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【弟来たる♡】

何年振りの再会だろう。神奈川に住んでいる弟が久しぶりに我が家に帰って来た。両親が思いのほか早くに亡くなり、二人とも独神(ひとがみ)で、家族と言えるのは、今のところ(?)姉弟の二人となる。それまでも、実家に住む私のところに年に一回位しか帰って来なかったが、例の風邪騒動で、ここ2、3年帰って来ることがなかったから、久しぶりの再会となる。とくに仲が悪いわけではないが、たまにこうして帰って来たり、電話で話してお互いの安否の確認をするくらいの距離感だ。

お昼前に車でやって来て、何やら自分では消費しないお米やら、食べ物を持って来た。それから、置き場に困ったスキーブーツを大きな黒いビニール袋に入れて持って来て、ガサゴソ家の屋根裏に収納していた。これで今回の用事は済んだようだ。

持って来たお米を見ながら、
「炊飯器があるなら自分でお米を炊いて食べればいいのに。」

「自分で炊くと、冷凍せずに食べ切ろうとするから、ついつい食べ過ぎちゃうからね。」と言う。私も人の事をとやかく言えるほど、食生活を整えているわけではないが、独神とは言え、専らコンビニのお惣菜や、外食で済ませている弟の食生活には、「それで大丈夫なの?」と一言言わずにはいられない。

私の言葉はそのままスルーされ、

「何か買い物はないの?」といつもセリフを言う。車で来ているので、来た時には、ちょっと離れた安売りスーパーで、トイレットペーパーや、お米や、スイカなど大物の買い物に付き合ってもらうことになっている。特に思いつくものはなかったが、数少ない姉弟の共同作業なので…

「じゃあ、付き合ってもらおうかな。お昼も何か美味しいもの食べに行こう。」

移動する車の中で、トマトの栽培に初めてトライすることを伝え、農業は水と微生物のはたらきが重要で、私たち人間の命も、目に見えない小さな微生物たちに支えられるていることを滔々と話した。弟は、「うんうん」と聞いている。

「種から植えてね、上手くいくと、一つの種から何百っ個もトマトがら収穫できるらしいよ。そうしたら、美味しいトマトを送ってあげるからね、」と言うと、

「上手くいったらでしょ。まだ、植えていないのに…。」と、笑いながら答える。

「何言ってるの。こう言うのはイメージ力が大事なの。今からリアルにイメージするの。」と私が言うと、しょうがないなぁとばかりに笑っている。
話題は、花粉症に移り、子どもの頃からアレルギー体質で花粉症に悩まされていた弟が、今年は、点鼻薬と目薬だけ済んでいるとか。
「どうして?」と聞くと、「いやぁ、いろいろネットで調べてね、腸内環境が弱いと花粉症になるらしいから、毎日、ヨーグルトとごぼうを食べるようにしてみたら、かなりに楽になったんだ。」と得意げに言う。ごぼうは、コンビニのお惣菜の金平牛蒡らしいが…、まぁ、彼なりに健康に氣を使っているのを聞いて少しホッとした。

程なくして、目的地に着いた。一番欲しかったのは、トマトの栽培に使う、苗ポットを並べるメッシュのトレーだったので、スーパーの駐車場に車を停めてから、少し離れた隣りの園芸屋さんまで歩くことにした。雨の中を歩いていると、途中新しく出来た手打ちそば屋さんの看板が見えたので、まずはそこで昼食を取ることにした。
天井の高いおしゃれな店内で、まだ12時前だったせいか空いている。せいろの蕎麦と春野菜の天麩羅を頼んだ。出て来た手打ちの蕎麦は、ツヤツヤと黒くて細い、見た目も美しく、とても美味しい。春野菜の天麩羅も、フキノトウやタラの芽や、新玉ねぎなど、ちょっと苦味があってこれまた美味しかった。

私は、熱々の天麩羅を頬張りながら、今度は、日本語音読の指導者になったことを話す。

「オンドク?」

当然、弟は何のことかわからないといった顔をして聞いている。私は、矢継ぎ早に、松永暢史先生が子どもたちの頭を良くする方法として、音読指導法を発見した経緯や、世界でも稀に見る、母音を響かせる日本語の素晴らしさや、言語は音とリズムが大切であると言うことや、音読をすることで、どんなに良い効果があるかの実例や、この美しい日本語を次の世代へ伝えたい想い等々を夢中で語った。途中、「箸が止まっているよ。」と指摘されながらも次から次へと思いつくことを話した。

「まぁ、古いものからやると効果があるんだね。」「確かに日本語が基本になっているのはわかる。」とポツリ、ポツリと感想を言う。

理系男子で、普段から言葉数も少ない、あまり感情を表に出さず、どちらか言えばリアクションの薄い弟らしい反応だった。感覚派の姉が、また訳のわからないことを始めたとでもと思っているのだろう。

私としては、話を聞いてくれるだけで、それでよし!多くの共感は求めない。(笑)ただ、私の近況を知ってもらえればそれでいいのだと思いながら、最後一つ残った冷めた天麩羅を口に入れた。

待つ人が出るほど混んできたお店を後にして、買い物を済ませて家に戻り、買ったものを家の中に運んでもらう。

「じゃあ、ここで。」
「うん、ありがとう。またね。」

そう会話を交わして、弟はまた車に乗り込み、神奈川の家へ走らせて行った。久しぶりに会った弟の顔は幾分老けていたが(お互い様か…)、それなりに元氣でよかった。

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