夢限異常独身男性激闘記 ~ディーヴァセレクションからはじめるWIXOSS~
2021年初頭、男たちは戦いに飢えていた……
1月の半ば、オタク・カードゲームでもう10年ほどの付き合いになるオタクたちは軽自動車に乗り込み、宮城の郊外へと繰り出す。
向かう先は泉や名取のカードショップだが、デュエルスペースが目当てというわけではない。ましてや、シングルで欲しいカードがあるわけではない。
男たちが欲していたもの、それはつい前日に発売されたばかりのWIXOSSのスタートデッキ「DIVA DEBUT DECK」。3人の誰も前情報も何も仕入れていないし、なんならこの3人がここ数年でWIXOSSを遊んでいない。
が、スタートデッキさえあればバトルが出来る―――それだけは知っていた。
「WIXOSS、新しいアニメやるらしい。しかもアイドルもので」と切り出したのは三人の中で唯一WIXOSSというコンテンツをマトモに享受しているハガだ。
その話を受けてもおれともうひとり、セロハンはあまり興味を示さず、「どーせまた鬱アニメだろ?」「ループもコントロールも成り立たないWIXOSS、”””出涸らし”””っしょ」などとまずは否定するオタク仕草を見せつけ、それで話は終わったはずだった。
しかしなし崩し的にアニメの1話を鑑賞し、WIXOSSの環境周りの情報を調べてみた結果、ディープなオタク二人の目の色が変わった。
2020年の終わり際から始まったWIXOSSの新フォーマットであるディーヴァセレクションは、始まったばかりなのもあってカードプールが非常に狭く、拡張パックが一つとスタートデッキが二つ程度しかなかった。
そして新しく発売される拡張パックとスタートデッキのカード群は、前環境を一変させるほどカードパワーが全体的に高いらしいことが伝わってきた。
観測範囲で遊んでいる人間が誰もいないこと、個人ブログ等の記事も少ないこと、コロナ禍による公式大会の中止によって環境の情報がほぼ無いことも相まり、おれたち3人の間に野望が灯された。
「おれらでディーヴァの”””頂点(テッペン)”””、取りたくねえ?」
プレイヤーが少ないからこそ、引退勢が多いからこそ、そしておれたちにはマジック:ザ・ギャザリングや遊戯王などの長い経験があるからこそ。
そう、カードゲームオタクとして生まれたからには一生に一度は夢見る「メタゲームの頂点」が、僅かに手の届くところにある予感がしたのだった。
これは夢限異常独身男性を目指す激闘の始まり。
果てしなく終わりのない、闘争の記録である。
登場人物紹介
しぎゅーか
あらゆるゲームを浅く広く触る。
カードゲーム自体は全体的に弱めだが、圧倒的な情報収集能力により知識だけは先行する典型的なオタク。
大してやり込んでもいないくせに「オリジナルデッキで”””見せつける”””」と嘯いたり、軽量ドロー等の細いカードを過剰に評価するなどの悪癖を持つ。
WIXOSSは修復ループでわからされるまではピルルクで遊んでいた。アニメは鬱アニメであることしか知らない。
セロハン
アーマードコアの熱狂的なファン。
様々なカードゲームを遊び、MTGのジャッジ資格を持っていた過去を持つなどカードゲームの実力は折り紙付き。
堅実に立ち回れるコントロール志向のデッキを選択する傾向にあり、防御的なプレイングには定評がある。
WIXOSSは初期の方をそこそこ遊んでいたらしい。アニメは鬱アニメであることしか知らない。
ハガ
アニメ・特撮・映画・ゲームなど、サブカルチャーをこよなく愛する男。
カードゲームはカジュアル気味に遊ぶことが多いが、セロハンと同数以上のタイトルでのプレイ経験がある。
派手でわかりやすいカードを主軸にし、大味なプレイングで対戦相手を押しつぶすデッキを好む。
WIXOSSはアニメをほぼ全部チェックしてはいたものの、ゲーム自体はあまり触ってないらしい。
夢現異常独身男性、ディーヴァセレクションを触る
昼を少し過ぎた頃、なぜか邦メロコア/ハードコアばかりが流れる二郎インスパイア店で腹を大きく膨らませた後、4時間から5時間ほどかけて幾つかのカードショップを巡るオタクたちは、名取のお宝中古市場でようやく「DIVA DEBUT DECK」が全種類売っているのを見かけた。
時刻をふと見ると19時。昼に集合した筈なのになんということだろうか。
特にデッキの内容を下調べしたわけでもなかったので、三人はそれぞれ目についたデッキを選ぶこととなっていた。
「金髪の娘はMC?なのかな。D4DJといい、アニメコンテンツでDJやらせるの流行ってんの?」とめんどくさいオタク仕草を放り出しながらCard Jockeyを手に取るおれ。
「おれ結構色物好きだからコイツらでいいな。真ん中の娘可愛いし」と欲望に忠実な理由でうちゅうのはじまりを選択したハガ。
「正直誰もピンと来ないけど……まあ、""消去法""かなあ……」と妙に失礼な理由でDIAGRAMに手を伸ばすセロハン。
誰も主人公組のNo Limitに見向きもせず、三人は会計を終える。
その後、ゆるキャン△のガシャポンで「やったなでしこリンちゃんがストレートで出た!8コイントリプルノミ!!」などと騒いでいると、時刻は19時頃に差し掛かっていた。
カードショップはこのご時世で21時には閉まってしまうので、スリーブに入れる暇もなくオタクたちは名取シーガルのデュエルスペースへと腰を落ち着けた。
早速ゲームを始める……というわけではなく、席につくや否や三人は付属しているルールブックとカードに目を通し始める。
いくら経験者がいるからとはいえ、もう5年近く前に遊んだばかりのカードゲームであり、しかもルールも新しくなっている。つまり、全員がWIXOSSについては初心者に等しい状態なのである。
時間も惜しいので、なし崩し的におれとセロハンが早速ゲームを始めるも、ルールブックを見ながら初見のカードのテキストと睨めっこをするだけの二人でマトモなゲームが成り立つわけもない。
ひとまずはおれが勝利をもぎ取ったものの、ゲーム終了後におれのルールミスの指摘があったためにノーカンとなる始末である。
それから全員が総当たりで一戦ずつやった結果、なんとハガの「うちゅうのはじまり」が全勝するという結果となった。
ルールミスやプレイングの知見が無いというのもあるが、ハンデスという能力が初心者同士の対決においては致命的であり、リソースやガードを削られて点数計算を狂わされたり展開が上手く出来ずに押し切られてしまうゲームを余儀なくされるのだった。
特にピース「はんぱない☆ディストラクション」によるノーコス3枚ハンデスと「RANDOM BAD」の1マナ1ドロー1ハンデスは、他TCGを遊ぶおれたちからすれば震え上がるようなテキストである。
1ターン目に3枚の「RANDOM BAD」をぶち込まれたセロハンのあからさまに不機嫌そうな表情は趣深いものがあった。
真っ暗な国道を走り帰路につく三人は、WIXOSSの話題で持ちきりだ。
「アシストがインスタントタイミングで動けるから読み合いが結構成り立つね。カジュアルに除去ドローハンデスさせてくれるし、カードパワー凄くてビビる」
「4,5ターンあればゲーム終わるのテンポ良いよね。防御手段少なすぎてとっとと殴り得っぽいところも良いのかな」
「盤面での殴り合いそれほど成立しなくない?シグニのパワーラインってどこまで重要なんだろ」
そう、オタクたちには中々骨太なゲームだ、という確かなゲームへの手応えがあった。
3人とも口では冷静ぶって「まあそこそこ?面白いゲームじゃん?金かけるかは知らんけどね」と言っていたが、考えていることは恐らく同じだったはずだ。
―――全員、出し抜く。
夢現異常独身男性、環境を学ぶ。
前述した通り、WIXOSSの新弾環境の情報は圧倒的に少ない。
コロナ禍中の緊急事態宣言で公式大会が開かれていないために環境が解明されていないのが主な原因ではあるが、それにしてもインターネットでのまとまった記事が少な過ぎる。
ウィクロスのシングル取扱店が少ないこともあって「このカードゲーム、限界集落なのか???」と何度も疑い、最早既知の情報に頼るのは難しい。
―――そう諦めた時だった。
WIXOSS公式Twitterによるデッキ投稿キャンペーン。そのハッシュタグには様々なデッキレシピがポストされていた。
ハッシュタグに連なるツイートの多さから、ディーヴァセレクションの人口がそれほど少なくないことがわかった。数時間ほど様々な構築を眺めてもまだまだ多くのデッキが投稿されていたし、ツイッター検索で軽く調べてもそれなりにプレイヤーの頭数は確保されていたのだ。
情報が集約されるサイトが無いという、MTGや遊戯王のようなメジャーなカードゲームには無い問題が重くのしかかる。かつてはそうしたサイトが幾つかあったものの、ディーヴァセレクションの今日に至るまで更新を続けられているサイトは、遊々亭のブログなどごく僅かである。
これにより各プレイヤー/各コミュニティで環境の情報が止まってしまい、それらがインターネット上に共有されることのない、言わば情報の封鎖が発生しているらしい、ということは理解できた。
それもそのはずで、人口も多くなければ大会も開かれていないカードゲームの情報を発信したところで大してPV数が伸びるわけでも無く、何のインセンティブも発生しないことに情熱を注ぐことは難しい。
かくして新規参入者であるおれは、ツイッターの断片的な情報だけである程度のメタゲームを推し量るしかなくなってしまったのだったが、とはいえ推察材料は多い。
ツイッターのデッキ投稿において完成度の高そうなレシピを上げていた方の直近のツイートを眺め、「何のカードが強いのか」「どういう戦略がメタゲームの中心なのか」を探ったり、カードショップのシングルカードの値段を見たりすれば容易いはずだ。
2,3時間のリサーチの結果、得られた知見はこうだ。
・赤が強い。ローメイル・ランスロットやノブナガ・ローズクォーツのような、CIPで相手の面を一つ開けられるカードが軒並み高性能であるから。
・それに対するカウンターとして白のシャドウ持ちがよく採用されるようになっている。特にシャドウ持ちかつ汎用性の高いアークゲインはトップレア/トップメタ級のカードとなっている。
これらの知見から勝つためのデッキを選択すると、候補は二つ。No LimitとCard Jockeyとなる。各デッキの印象は以下の通りだ。
・赤白青のNo Limitでは、赤の除去で盤面を制圧しつつ、青のアシストによりドローとハンデスを両立できる。
チーム限定カードであるローズクォーツがCIPで12000ラインを焼けることと、Glory Growによるガード不能+ダブルクラッシュが圧倒的であることから、チームで構築することがほぼ必須であるように思う。
・白赤緑のCard Jockeyでは、赤のアシストによって手札リソースを用いずに除去やランサー・アサシンを使用することができ、ライフクロスへプレッシャーを多く与えることができる。
最大の特徴であるEndless Punchlineのルリグ連パンは不確定ではあるものの、連パン自体への対策はほぼ不可能である。Pロマピによるガード対策により相手のリソースを更に削り取ることも可能な上、LIONのゲーム1効果により詰めの連パンも可能としている。
ここでおれが選択したのはNo Limit。
単純にCard Jockeyでは、アークゲインやPロマピを買うのがしんどいのである。何せ当時アークゲインは4000円以上の値段が付くことがザラであり、Pロマピはそもそも通販サイトにすら在庫が安定して供給されていないと言う状況であったからだ。
それならせいぜいローズクォーツが1000円程度する他は左程値段が付かない、赤を主軸に戦うのが無難であると考えたからである。
この頃に組んだ構築は最早時代遅れと化しているので掲載しないが、まあまあ普通のレシピであった。ピースに「きゅるり☆きゅるりら」、スペル枠に「轟音の炎球」「TROUBLE」と少し変わった構成にはしてあるものの、ローメイルランスロットにローズクォーツやノブナガマルス等、当時の一般的なレシピを基にした、それなりに戦えそうなデッキであった。
これならセロハンやハガを蹂躙することが出来るだろう、そんなレシピだとこの時のおれは思っていた。
「明日、オンラインで"""処理"""してやるよ」そうLINEグループに書き込むと承諾の連絡がセロハンから来た。ヤツもまたDIAGRAMのデッキを必死に模索し、ドライ=ランリョウオーやダークエナジェ、更には鈴原るるを通販で購入していたらしい。
52枚のデッキにスリーブを通し、疲れた微睡みに身を任せてベッドに倒れ込む。途切れゆく意識の中、ランスロットでシグニを焼き切られて盤面に攻撃を通されるセロハンの歪んだ顔を思い浮かべると、思わず笑みが溢れた。
ヤツの構築、おれが踏みにじってやる。
夢現異常独身男性、大海を知ったり知らなかったりする。
「マドカ//クラップにグロウ。合計5エナと手札2枚切って3面ダウン。ルリグアタックはさっき回収したサーバントでガードできるよ」
迎えたセロハンとの決戦の日、初オンライン対戦に心躍っていた筈のおれは、攻撃を一度でも通せば勝てる盤面を全て止められ、凍りついてしまった。
おれの残りライフクロスは1。ガードは先ほど使い切ってしまった。アシストルリグはどちらとも2レベ。万事休すという言葉がよく似合う、そんな盤面だ。
返しに盤面を全て処理され、なす術もなくおれは机の上に広がったカードをかき集めた。ふと伏せられた最後のライフクロスをめくると、ローメイル。何が出ても対処は不可能だったが、それでもため息が溢れてしまう。
二戦目、同じくマドカ//クラップに止められ、返しのターンに負ける。
三戦目も四戦目も、同じような負け方。
最後の攻撃が全く届かず、崩れ落ちること幾数戦。おれは、おれの信じたNo Limitは、「アグロ戦術が最強である」という理想を捨てきれないまま、ただひたすらに敗れ続けた。
その日は結果、0勝8敗。BO3を4回やり、一度もその刃はヤツの喉元に及ばず、その切先の鋭さを味あわせることが叶わなかった。
「やー、"""データ"""、集まったわ」と強がりながら、逃げるようにおれはdiscordを閉じた。
敗因の分析、それは明らかに詰めの戦術である。
こちらは盤面をひたすらバニッシュし続けてライフを削るが、向こうも同じようにパワーマイナスによるバニッシュで盤面をこじ開けてくる。
言わば同戦法のような構図を繰り返しているのであるが、一方でアシストルリグに差異がある。
こちらはアキノによるハンデスとガード回収しか防御手段が無いのに対し、DIAGRAMにはマドカとサンガという2つの防御手段があるのだ。
マドカによる3面防御とサンガによるバニッシュとライフ一点のガードには多大なリソースが必要になるが、盤面のバニッシュにより貯まったエナがそれを可能とさせているのである。
こちらのデッキは貯まったエナをみみっちくシグニをバニッシュすることにしか使えず、手札があってもそれを有効活用する手段に乏しい。
詰まるところこのデッキは、「ライフを削る」「リソースを増やす」ことに特化させすぎていて、防御のことを何も考えられていない、独りよがりなレシピでしか無かったのである。
初心者が陥りがちな構築のミスを、知らず知らずのうちにおれもやってしまっていたのだった!
おれが落ち込んでいる間にもセロハンとハガによるデュエルが行われたのだが、なんと勝率は半々。ライフバーストのめくれ具合によって勝敗が決まるような試合が多く、相性自体はほぼ互角のように思われた。
うちゅうのはじまりはNo Limitに比べ、除去やライフを詰める手段に乏しい。
しかしそれを補うような圧倒的なドローとハンデスにより、DIAGRAMの比較的枯渇しがちなリソースとより差をつけて戦えていたように思う。
対するDIAGRAM側は面取り能力によりうちゅうのはじまりの体制を崩し、より早くゲームエンドまで持ち込めることができれば勝つことが出来る。
No Limitとは打って変わり、攻めの「DIAGRAM」に守りの「うちゅうのはじまり」のような構図という所感だ。
そして満を辞して行われたおれとハガによる試合は、なんとおれがBO3を何度も制して全勝。
うちゅうのはじまりの圧倒的なハンデスの嵐はそれほど問題ではなく、アシストのレイによるリソースの回復と圧倒的なアグロ性能によってNo Limit側がリソースを使い切って押し切れるのである。
また、うちゅうのはじまりはその特性上、アシストルリグを早めにレベル2へとグロウさせる構成になっている。そのために詰め段階でアシストによる防御に頼ることが難しいのだ。
これはNo LimitがDIAGRAMを圧倒的に苦手にするのと同じく、デッキタイプによる相性差が生まれていると結論付けた。
これらから形成された夢現異常独身男性たちのメタゲームを整理すると、以下のようになる。
・No LimitはDIAGRAMを苦手とする。
・うちゅうのはじまりはNo Limitを苦手とする。
・DIAGRAMとうちゅうのはじまりは概ね互角である。
均衡を保っているようで、実はDIAGRAMが圧倒的に勝率が高いことがわかるだろうか。
確かにNo Limitはうちゅうのはじまりに無敗のままではあるものの、DIAGRAMには一つも白星を上げられていない。というか勝率0%も100%もありえるカードゲーム、どうなんだ……と若干気まずい雰囲気になったりもした。
終わり
それからも各々によるデッキの調整などがありつつも、対戦自体はそこまで頻度が多くは行われ無いまま、第二弾の発売日が来てしまった。
おれのNo Limitはというと、カグツチを2枚投入してレベル3を増やしたり、きゅるりらをGO TO THE TOP!に差し替えて採用したくらいしか違いは無い。防御アシストの採用にまで踏み切れず、ほぼ変化の無いまま負け続けた、そんな1ヶ月だった。
さて、第二弾が発売され、三人ともデッキを新たに調整したり組み直したりしている。もうじき第三弾も出てしまうが、次の記事がもし存在するなら、新しくなった環境でブラッシュアップされた激闘の記録を記していきたい。
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