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歌い継がれる名曲『ジャングル・ブギー』

現在放送中の朝ドラ「ブギウギ」。
皆さんご覧になっているでしょうか?

私は毎朝欠かさず見る、という訳ではないですが、在宅勤務の日は朝食を摂りながら見ています。

2/16の回は素晴らしかったですね。
私も知っている、あの「ジャングル・ブギー」が新曲として披露されました。
実は最近まで笠置シズ子さんの曲だったという事を知らなかったんですけどね…。

と言うのも、私がこの曲を知ったのは、東京スカパラダイスオーケストラのおかげだったのです。

高校生の頃に何度も見たスカパラのライブビデオで知りました。
90年代のスカパラを知るファンの皆さんは、懐かしい気持ちになったと思います。

もちろん、趣里さん演じる「福来スズ子」バージョンのライブシーンも圧巻でした。
朝から大興奮だったのは言うまでもありません。

今回は、この名曲「ジャングル・ブギー」についてお話したいと思います。

「ブギウギ」第20週の感想とまとめ

朝ドラ「ブギウギ」は説明の必要はないかもしれませんが、念のため。

「ブギの女王」と言われた昭和を代表する歌手、そして女優として活躍した、笠置シズ子さんの半生をモチーフにした主人公「福来スズ子」が戦前、戦中、戦後と活躍するお話。

第20週「ワテかて必死や」は、2024年2月12日の週に放送。
「東京ブギウギ」が大ヒットし、敗戦で気持ちが沈んでいた日本を勇気づけていた頃のお話。
終戦直後の混乱や治安悪化、いわゆる「闇の部分」について触れています。

ある日、スズ子の元に雑誌記者の取材が。
この記者、以前も幼い赤ん坊を抱えて活躍するスズ子の姿を記事にしたのですが、書き方がどうも乱暴。

そんな記者が、有楽町界隈で活動する娼婦、通称「パンパンガール」について意見を求めてきます。

スズ子は「事情も分からないのに、何も言えない」「生きるためにしてることを、他人がとやかく言えない」と答えたのですが…。

翌週、スズ子の楽屋にひとりの女性が怒鳴り込んできました。
彼女は「ラクチョウのおミネ」。
有楽町界隈を縄張りにしている娼婦を取り仕切る存在。
スズ子の元に取材に来た記者の記事を読んで怒鳴り込んできたのでした。

その記事は「福来スズ子はパンパンガールの味方」という見出し。
スズ子の言葉をうがった解釈で勝手に書き立てたのでした。

週刊誌の記事が発端で騒動が起きるなんて…まったくタイムリーな話。
いつの時代もゴシップ記事というのは困りものだったのですね。

もちろんスズ子はことの真意を伝えようとしますが、おミネは「気を使って声をかけて来る者もいるが、腹の底ではアタイらを見下してるんだ」と突っかかってきました。


当時の「パンパンガール」の話は日本の風俗史においても有名で、以前日本テレビで放送されたスペシャル番組「かたせ梨乃が進駐軍の前で踊り狂った時代…とマツコ」で見たことがあります。

戦後の占領下の東京。
政府が特定地域のみ特殊飲食店として売春行為を認めた、いわゆる「赤線」地帯と相反し、非合法で売春行為をする「青線」地帯がありました。
青線地帯で客を引く娼婦たちは、家族のため、自分自身のために必死でした。

法の目を盗んで暗躍する彼女たちは、取り締まりから逃れるためにグループを組んで行動していました。
そのため、縄張り争いも激化。

都内でいくつかある青線地帯の中でも最大派閥だったのが、有楽町界隈。
19歳の若さで界隈を仕切った「ラクチョウのお時」が、恐らくおミネのモデルとなった女性と思われます。

彼女はNHKのラジオにも出演。
何人もの女性を堅気の世界へ送り出したにもかかわらず、偏見の目で見られていじめられ、結局有楽町のガード下に戻ってきてしまう事を憂いていたそうです。

非合法地帯で体を売る娼婦たち。
生きる事に必死な彼女たちに対して、世間の目は冷ややか。
雑誌の記事はうがった内容でしたが、一世を風靡するスズ子に同情されているように見えたおミネは黙っていられなかったのでしょう。


いつも楽屋に連れてきている赤ん坊の愛子が急に泣き出したため、おミネはいったんこの場を引きますが、誤解されてしまったままではスズ子の気も晴れません。

山下マネージャーの制止を押し切り、スズ子は有楽町のガード下へ。
娼婦たちと腹を割って話をすることになりました。

おミネは、誰かが初めた戦争のせいで家族も何もかも失い、体まで売らなきゃ生きていけなかったと語ります。
それなのに、世間からは蔑んだ目で見られる。
「アンタみたいにお気楽に歌っているのとは立場が違う」と言い切りました。

その言葉に反して叫ぶスズ子。
「ワテかて必死や!」

母を病気で亡くし、戦争で弟を失った。
さらに、娘の愛子と引き換えに、最愛の愛助さんまで…。
お気楽に見えるかもしれないけど、どんなに辛くても、ステージの上では笑顔で歌わなければいけない。

青線地帯の娼婦たちと腹を割って話したことで、スズ子の気も晴れ、彼女たちとも打ち解けたのでした。


その一方で、前週出会った靴磨きの少年と再会。
彼はわざわざ水溜まりを作って、そこにはまった人に近寄って靴磨きを勧めていたのでした。

しかし、山下マネージャーにはそのインチキもお見通し。
その時に苦し紛れに言った「母が病気で…」と言う話も聞き入れてもらえませんでした。

しかし、母が病気だったのは本当でした。
家に帰ると、病床に臥せている母の姿。
少年が「東京ブギウギ」を口ずさむと、やめるように言うのでした。

ある日、靴磨きの少年たちにも縄張り争いが。
二人組の少年から縄張りを荒らしたと言いがかりをつけられ、ひどい目に遭った少年をスズ子が見つけ、家まで送るのでした。

スズ子は病床に臥せる母の姿を見て驚きます。
なんと、スズ子の幼馴染、タイ子だったのです。
狭い長屋の一角で変わり果てた姿のタイ子はスズ子を追い返してしまいます。

スズ子は靴磨きの少年、龍彦から事情を聞きます。
父親は戦死。親戚も戦争で亡くなり、タイ子も病気になってしまった。

何とかしたいスズ子は、おミネに力を借りるために相談します。
おミネは仲間の娼婦たちを呼びつけ、たちまち龍彦の前には行列が。
難癖をつけた悪ガキたちもおミネが追っ払い、一日にしてかなりの額を稼ぐことができました。

お金が貯まれば、母を医者に診せる事ができる。
スズ子と龍彦は家に帰りますが、売り上げ金を不信に思ったタイ子は、そのお金を受け取ろうとしません。

そこで再び立ち上がったスズ子。
「私達の仲を忘れたとは言わせない」と言わんばかりに、二人のなれそめを面と向かって話し出します。

次第に涙が止まらなくなるタイ子を抱き寄せるスズ子。

戦争ですべてを失い、病気にまでなってしまった。
幼い息子を働きに出さなければならなくなってしまった。
こんなに必死に生きているのに、街から聞こえてくるのは、夢を叶えたスズ子の東京ブギウギばかり。
あの歌を聞くたびに、みじめな思いが沸き上がってくるのでした。

スズ子は、みじめな思いをすることはないとタイ子に告げます。
大変な時代に龍彦を立派に育てた。
龍彦のためにも、病気を治さなければあかん、と。

そして、自分が歌手になれたのは、幼少の頃に一緒に居てくれたタイ子のおかげ。その恩を返したいと。


娼婦たちもタイ子も、そしてもちろんスズ子も戦後の混乱の中を必死に生きている。
戦争が落とした影に抗い、必死に生きようとする人たちの姿を真摯に描いた週でした。

特に、おミネ役の田中麗奈さんが印象的。
田中さんと言えば、我々の世代はあの清涼飲料水の「なっちゃん」のCMを思い出しますが、一本筋が通った力強くカッコいい女性を演じてくれました。

おミネはスズ子に夢を語ります。
「堅気になりたい子のための職業訓練所を作りたい」
いつまでも娼婦を続けないように、堅気の世界へ何人も送り出したラクチョウのお時の姿と重なるエピソード。
さすが、NHKのドラマは下調べも綿密なようです。

タイ子とのエピソードも、幼少期のエピソードとうまく絡めていたと思います。
病床のタイ子が登場したのは月曜日の回。
龍彦が東京ブギウギを歌うのを止めたところで、熱心なファンならもしや?と気づいたんじゃないかと思います。
そのあたりの伏線の使い方も上手かったですね。


スカパラの「ジャングルブギ」

話は急に変わりますが、この記事のテーマである「ジャングル・ブギー」を知ったのは、東京スカパラダイスオーケストラがカヴァーしているバージョンがきっかけでした。

確か、「World Series from Tokyo Ska」というビデオのライブ・バージョン。
このビデオは友達から借りて、ダビングして何度も見た記憶があります。
※このビデオはVHSのみの発売だったようで、調べても詳しい情報が出てきませんでした。

ドラマの影響で注目度が上がっているのか、かなり昔の笠置シズ子さんのパフォーマンス動画がYoutubeのレコメンドで上がってくる中、その動画の中にジャングル・ブギーがありました。
そこで、「あの歌は笠置シズ子さんの歌だったのか…」と知ったわけです。

海外公演も多いスカパラ。
世界のファンを喜ばせるために、日本の昭和歌謡をアレンジして演奏しているのだろうな、と思っていました。
その他にも、美空ひばりさんの「リンゴ追分」をアレンジして演奏している姿も。


東京スカパラダイスオーケストラも説明は不要ですね。
メジャーデビューは1990年。
バンド編成+ホーンセクションを擁した大所帯バンド。
数々のメンバーチェンジを経てはいますが、基本編成は今も変わりません。

スカパラのライブは今も昔も楽しい!の一言。
演奏を聞くと、いつも体が動いてしまいます。

様々なテレビやイベントでその姿を目にする機会は多いですが、私が特に好きだったのは、1997年に放送された竹中直人さんのコント番組「デカメロン」。

竹中直人さんを座長に、ブギウギにも出演していたふせえりさんを擁するビシバシステムの二人、竹中さんと親交の深い高橋幸宏さん、そしてスカパラメンバー総出演という豪華なメンバーが織りなすコント番組でした。
※こちらでは紹介しませんが、Youtubeでコントがいくつかご覧になれます。

個性的なメンバーが竹中さんのシュールで独特なコントに登場したり、スカパラの演奏をフィーチャーしたライブも番組の見どころでした。
赤坂BLITZで番組のライブも行われるほど。
何故か見に行かなかったんですよね…行っておけばよかった…。

特に印象的だったのは、YMOに影響を受けたドラムの青木達之さんが、高橋幸宏さんと師弟を演じた「どらむ寿司」でしょうか。
何故かスネアドラムを抱えて二人で登場してはリズムを刻む、といったシュールなコントでした。

最近では、2021年の東京オリンピック閉会式でスカパラが登場し、会場の空気が一気に変わりましたね。
集まった選手が皆楽しそうにしていたのが印象的でした。


ジャングルブギは初期の頃に演奏されていた定番曲。
何故彼らがこの曲をカヴァーしたのかはわかりませんが、軽快なスカのビートに昭和歌謡がとてもよくマッチしています。
今で言う「レトロモダン」。すべてが相まって本当にカッコいい!!

※ジャングルブギが収録されたアルバム「ワールドフェイマス」。
ソニーミュージックのサイトより。

そして何より、クリーンヘッド・ギムラさんのボーカル。
スキンヘッドにサングラス、そしてスパンコールがこれでもかと輝く派手ハデな衣装とストール。
声も特徴的で、絞り出すようなシャウトで観客を魅了します。

クールな演奏に合わせてこの曲を歌ったギムラさんですが、その後脳腫瘍を患い、1995年に32歳という若さで他界。
その後も別のボーカルを立てて演奏されたこともあったようですが、やはりこの歌はギムラさんの歌声のイメージが強い。

2/16の放送時でも、SNS上ではギムラさんを思い出すと言った言葉をいくつも見ました。
当時を知る人はやはり皆同じ想いだったはずです。


「ジャングル・ブギー」誕生!

話は戻って「ブギウギ」の続き。

スズ子は、打ち解けたおミネにワンマンショーに来てほしいと誘います。
今じゃすっかり娼婦仲間もスズ子に夢中になっていました。

そんな彼女たちに聴かせたいと、羽鳥善一に早く新曲を書くよう詰め寄ります。
しかし、東京ブギウギのヒットのおかげで作曲の仕事が次々と舞い込む善一は手一杯。

そんな中、映画の主題歌を依頼されている事を思いだします。
こだわりの強い映画監督が歌詞をよこして、これに曲を付けてほしいとの依頼。
期限は切られていませんでしたが、今までに見たことのない歌詞。
半端なアイデアでは通用しないと、保留にしていたのでした。

難解な歌詞に手を焼いていたのですが、スズ子の話を聞いて一気にアイデアが湧いた善一。
すごい形相で「30分待ってくれ」とスズ子に言い放ち、一気に書き上げた曲が「ジャングル・ブギー」。

後にSNSを見ていて知ったのですが、そのこだわりの強い監督とは、あの黒澤明監督だったのだとか。
映画「酔いどれ天使」の劇中歌に使われたのだそうです。

そしてワンマンショーの日。
花道を隔てた最前列には、有楽町の娼婦たちが陣取ります。
そして、すっかり元気になったタイ子と龍彦も客席に。

「妾(わたし)はめひょうだ」の詞にぴったりの、ヒョウ柄のドレスに身を包んだスズ子がいよいよステージに登場!

「ウワーオ、ワオワオ!」と特徴的なメロディを歌いながら、ステージ上部からゆっくり降りてくる。
妖艶なダンスと歌は、善一の言っていた「新しい福来スズ子」の姿そのもの。

そしてそのメロディは、かつてスカパラのビデオで何度も聴いたメロディそのものでもありました。
男声コーラスの掛け合いに、思わず「ジャングルで!」と一緒に叫んでしまいました。
それは、指揮棒を振る善一も同じ。

スズ子は堂々とした姿で歌い、踊り、歩いて花道を渡ります。
その姿に娼婦たちは夢中!
彼女たちの目の前でさらに歌い、叫ぶ!
歌が終わると、彼女たちはスズ子へ次々と花束を渡します。

そして客席から見守ったタイ子にも微笑みかけるのでした。


朝ドラをきっかけに一世を風靡した「ラッパと娘」もそうですが、このドラマのライブシーンは一切手抜きなしの本格的なもの。
ジャングル・ブギーは楽しみにしていましたが、その期待を裏切らない素晴らしいライブでした。

※NHKオフィシャルYoutubeより。
なんと、放送本編とオンステージのフルバージョンはアングルが多少違うというこだわり!
そして趣里さんの歌もダンスも素晴らしい!


おわりに

スカパラのカヴァーでその存在を知り、楽しみにしていたジャングル・ブギー。
私が大好きな「ラブライブ!」のように、ひとつの曲に素晴らしい物語を紡いでくれました。

この曲のエピソードとしてはフィクションだったと思いますが、歌は本物。
笠置シズ子さんのパフォーマンスも映像が残っていて、それが動画として今でも見る事ができるのも素晴らしいことです。

オフィシャルではなく個人でアップしている映像も多いのでこの記事では紹介は控えますが、デビュー当初のスカパラの映像もYoutubeにはたくさん残っています。
残念ながら、私が夢中になって観ていた「World Series from Tokyo Ska」のビデオを今見るのは難しいようですが、クリーンヘッド・ギムラさんの歌声を堪能できる映像も多いので、興味のある方は是非調べて頂きたいと思います。

今も勢力的に活動を続けるスカパラ。
せっかくなので、どんなステージでもいいですから、是非趣里さんをゲストに迎えて「ジャングルブギ」を聞かせてほしいですね。

タイトル画像は、NHK朝ドラ「ブギウギ」公式ポストより使用させていただきました。

妖艶な衣装とダンス、素敵な歌で観客を魅了した「福来スズ子」を演じる趣里さん。
曲を織りなすストーリーも本当に素敵で、一週間分まとめてNHKプラスで観返してしまうほど。
楽しみにしていた曲だっただけに、パフォーマンスも物語も最高で、金曜の朝から興奮してしまいました!

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