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平成ギャンブラー栄枯盛衰<5> 10万円で買ってくれ

20代のころ、筆者は近鉄バファローズを応援し、その応援・遠征費用を公営ギャンブルで稼ぎ補うという、アルバイトとの兼業ギャンブラーだった。その頃より少し前の、一介の競馬好きだった頃に出会ったBさんとの思い出を振り返る――

でかい紙袋をもってきた

ある日から、いつも専門紙を買っていたBさんが、俺と同じ東スポになっていた。最初は私の予想に乗り始めてきたから高い専門紙を買う必要がなくなったのだと思ったが、買い方もおとなしくなり始めていた。馬連ばかり買ってたのに複勝や単勝を握ることが増えてきたのだ。

私は基本、当時は土曜しか後楽園Winsに行かなかったのでBさんが日曜にどんな動きをしていたかは知らない。だが、なんとなく時間がたつにつれ日曜も打ち散らかして負けているんだろうなというのは容易に想像できた。

さらにしばらくしてBさんは紙袋を毎週持ち歩くようになった。何が入ってるのかは知らないが1か月くらいずっと持ち歩いていた。特に紙袋について触れることもなく、時は過ぎていった…

7階の南の壁際で

紙袋を持ち歩くようになったBさんから、土曜競馬のある日、会うなりいきなり袖を引かれて壁際で話が始まった。

「これ見てくれ、すごいだろ」

あの紙袋から出てきたのは、きれいにコレクションされた切手の数々が収納されたバインダーだった。中を見るといかにも古そうな切手も一部あったが、大半はここ数年のもののように見える。

「兄ちゃん、これ価値あるから10万で買ってくれないか?」

ああ、とうとうこうなったか。

「10万なんてもってないよ俺だって金持ちじゃないからw」

と、あえて詮索せず軽く断った。

脳内は当然深い詮索に入る。そもそも10万も価値があるならそういうところに持ち込んで売ればいいし、厳密な価値がわかってるなら10万なんて切りのよい数字なわけがない。

(ああ、余裕ねえんだろうな)

1か月も持ち歩いていた紙袋、俺にどう話しかけるかずっと様子を見ていたのかもしれない。話しかけられたタイミングは、先週万馬券を取っていた翌週だった。

当然こんなことになったら気まずくもなる。翌週から1か月程度、私は7階を避けて別フロアで土曜競馬を楽しんでいた。そして1か月後、7階に戻ってみると、Bさんの姿はいなくなっていた…

後楽園winsの7階南側は閉鎖の末、現在はオフト後楽園の移転先になり様子は様変わりしてしまって当時の思い出に浸れそうな景色はなくなった。まだオフト後楽園になってから7階南側には行ってない。ただ、同じ場所に立ってみて、1日くらい過ごしたいと思う。

(Bさん編おわり)


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