旅支度

しばらく見なかった制服姿の高校生が町に現れて、セミの鳴き声もめっきり聞こえなくなった。そんな小さな事象に夏が終わったことをを実感する。

つい春頃まで住んでいたアパートの様子を見に行った。近所の公園に植えられている金木犀の香りが恋しくなったから、もう香りが立っている頃かと思ったついでだ。

いつも車を停めていた場所に車を停めるとナビが一言「お疲れ様でした」と言った。どうやら私は自宅の設定を変えていないままだったらしい。誰かがいるわけでも、これから恋人が来るわけでも、帰宅したわけでもないのに、ナビが私におかえりと言っているように感じた。また来ることもあるかもしれないから、自宅の設定は変えないままでいようと思った。

アパートは特に変化がなかった。敷地内に生えている雑草の丈が伸びていて、相変わらず誰も手入れを施してないようだった。私の借りていた部屋はまだ空いていて、少しだけ帰りたいと思った。けれど、君の来ないあの部屋は退屈すぎる。




結局、私はあれから車一台分の荷物を処分した。随分と部屋が広くなったように思う。不要なものが多過ぎると人は気が滅入るのかもしれない、という仮説を立てた。これは強ち間違っていないと思う。



古い友人やよくしてくれた先輩、顔も名前も忘れていたようなクラスメイトのことを思い出すようになった。どんな今を過ごしていても、最後は誰かがそばに居て、泣かずに死ねるようなハッピーエンドを迎えてほしい。あなたたち全員にその権利がある。

気狂いだけにはならんようにね。

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