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分科会活動報告#03 海外連携分科会〜海外から学びつつ、日本からの発信も目指す

インパクト志向金融宣言分科会の活動報告、第3回は海外連携分科会をご紹介します。この分科会は、当宣言のTheory of Changeにおいて「戦略1」に掲げている「知る・繋がる・業界の知の向上・海外との連携」を担っています。2022年3月時点で15社が参画。GLIN Impact Capital代表パートナー・中村将人氏とリアルテックホールディングス取締役社長・藤井昭剛ヴィルヘルム氏が共同で座長を務めています。

GLIN Impact Capital代表パートナー 中村将人氏(左)
リアルテックホールディングス株式会社取締役社長 藤井昭剛ヴィルヘルム氏(右)

「知識向上」「ネットワーク拡大」「日本からの発信」が三大テーマ

中村 海外連携分科会では、インパクト志向金融宣言のTheory of Changeに基づいて、メンバー間で分科会の方向性を議論しました。その結果、「知識向上」「ネットワーク拡大」「日本からの発信」の3つを大きなテーマに掲げています。これにより、日本におけるインパクト投資がグローバルコンセンサスに沿って発展することで、日本のインパクト企業が海外のインパクトファンドから理解され投融資を受けやすくなったり、世界に先進する社会課題解決企業としてモデルケースになることに貢献できればと思っています。

インパクト志向金融宣言海外連携分科会-1
インパクト志向金融宣言海外連携分科会-2

藤井 定例会を開いて情報交換するほか、海外の実務者を招いての講演や勉強会も企画しています。後者については分科会に限定せず、興味がある人は誰でも参加できます。昨年はSDGインパクトのディレクター、ファビエンヌ・ミショー氏、GSGのCEOであるクリフ・プライヤー氏が来日、それぞれと座談の機会を持つことができました。海外との接点、意見交換の場として大きかったと思います。

中村 その2回はとても貴重な機会でしたね。また、6月にはSIMIと共催で、世界的なインパクト評価機関BlueMarkのCEOを招いてウェビナーを実施しました。10月には世界中のインパクト投資家が集まるGIIN Investor Forum2022に参加して、インパクト志向金融宣言に関するセッションを行いました。日本からの発信として有意義だったと思っています。今後もこういう機会を積極的に持ちたいし、分科会のほかのメンバーにも参加してもらって、海外とのパイプを太くしていきたいですね。

実践知を積んで、先行する欧州の議論にキャッチアップする

ーーこれまでに海外との連携から学んだことはありますか?

中村 例えばIMMに関して、海外にはすでに「5 dimensions」や「IRIS+」といったフレームワークがあります。こうした知識を学ぶことは重要ですし、すでに一定の進展をみています。ただ、それだけでは十分ではありません。私たちの経験で言えば、国内の事業に投資するとき、海外のガイドラインをそのまま当てはめることが出来ないケースが多くあります。例えば農業分野のインパクトや社会課題で考えると、海外では地主と小作農の間の搾取関係や農業従事者の識字率が指標に挙げられますが、国内の課題は農家の高齢化やフードロスだったりしますから。

Five dimensions of impact
https://impactfrontiers.org/norms/five-dimensions-of-impact/
IRIS+
https://iris.thegiin.org/ 

藤井 そこは扱うテーマにもよるでしょうね。地球温暖化や癌治療といった世界共通の課題については、IMMの指標も世界共通です。一方で、中村さんがおっしゃるような日本特有の課題に関しては国内向けにカスタマイズする必要があるでしょう。特に高齢化については日本が課題先進国ですから、国内の議論を海外に発信することで、他国に貢献できるかもしれません。

中村 また、海外では今、インパクトウォッシングやそれを避けるための監査の設計や手法が重要な議題になっています。日本はまだ具体的な手法について議論している段階なので、ヨーロッパは日本より2、3段階先に行っているなという印象です。

藤井 日本では「インパクト評価のフレームワーク」「適切なKPI設定の仕方」などの各論に傾きがちですが、海外、特にヨーロッパでは、「インパクト投資の本質とは何か」という高次の議題設定がなされているように思います。倫理的に何が重要かといった、哲学的な思考から出発する点がヨーロッパらしいですね。

中村 そのことはGIIN Investor Forum2022に参加したときにも実感しました。産業革命も資本主義も先行した国々であることが関係しているかもしれませんが、一般の人々の環境や社会課題に対する認識も進んでいるように思います。とはいえ、日本にも古くから「三方よし」といった考え方があるわけで、正しい情報が広がりさえすれば、問題意識も高まっていくんじゃないでしょうか。

藤井 ヨーロッパがなぜこんなに気候変動対策に力を入れているかといえば、先んじてルールを設計して、自分たちが勝てる仕組みをつくろうということでもあるわけです。日本としては、早く実践知を積み重ねて、追いついていかなければなりませんね。

中村 今年4月には海外連携分科会とIMM分科会で連携して、インパクト志向金融宣言署名機関向けに、国際的なインパクト投資のフレームワークを提唱している「Operating Principles for Impact Management」をお招きしてウェビナーを企画しています。また、欧州のインパクト投資VCのコミュニティであるImpact VCが発行したガイドラインを基にした勉強会と、Impact VCとの連携を企画しています。われわれがナレッジを蓄積していけば、海外実務者とのディスカッションもさらに深化するでしょう。今後はそういった機会を増やしていきたいと考えています。

他分科会とも連携して課題を明確にし、活動を前進させる

ーーこれからの分科会運営については、どのようにお考えですか?

藤井 海外連携分科会は業界横断的、課題横断的な性質を持っているので、ややもすると単に「海外とゆるくつながる活動」になりかねません。より明確なテーマを設定する必要を感じています。

中村 みんなで課題を持ち寄ってコンセンサスを形成する、というタイプの分科会ではありませんからね。IMM分科会とも近い課題を持っているので、今後は連携していく計画です。一方で、先ほど話したグローバル指標の日本向けカスタマイズについては、VC分科会や地域金融分科会と課題を共有して議論することも考えられます。

藤井 ほかの分科会からのリクエストをどう吸い上げるかも、これからの課題ですね。

中村 海外連携分科会の中長期の目標は、グローバルなガイドラインの議論に日本から提言を持ち込むことや、海外プレーヤーとの意見交換や共同投資が日常化すること、ゆくゆくは、世界から日本企業に対して盛んにインパクト投融資が行われるような状況をつくることです。インパクト志向金融宣言に集結する50近くの署名機関の力を背景に、グローバルな影響力を発揮できるようになりたいですね。

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