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陰嚢湿疹になった話


おちんちんの話をしよう。


花見シーズンのピークも過ぎて、ソメイヨシノに緑がまじり始めたころ。

おろしたてのスーツに身を包んだ新社会人が足早に駅へと向かう姿を横目に、私はひとつ、ため息をついた。

私は、おちんちんが、かゆい病気になった。


私は20代半ばまで中二病だったこともあり、身なりには結構気を使うほうだ。

もちろん、お風呂は毎日欠かさず入るし、おちんちんもズルムケッティーノだから、日常的に清潔さを保ててきたと思う。

だから、自分のおちんちんに強いかゆみを感じた時には、愕然とした。原因がまったく、まったく思い当たらないのだ。

弱酸性のボディソープじゃ、菌を殺すにはヌルいってのか。黒酢で洗えとでもいうのか。

は?性病?

ないない。10年以上なんもねーし。

30代半ばの中年男性が、AVみたいに時間停止の魔法をくらって、知らないうちに逆ホニャララされていたとでもいうのか。

そんなの最高じゃないか。相手は女教師で頼む。


ちゃんと正確に言うと、「おちんちんのおたまたまの皮膚」がかゆくなった。

1日中、ずうっとかゆいワケではなくて、1日に数回、数分だけ猛烈にかゆくなる。そのかゆさといったら、蚊に刺されたときの比ではない。

睡眠中でも突発的にかゆみに襲われて、眠りから覚めてしまうレベルだ。

言うまでもなく、おちんちんは男性のシンボル、いやシンボールである。玉だけにな。

生まれついての、唯一無二の相棒のような存在である。棒だけにな。

命を賭して、彼を救わねばなるまい。


人生初の泌尿器科に行くのは勇気がいった。

ずばり、恥ずかしい。

命を賭して、とは言ったものの、やっぱり、そりゃあ恥ずかしさはある。

毎晩合コンしていそうなチャラ男ドクターに「性交渉が原因かもしれないので、直近ではいつ?」とか聞かれて、「あっ、ハイ、えっと、もう10年以上・・・ハハハ」というやり取りになったら最悪だなとか想像して、憂鬱で仕方がなかった。


そこで我らがインターネットで、おじいちゃん先生が1人で診てくれそうな医院を探した。

検索に検索を重ねて、ホームページの「院長よりごあいさつ」欄の写真をチェックしまくった。

すると、ちょうど自宅の最寄り駅の1駅先に、白髪かつ白髭の大ベテランっぽい先生がやっている、泌尿器科・皮膚科クリニックがあるではないか。

診療内容の欄には、陰部の様々な病気についての説明と、何科の疾患か分からなくても迷わず相談に来てください、と書いてある。

ここに決まりだ。なんて頼もしい!

先生は今まで何万本、何百万本ものおちんちんを診てきたはず。もしかして何億本かも?

私のおちんちんの1本なんぞ、路傍に生えるつくしの1本と変わるまい。

すべてを達観した仙人のように、ただ淡々と診断してくれるはずだ。

あなただけが頼りです、仙人先生!!


クリニックの扉を開けると、受付にいたのは全員20代とおぼしき、3人の女性看護師だった。

だよな…。

仙人1人なわけ、ねーじゃんな…。

「今日はどうされましたか?」と問診票をニッコリ笑顔で手渡されたとき、私はブッダの生涯に思いを馳せた。

ああ、こうやって、人は強くなるのですね。


結論から言うと、私の病気は「陰嚢湿疹(いんのうしっしん)」だった。

その名の通り、陰嚢=おたまたまに湿疹ができる病気である。

湿疹といっても見た目的には、一部の皮膚が少しだけ白っぽく、厚ぼったくなっているだけで、赤いブツブツのような"湿疹っぽさ"はない。けれど、立派な陰部疾患の一種らしい。

原因は体質だったり、生活習慣の乱れだったり、ムレによる不潔さ、下着の摩擦だったり、はっきりとは判明しないのだという。

仙人先生の話を聞いて、私はハッと気が付いた。


私はライターをしている。

1日10時間以上、椅子に座り続けて作業をする日も珍しくない。

その負担をもっとも受ける器官は肩と腰、および目だろうというのは、誰もが分かっていること。

だがさ、よくよく考えれば、それ以上に負担がかかっている部位があるではないか。

彼だよ彼。

いちばん下で、10時間も押しつぶされ続ける、圧迫され続ける、スレ続ける、おたまたまだよ!


我ながら名推理だと思ったが、仙人先生は「そんなに簡単にかかる病気なら、世界中のデスクワーカーがもれなく陰嚢湿疹だから」と1ミリも笑わずに否定した。

さすがだ、仙人先生。

私の仮説は僅か5秒で崩壊した。

でも、現実がそんな世界じゃなくてよかった。

「デスクワーカーは全員、おちんちんに病気持ちの世界」だなんて、患者のみんなでシュタインズ・ゲートを目指すしかなくなる。


しかし、私は生まれつき皮膚が弱く、虫刺されの薬を塗っただけで全身に発疹が出てしまったり、去年などは、原因不明のアレルギーで約3ヶ月間も顔全体がただれたりしたような体質だ。

「アメトーーク!」のお肌よわよわ芸人回に、どれだけ共感を覚えたことか。

私個人に限った話ならば、関係が無いとも言い切れまい。


この事情も伝えると仙人先生は、「そこまで皮膚が弱い人は注意する必要がある」と否定も肯定もしなかった。

「健康面を考えても、こまめに椅子から立つようにしたほうがいい」と白髭をひと撫でして、診察を終えた。

ちなみに仙人先生は、『HUNTER×HUNTER』のゼノ=ゾルディックに似ている。


ともかくも私は、早期発見できたので症状が軽度だったこと、また、いんきんたむしの類ではなかったことに安堵した。

しかも処方された薬を塗ると、なんと1週間と経たずに、ウソのようにかゆみを感じなくなったではないか!

すごいぜ、ゼノ=ゾルディック!

ありがとう、ゼノ=ゾルディック!

シルバとイルミもありがとう!

キルアよ、アルカのことをよろしくな!

詳しく調べてみると陰嚢湿疹は、かゆみに耐えきれずに掻きむしって出血する人が多いため、重症化すると他の病気を併発したり、かなりヤバいことになるケースもあるらしい。

恥ずかしがっている場合じゃなかったみたいだ。マジのマジで。

もし今、この文章を読んでいて、似たような症状で悩んでいる、医者に行くのを躊躇している同士がいれば、すぐに診察を受けることを強くオススメしたい。

おちんちんがかゆくなった先輩からは以上だ。

・・・うーん、長いな。

ラノベ風に略そう。

おかゆな先輩からは以上だ。


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私、魔女のキキです。こっちはおちんちんにぬっているベトネベート。

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