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退行催眠の危険性について考える

退行催眠とは?

退行催眠 (年齢退行催眠) とは、被験者(催眠に掛かる人)を深い催眠状態に導いた後、被験者の時間軸を巻き戻し、被験者が若かったころや子どものころの記憶を取り戻す、または、被験者の精神状態の年齢を下げることを目的とした催眠のことを指す。

年齢退行催眠(通称 : 退行催眠) や前世退行催眠には、非常に危険性があると一部の催眠関係者(催眠術師、催眠療法士)のあいだでは指摘されており、退行催眠のセッションを受ける場合、慎重にヒプノセラピスト(催眠療法士)を選ぶ必要があります。

危険性があると指摘される理由として、一番の理由は『過誤記憶』が起きる可能性があるからだと業界の中では、囁かれています。被験者は、ウソをつくつもりはないのだけれど、まるで本当のように起きたと感じてしまう記憶の現象です。

退行催眠が起こしてしまった『過誤記憶』による悲劇

催眠の本場、アメリカや欧州などの地域などでは、過誤記憶虚偽記憶のなどによる例や報告が多いとされていました。1990年代には、日本でも紹介されたそうです。退行催眠の危険性が、取り上げられる理由は、海外では事件が起きた後、被害者から事情聴取をする際に事件のショックから思い出せない記憶を催眠を使って、当時のエピソードを被害者の記憶から思い出させる「司法催眠」やヒプノセラピスト(催眠療法士)の被験者からの退行催眠セッション中の証言などから来てるいるのではないかと考えられます。

特に日本で、気をつけるべきなのは後者の方ですね。

海外では、80年代から増えてきたらしく、調査をしても、ハッキリとした証拠が存在しないということで、記憶についての疑いが浮上してきました。2000年代に入るまでには少なくなり、このことが、収まりつつあるそうです。

実は退行催眠でなくても被暗示性(暗示に掛かりやすい)が、高ければ誘導者による簡単な質問と少しの面談などで、本当にあったように思わせることは可能のだそうです。

動画にて、ステージの前で、演説をしている女性はアメリカの心理学者エリザベス・ロフタス氏です。彼女は、『ショッピングモールでの迷子』という実験で有名です。

被験者に3つの子供の頃の思い出を取り上げて貰い、次に4つ目にウソの記憶「迷子になった」という記憶を入れます。その後被験者に子供の頃の思い出3つと4つ目の出来事を毎日日記に書かせるという実験です。そして数週間後、被験者からウソの記憶であるにも関わらず本当だったと言い張る人が出てきたという報告があったそうです。

誤解しないで欲しいことは、こうした記憶を作ってしまった被験者が悪いということではありません。

ドイツ人の心理学者であるジュリア・ショウ氏も近年、記憶に関する研究で被験者にウソの記憶を簡単な面談で植え付けることに成功しています。

3週間に渡って被験者を集め面談を3回行い、被験者の11歳から14歳の頃の思い出を本人に語ってもらい、その後予め用意された間違えた記憶を本人が当時の思い出を語っている間に埋め込むという実験です。

このやり方、退行催眠セッションの場合であればウソの記憶を用意されなくても「過去にあった嫌な思い出や体験」などと言えば催眠を受ける被験者側が無理にでも探そうとするかもしれませんし、「その当時は何が観えますか?」「誰がいましたか?どんな人がいましたか?」「男?女?大人?子供?」と質問を続けて行くのでラポール(信頼関係)も築いているわけですから術師・療法士側を困らせてはイケないと無意識が考えてしまうこともあるかもしれません。

催眠の研究していた心理学者バーバー氏も1962年、退行催眠を掛け幼少期までに戻した際に被験者から子供の頃の行いや当時の感情や認識は一致せず被験者が”子供の頃に戻った”と言い張ったそうです。

遊びの催眠術(ショー系の催眠術)も経験していれば、分かりやすい現象なのではないかと思います。

私も2014年に友人に退行催眠を掛け5歳の頃に戻しそのまま催眠状態のまま目を覚ましてもらいインタビューを行い、その後催眠を解いて再度インタビューを行いました。おもしろいことに本人は「自分が小さくなったように感じて他の人が大きく感じた」と言っていました。

”自分が小さくなったように感じた?”

おもしろいですね。

催眠術師や催眠療法士が起こしてしまったミス

そのほか過誤記憶の専門家たちは、退行催眠などを使ってその人の過去を無理やり思い出させるようなやり方が間違えているのでは無いだろうか?という考えを主張しています。

・過去の嫌な体験やトラウマなどは思い出せないように意識のフィルターによってストップさせられていると被験者に説明するということ

・催眠術師や催眠療法士が「その現象を抑えるには、あなたが経験した嫌な体験やトラウマなどを思い出して行く必要があります」と被験者に伝えるということ

・深トランス状態(記憶・視覚・聴覚操作)にさせられ「嫌な体験やトラウマがあったときの年齢にまで時間が戻っていきます」と暗示を入れられてしまっていること

・暗示によって無理やり視覚化(映像として)させられてしまうこと

主にこれらのやり方が理由で被験者が記憶を作ってしまって居るのではないだろうか?と彼らは考えており、実際に催眠を行う私の立場でも”確かに無理やり思い出させようとしている”と感じる点があります。

更にこれらが怖いと思うと点としては、術師または療法士側が被験者の言ったことを100パーセントの確率で「正しい」と信じ込んでしまうこと、そして被験者の過誤記憶によって作り出されたリアルなパニック発作などによる予期しなかった出来事に対応できなかった術師・療法士側の知識不足および経験不足です。

私たちは退行催眠や前世退行催眠には否定的ではありませんが、この手の催眠を行う場合は非常に取扱に十分注意しなくてはいないと考えています。

実際に、退行催眠や前世退行催眠を行った上で事実確認の為の調査を行う必要がありますし一部の催眠関係者が被験者が言った内容を調査したところ結果、高確率で当ててしまっていた(事実ではないことも含まれているが)という事例も存在しているため完全否定はしていません。ですが、一歩間違えれば被験者を悲しませ傷つけてしまう可能性だってあるかもしれません。

なのでこれからの未来へ向けての催眠研究や活動としては、間違った記憶を作らせず、どう被験者と関わっていくのかということだと思います。

楽しい退行催眠を使った催眠ショーやメンタリズムのショーであれば観ている方も魔法のように見えるのでエンターテイメントとして楽しむ場合であればおもしろいですし良いですよね。

日本の催眠術師さんが「催眠術は昔から変わってきていない」と仰られている方が何人かいらっしゃいますがこのような実験や新しい出て来ている為、少しづつではありますが変わってきているのはないでしょうか?まだ諦めるのは早いと思います。

退行催眠や前世療法などを行うスピリチュアル関係には否定はしませんし私はスピリチュアルに関しては肯定的なところもあるのですが、例え当たったことがあったとしても上記のような問題点もあるので催眠を受ける側も術師や療法士側も『過誤記憶』などに関しては理解しておくべきだと思いますし催眠を行う側としては研究や調査はしっかりと行っていくべきでしょう。

特にこの手の催眠を受ける側の人たちは、催眠の効果による高額な宗教勧誘や催眠以外の"しつこい"勧誘などにお気をつけください。上記のことを話さず催眠という技術を上手く使って被験者の感情に訴え、他のことへ誘導することがとても上手です。

催眠自体の技術は悪いものではないですし、術師や療法士の使い方次第です。催眠が良いツールとして認知されることを願っています。

参考文献

Secret of Hypnotherapy - Janet Fricker & John Butler (2004):DK
The Memory Illusion: Remembering, Forgetting, and the Science of False Memory - Julia Shaw (2016) :Doubleday Canada

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