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「限りなく透明に近い烏賊の国」

関門海峡を渡ったバスは九州自動車道を西に進む。昏々と眠る僕を博多バスターミナルまで運び、そして降ろす。時間は朝の7時ちょっと前。
博多駅のコインロッカーに荷物を放り込み、珈琲を飲みながら4日目の計画を整理、最初の目的地へ向かう電車の時間をチェックする。向かう先は佐賀県。福岡県に来たばっかりだとう言うのに、いきなり福岡県を出ていくことになるわけだ。
珈琲を飲み干した僕は博多駅の構内で軽く迷いながらも電車を乗り継ぎ唐津へ降り立つ。人生初めて佐賀の地を踏んだ瞬間であるが、感慨に浸る間はない。そもそも感慨などなかった。そうして路線バスに乗り、辿り着きしは呼子。そう、イカの町・呼子である。
もう見渡す限り、一面の銀世界。太陽に照らされたイカが銀色に煌めいていた。町中いたるところで天日干しされているイカ、謎のマシーンに吊られて高速でぐるぐる回っているイカ、朝市で売られるイカ、買われるイカ。そして僕に食われるイカ!

向かったのは「いか本家本店」。映画「悪人」で妻夫木聡と深津絵里が座っていた座敷に上がり「いか活造り定食」をいただく。まずはゲソの踊り食い。口の中で暴れまわり吸盤で吸い付いてくるゲソに、こちらも負けじと舌と歯と頭脳で対抗し、なんとか飲み込む。「You Win!!」の声が遠くから聞こえてくる。

それにしても活造りのイカの美しさは筆舌に尽くしがたい。向こう側が完全に見える、限りなく透明に近いイカ。眼前にかざしたイカ越しに見る世界は少しキラキラとしていて、深海から見上げた水面を照らす陽の光のようだった。深海に潜ったことはないけれど。

さらにイカシュウマイやイカの天ぷらなどをペロリと平らげた僕は膨れた腹をさすりながら次の国へと向かうのだ。まだ1日は始まったばかりなのだ。

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