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円建て貿易と競争力

円建て貿易を伸ばすには

貿易取引における建値通貨は国際通貨が果たす機能の中では計算単位に該当する。日本の輸出について2023年下半期の数字を見ると、円の比率が33.8%であるのに対してドルが51%であった。

円建て輸出には為替リスクを抱えなくてすむというメリットがある。しかし、日本企業には円建て輸出を推進しない理由がある。大企業による輸出は海外現地法人との企業間貿易が多い。現地法人に為替リスクを取らせないよう現地通貨建てで輸出する傾向がある。

もう少し考えよう。現地法人による現地での販売が円建てなら円建て輸出であっても現地法人が為替リスクを抱えることはない。それでは現地企業に円建てでの販売を受け入れてもらうには何が必要だろうか。

よく言われるのは、輸出する製品・部品に圧倒的な競争力があることである。さらに、製品の保守管理、顧客企業が望む仕様に合わせて製品をカスタマイズすることも競争力の源泉となる。

円建て比率が高い国は?

ところで、建値通貨の比率は国、地域によって異なる。昨年から財務省の貿易取引通貨統計が拡充されて、公表される国、地域が格段に増加した。そこで円建て輸出の比率が高い国、地域について下図で確かめてみた。

注:2023年下半期
単位:%
データ出所:財務省

中東、アフリカ向け輸出において円建て比率は6割を超える。アジア諸国がそれに続く。アジア諸国の円建て比率が高い理由には、日本企業のサプライチェーンが張り巡らされていることや最終消費地がある程度は日本であることが上げられる。

中東とアフリカの円建て比率の高さは日本製品に圧倒的に競争力があるためだと推測できる。そこで貿易データから輸出品目を探ることにしたが、アフリカについてまとめたデータが無かったため中東のみ深掘りする。

中東への日本からの輸出品目は表から分かるように輸送用機器が群を抜いて多い。輸送機器は日本の輸出品目として競争力は高い。ただ、円建て比率が高い理由の候補は2つある。1つには競争力が高いので企業間貿易において円建てを受入れさせている。もう1つは現地法人が円建て輸入と現地通貨建て販売から発生する為替リスクを負担している。


注:2023年
単位:10億円
データ出所:財務省

トヨタのウェブサイトを見ると、中近東では販売店契約を14社と交わして販売網を構築している。現地の販売会社に為替リスクを負担させているように見えるが契約内容が分からないので正直なところ理由は断定できない。

建値通貨についての調査は公表されるデータだけでは限界があり、企業へのインタビューによって実態を明らかにする必要がある。かなりの労力を要する研究テーマなので私ができるのはせいぜいここまでである。

参考文献

佐藤清隆(2023)『円の実力』慶應義塾大学出版会
中北徹(2012)『通貨を考える』ちくま書房

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