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上場企業初のインパクトレポートを発行したすららネットCEO湯野川さんに聞く  「インパクトレポートで、事業を可視化、成長させる。」


社会課題を解決するために、どのような成果(アウトカム)を目指し、どのように課題を解決していくのか――それらをロジカルに可視化するインパクトマネジメントレポート(IMR)を今年5月、株式会社すららネットが公開しました。上場企業初となるインパクトレポートの作成に深くかかわったSIIFの小柴と藤田が、すららネット代表取締役、湯野川孝彦さんに制作の意図とそこで発見した価値についてお聞きします。

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(右)株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦さん
(中央)SIIFインパクト・オフィサー 小柴優子
(左)SIIF事業本部長代理 藤田淑子

小柴 インパクトマネジメントレポートを発行することになったきっかけは、昨年11月にSIIFが開催するフィランソロピー・ラウンドテーブルへのご参加でしたね。「ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンド」のインパクトレポートをお見せしたら、すぐに「やりたい!」とおっしゃいましたよね。ご決断が早いなという印象でしたが、インパクトレポートの何が湯野川さんの心に響いたのでしょうか。
湯野川 以前、藤田さんから、事業とソーシャルの世界はつながっていて、投資と寄付の間にESG投資やインパクト投資があるという説明を聞いて、興味を持っていました。うちもまさに事業と社会性がクロスしている。もう一つは、もともとわが社は社会課題を事業で解決するような側面がありますが、ソーシャルな面については特に開示していなかった。それを形にできるといいなと思っていました。
実は、お付きあいのある仙台のNPO法人アスイクさんがSROI(Social Return on Investment=社会的投資収益率)を出していて、彼らがやっている社会的インパクトが定量的に数値で示されていたのを見て、これはすごいと思っていました。数字で示すことができたら、もっと世の中に訴えることができる。SROIを見たのは何年も前でしたが、SIIFさんの説明を聞いて、点がつながったのです。
小柴 アスイクさんはSROIという定量的なデータを取っていましたが、ロジックモデルを選ばれたのはどうしてですか。
湯野川 弊社の場合は事業が多岐に渡りますから、数字だけに信ぴょう性を持たせるのが難しいかなと思いました。ロジックモデルのほうが我々としても取り組みやすいし、毎年メンテナンスしてKPIを充実させていける。今はこちらがいいと思いました。


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すららネット インパクトマネジメントレポートはこちら>>

eラーニングは努力が可視化され、結果と結び付けやすい

小柴 今回、ロジックモデルを、「不登校」「貧困」「発達障害」「低学力」という4つの切り口で作りました。これが重要だったと思っています。すららネットさんは、非認知能力をとても大事にされていますよね。
湯野川 これまで、すららネットに取り組むことで、単に成績が上がるというより、子どもたち自身にものすごい成長や変化が表れる例をいくつも見てきました。子どもには「やればできる」というマインドセットが大事です。eラーニングの場合、「努力」が可視化しやすく、何時間やったかが明確に分かるので、努力と結果を結び付けやすい。自分の努力に結果がついてくれば、それが自然と体に刻み込まれます。これは非認知能力をつくる上で大事な要素の一つですよね。これはどの教育機関もほとんどやってないことですが、われわれは意識してやっています。
小柴 自信がついて非認知能力が高まるわけですね。
湯野川 それも今後は定量化して見せることができたらいいなというのが課題ですね。データが大事になるとは思っていたので、将来分析できるように生徒のログデータはすべて取ってあります。
小柴 だからこそ1年目でこんなに成果が出せたのだと思います。他社の場合、ロジックモデルはなんとかつくれてもデータを取るのにすごく時間を要するのが現状です。

ロジックモデルをつくって足りなかったパーツが明確になった

藤田 ロジックモデルをつくって何か発見はありましたか?
湯野川 幹部も入れてテーマごとに議論したので、お互いに考えていることの理解が深まりました。議論をしていく中で、最終的なアウトカム、つまり「子どもが将来社会で活躍する」ために何が必要かを必然的に考えますよね。ロジックモデルのインプット(左半分)は我々が提供するサービスだから視野が開けている。でも中長期アウトカム(右半分=子どもたちの将来)は見えてないことが多い。けれど、何が大事かと意識できたのは大きい。右側にいけばいくほど、できてないことも多いので課題であるし、経営面からいうとビジネスチャンスでもありますね。

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引用 すらら IMPACT MANAGEMENT REPORT 2020 P.3-4

藤田 実際、レポートができてから非認知能力を高めるプログラムを考えるような事業の見直しもされていましたよね。
湯野川 ロジックモデルをつくったことで、足りなかった部分の他社との業務提携を進めることに役立ちました。たとえば発達障害の子どもが社会に出るためには就労支援なども必要ですし、ソーシャルスキルの習得も必要です。そういう活動をしている団体とオンラインで協力を得ることができました。足りなかったピースが明確になりましたね。
小柴 実際にロジックモデルを作ってみて、イメージ通りでしたか?
湯野川 出来たものに関しては違和感のない形にはなりましたね。「不登校」「貧困」「発達障害」「低学力」という4つのアウトカムが同じような内容になるとは意図していませんでしたが、結果的にやっていて面白かった。
藤田 「格差が是正される」という同じゴールを念頭に置いて、事業を作られてきたということですよね。それがロジックモデルで明らかになった。
湯野川 そうですね。でも、最初から同じゴールを設定して目指したわけではなく、議論していく中でゴールの形が同じだということが明らかになったのが良かったですね。
小柴 私たちSIIFとしては、さまざまな企業の方がロジックモデルをつくって事業改善につなげていただけたらと思っています。

長期的にファンを増やすことにつながる

小柴 インパクトマネジメントレポートを発行して、周囲からはどういう反応がありましたか?
湯野川 コモンズ投信鎌倉投信さんからは関心を持っていただいていますし、私立学校でもアンテナの高いところからは評価をいただいています。中長期で運用するファンドや社会性を重視するファンドにはこちらも意図的に持参して見てもらうこともしています。形になっているので非常にやりやすいです。あとは人材採用のときはすごく役に立つと人事から聞いています。漠然と「いいことやってます」ではなく、ここまで形にしていると求職者の方に、確かに具体的なイメージを持っていただきやすくなります。
小柴 外部から「インパクトレポートを発行すると株価は上がるのか」と聞かれたことがありましたが、湯野川さん自身は株価や投資家への期待はありますか?
湯野川 コモンズ投信や鎌倉投信のように、同じ投資をするなら「世の中にいい影響を与える企業に」という方は増えてきていると思います。レポートを出したから株が上がるという都合のいいことは考えていませんが、長い目でみればファンが増えて株価にもいい影響を与えると思っています。そういえば先日、名刺交換したベンチャー企業のトップの方から、「インパクトマネジメントレポートを出されたと証券会社の方から聞きましたが…」と声をかけられて、とても驚きました。

未来を示す新しい地図をみんなで共有できる

藤田 私は常々、フィランソロピーにもロジックとサイエンスが必要だと考えています。単に熱意と共感だけでフィランソロピーをやろうとしても自律的成長が難しい。湯野川さんが示されたように、フィランソロピーとロジックとサイエンスがあれば、世の中は良くなると思っています。
湯野川 フィランソロピーとして財団の方が貧困地域の教材やパソコンを送っていますが、「送って終わり」になることが多いですよね。われわれのようなEdTechが入ると、継続しやすいし、成績が向上したかどうかも分かる。まさに社会貢献にデータを持ち込むことができる。そういう面でも売り込んでいきたいですね。
藤田 そういう意味でも、今回のレポート制作はすごく楽しい実験の場でした。ソーシャルインパクトレポートを出すことは数字を開示することだし、コストもかかるため、ある意味、勇気が要ることだとは思いますが、その辺りどのようにお考えでしょうか。
湯野川 うちは会社自体が少人数でマルチタスクなので、みんな意気に感じてくれてましたね。まずは続けること。毎年見直しをして、アウトカムに向けて足りないところはプラスしていく。ロジックモデルはマップのようなものなので、みんなで同じ地図を頭に入れながら進められることは価値がありますね。ここにまだ未踏の地があった、と発見できる。
小柴 CEOの頭の中にはマップがあると思いますが、それを社員みんなで共有できて探求できることは大きな価値の一つですね。
湯野川 つくるにあたっては、資本も労力も想定していたよりは負担が少なかったですね。ロジックモデルをゼロからつくったら非常に時間がかかったと思いますが、SIIFさんが原案を作ってくれたことでかなり助かりました。
小柴 これからも協力して、できることはお手伝いしていければと思います。

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