批判する前に、「スポットライト」をずらしてみよう

著書「決定力!」の中で、著者のチップ・ハース、ダン・ハースが紹介しているコンセプトの1つに、「スポットライト効果」というものがあります*。(なお、「決定力!」は、人が意思決定をする際にかかってしまいがちな罠とそれへの対処策をまとめた良書です。この分野への入門書としておすすめ。)

言われてみると当たり前ですが、私たちは、自分に見えていることしか知りません。さらに、見えていないことがあることさえ忘れてしまいがちです。これは、ステージ上でスポットライトがあたっているところにだけ目が行き、そうでないところには意識が向かないことと似ています。(この現象のことを、行動経済学の大御所ダニエル・カーネマンは、"WYSIATI"と名付けています。"What you see is all there is"の略です。)

私たちのこの性質は、本当に色んなところで悪さをしています。例えば、分野に関わらず多くのプロジェクトが遅延したり予算超過してしまうのは、私たちは計画をたてる際に、計画が成功しうまくいく姿をイメージすることは比較的簡単な一方、無限にありうる失敗する姿をイメージすることはとても難しいことが原因の1つです(起こりうるトラブルをすべて事前に想定することは無理です)。この場合、失敗の可能性はスポットライトの外にあるので、それを見えていないことさえ忘れてしまい、楽観的な計画が立てられてしまいます。

僕は留学前に働いていたコンサルファームで、「責任感が足りない」、「やる気がない」と評判だったコンサルタントと仕事をしたことがあります。彼女は当時2年目で、そのままいけば会社での立場も危うくなりかねない状況でした。実際に仕事を一緒にしてみると、確かにかなり辛い(笑)。インタビューをさせてみると大事な質問を聞き忘れ、エクセルを触らせるとミスをする。その上、いかにも「このタスク意味なくないっすか」というような顔をする。困ったもんだな、と。

しかし、そのプロジェクトは、3ヶ月ほどでクライアントの全社戦略をつくるもので、猫の手も借りたいくらいの忙しさ。後ですべて巻き取ること覚悟で、1つの事業を彼女に任さざるをえませんでした。その事業については、彼女は分析から資料作成、クライアントへのプレゼンまで、一通り自分でこなさなければなりません。

結論から書けば、彼女はやりきりました。相当苦労していましたし、手助けが必要な場面も当然ありましたが、数ヶ月前まで「責任感が足りない」、「やる気がない」と言われていたのとは思えない取り組み方でした。

後から聞いてみると、彼女は入社して最初と2つ目のプロジェクトを高圧的で有名なマネージャー(笑、そういう人もいます)とし、「とにかく言われたことを黙ってこなし、思ったことは言わないことが大事」だと思いこんでいたようです。さらに、そうやって言われるがままにやった結果、プロジェクトが上手くいかなかったことが続き、上から出される指示への信頼も無くなってきたらしい。

そのプロジェクトがきっかけで彼女はコンサルタントとして立ち上がり、足りなかったスキルも身につけ、無事プロモーションしました。その後、そのプロジェクトのクライアントから誘われ、その会社へ転職し、経営企画の中心人材として活躍しています。彼女がいかにクライアントからの信頼を勝ち取ったか、想像に難くないです。

彼女があのプロジェクトに出会うことが出来ず、あのまま、「責任感が足りない」、「やる気がない」という評価が定着し、そのためまともなタスクが与えられず、完全にやる気を喪失する、という負のスパイラルに入っていたらどうなっていたことやら…

プロジェクトの開始当初、正直僕は彼女をダメなコンサルタントと決めつけていました。僕に見えていたのは、「インタビューをさせてみても大事な質問を聞き忘れ、エクセルを触らせるとミスをする。その上、いかにも「このタスク意味なくないっすか」というような顔をする」彼女だけで、それ以外の彼女はスポットライトの外だったからです。スポットライトの外が存在することにさえ、僕は意識を向けられませんでした。

誰かを評価するとき、私たちはその人のほんの一部しか見えていません。仕事上の姿は見えて、プライベートは見えない、ということではなく、仕事上の姿ですらほんの一部しか見えていないことが多く、さらに悪いことに、それがすべてだと錯覚しています。「スポットライトの外」は、スポットライトを動かすことでしか見えません。あの時のように幸運の結果で一人の部下を救うのではなく、意識的にスポットライトを動かすことでそれを実現できたら、と思います。


* なお、心理学では「スポットライト効果」という言葉をまったく違う意味で使うようです。お気を付けください。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

11

Notes for a book I will nev...

学部で開発経済学少々+ウガンダ難民居住区で半年インターン→戦略コンサル6年強(事業計画、マーケティング、BDD)→米MBA→米系IT企業で経営企画っぽいお仕事@東京 Twitter: @sidewaysz

思考・マインドセット

1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。