨が激しく降る中、黙祷をしながら撮影した。「11」は、原爆が炸裂した時間とされる8:15に撮影。その時降っていた雨粒が鮮明に写った作品となった。

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14

09:28 4/17 2015

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print Framed 420×298


                                     
15

09:29 4/17 2015

被爆樹木―シダレヤナギ―

A-Bombed Tree―Weeping Willow

Diazo Print Framed 420×298

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1Fは全て、爆心地から最も近い被爆樹木シダレヤナギの作品で構成した。


ギャラリー2F展示作品(サイズはmm)

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16

10:27 4/15 2015

被爆樹木―ユーカリ―

A-Bombed Tree―Eucalyptus

Diazo Print Framed 420×298


                                     
17

10:57 4/15 2015

被爆樹木―ユーカリ―

A-Bombed Tree―Eucalyptus

Diazo Print Framed 420×298


作品「16」・「17」の被爆樹木ユーカリは、2015年4/15の撮影。
大きな葉の陰からそっとのぞく新芽の葉を撮影した。

                                     
18

16:31 8/6 2014

被爆樹木―イチョウ―

A-Bombed Tree―Ginkgo

Diazo Print Framed 841×594


作品「18」は、毎年お世話になっている浄西寺の被爆イチョウのフォトグラム。2014年の8/6。西陽を受けるイチョウの葉を狙って撮影した。

                                     
19

10:11 4/16 2015

被爆樹木―マルバヤナギ―

A-Bombed Tree―Willow

Diazo Print Framed 420×298


                                     
20

10:32 4/16 2015

被爆樹木―マルバヤナギ―

A-Bombed Tree―Willow

Diazo Print 40000 420×298


作品「19」・「20」は被爆樹木マルバヤナギ。
2015年4/16の撮影。この時、雄花が満開でとても強いエネルギーを感じて撮影した。


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21

14:05 8/4 2014

被爆樹木―エノキ―

A-Bombed Tree―Japanese Hackberry

Diazo Print Framed 594×841


                                     
22

14:07 8/4 2014

被爆樹木―エノキ―

A-Bombed Tree―Japanese Hackberry

Diazo Print Framed 594×841


作品「21」・「22」は被爆樹木エノキ。
2014年の広島の夏は雨が多く、エノキの葉を食べる虫が多く発生したらしく、葉に虫食いの跡が多く残っていた。それをみて、被爆樹木の葉が次の命の「餌」になっている事、時間のつながりを感じ、虫食いの跡を撮影した。

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23

09:26 4/18 2015

被爆樹木―アオギリ―

A-Bombed Tree―Phoenix Trees

Diazo Print Framed 420×298

                                     

24

09:16 4/18 2015

被爆樹木―アオギリ―

A-Bombed Tree―Phoenix Trees

Diazo Print Framed 420×298

                                     
25

12:54 7/26 2015

被爆樹木―アオギリ―

A-Bombed Tree―Phoenix Trees

Diazo Print Framed 420×298
                                     

26

12:55 7/26 2015

被爆樹木―アオギリ―

A-Bombed Tree―Phoenix Trees

Diazo Print Framed 420×298


作品「23」・「24」・「25」・「26」は被爆樹木アオギリ。
春のアオギリと夏のアオギリを並べて展示した。
春、葉が全て落ちてしまった木は「骨」の様だと感じたが、枝の先には大きな膨らみがあった。数日後再びアオギリを訪ねたら、その膨らみから新芽が出始めていた。固い殻を破る様なパワーを感じ、新芽を撮影。
夏、大きな手のひらの様な葉を茂らせ、種子の房を風に揺らすアオギリ。次の世代に記憶や経験を継承する象徴としての種子を撮影した。

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27

12:16 8/4 2014

被爆樹木―クロマツ―

A-Bombed Tree―Japanese Black Pine

Diazo Print Framed 594×841


                               

28

12:22 8/4 2014

被爆樹木―クロマツ―

A-Bombed Tree―Japanese Black Pine

Diazo Print Framed 594×841


作品「27」・「28」は被爆樹木クロマツ。
2014年の曇り空の広島で撮影。曇りのため長い露光時間を必要とし、ゆっくりと時間をかけて影を焼き付けた。水墨画の様な印象の作品となった。

2Fは、被爆樹木ユーカリ、マルバヤナギ、イチョウ、エノキ、アオギリ、クロマツのフォトグラムを展示した。


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以上の全28作品を通して、「今私たちと共に同じ時間を生きる被爆樹木の時間」を表現した。

作品展を通して、様々な方に会うことができた。これまで樹木を訪ね撮影し、帰る制作を続けていたので、広島に知り合いはいなかった。作品展を通して出会った方から新たな作品へのアイデアや次につながる指標をいただくことができた。

最後になりましたが、ご来場いただいた方々、ギャラリーのスタッフの方々に改めて御礼申し上げます。



参考リンク

●『呼吸する影』作品コンセプト
http://asa19821206.wix.com/shunya-asami#!works2/crmx


●展覧会HP
http://gallery-g.jp/past/%E6%B5%85%E8%A6%8B%E4%BF%8A%E5%93%89/


●展覧会情報(会期は終了しています)

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被爆70年祈念特別Gセレクション 遺されたものたち vol.3

【呼吸する影ー被爆樹木のフォトグラムー】
Breathing Shadow of Bombed Trees

浅見俊哉 作品展

●日時:2015/7/28(tue)-8/2(sun) 11:00-20:00 (last day-17:00)

●場所:gallery G

〒730-0012 広島市中区上八丁堀4-1公開空地内
Tel: 082-211-3260 Fax: 082-211-3261

●オープニングレセプション:7/28(tue)18:00-

●トークセッション:8/2(sun) 15:00-17:00
浅見俊哉×竹田信平×岡村幸宣
 大澤加寿彦によるミニライヴ有り 予約不要・無料 場所:gallery G
(広島市中区上八丁掘4-1)

●ワークショップ:『影をつかまえる―被爆樹木のこもれびをTシャツに写して着よう―』
8/1(sat)14:00-18:00

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英文の作品コンセプトシート

⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター