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「シェア」と「ケア」をテーマに投資に挑戦。自らインパクト投資を“発見”した高校生たちにインタビュー(後編)

中・高・大学生の金融・経済学習コンテスト「日経STOCKリーグ」(日本経済新聞社主催)で、「シェア」と「ケア」をテーマにポートフォリオを構築した渋谷教育学園渋谷高等学校のチーム「tam tam」。メンバー3人の深い議論と考察は、実際にインパクト投資に携わる私たちにとっても大いに参考になるものでした。後編では、3人が自らのポートフォリオへの評価や取り組みを通じての感想を率直に語ってくれました。

(インタビュアー:SIIF常務理事 工藤七子)

左から 渋谷教育学園渋谷高等学校2年生谷田そよ、渋谷教育学園渋谷高等学校2年生柳澤京佐、
渋谷教育学園渋谷高等学校2年生森木将慧

収益性も考慮した8割とインパクト重視の2割でポートフォリオを構成

谷田さん ここまでの第4次スクリーニングで、投資先企業の8割を絞り込みました。残る2割は、上場していない企業や定量評価では取り上げられなかった企業から、私たちの考え方に合う企業を、インパクト重視で選んでいます。

その背景には、前出のWealthPark研究所の加藤所長のお話があります。例えば結婚相手を選ぶとき、スクリーニングでは選びませんよね。選ぶという意識さえなく、奇跡的な出会いや結びつきがある、そういう要素が、投資にもあるのではないか。ロジックや定量評価ではなく、私たちがテーマに基づいて「投資したい」と思った企業もポートフォリオに組み入れたい。それがこの8:2の考え方です。

工藤 今回のプロジェクトを通じて見つけた皆さんの「推し」の企業はありますか?

谷田さん 私にとって思い入れのある企業のひとつとして、リネットジャパングループを入れました。子会社であるアニスピホールディングスは、早い段階でリサーチにご協力くださった企業で、そのおかげで投資テーマがクリアになったと思っています。

アニスピさんが展開する障害者向けグループホームでは、殺処分されかかった動物たちを保護し、その世話をすることで地域社会との「つながり」をつくっています。ほかにも、施設に空き家を活用したり介護者不足を補ったり、いろんな課題をリンクさせながら事業をつくられている。社会課題の解決と収益性を両立させている企業だと思います。

柳澤さん 僕は以前から農業に興味があったので、雨風太陽に注目しました。雨風太陽は農家と消費者が直接商品を売買できるプラットフォーム「ポケットマルシェ」を運営しています。インタビューしたときに印象的だったのは「他の業態がなくなっても、食は絶対になくならない」という言葉でした。その「食」というテーマと農家と消費者との「つながり」を掛け合わせれば、きっと大きなインパクトを生むだろうと思いました。

もうひとつ「農業によって、地方は都市とは異なる独自の魅力を持った場所になる」という言葉も印象に残っています。

森木さん 僕の推し企業は、第4次スクリーニングに残った面白法人カヤックです。その名の通り、本当に面白いんです。残念ながら直接お話を伺うことはできなかったんですが、人と人をつなぐ「地域通貨」の取り組みは、特に興味深いものでした。僕自身、たまたま渋谷を歩いていたときに、その地域通貨の取り組みに遭遇して、ネット上の知識と自分の現実が鮮やかにリンクしました。企業の雰囲気やホームページも個性的で、世の中にはこんな会社もあるんだなと、新鮮な驚きがありました。

ケアの能動的な「つながり」とシェアの必然的な「つながり」を組み合わせる

谷田さん 8:2に配分したことで、企業の規模も業種も分散しましたし、リスクマネジメントという意味でも、いいポートフォリオができたと自負しています。

柳澤さん ただ、財務面に着目した第2次スクリーニングを行ったものの、残念ながら運用成績は、あまり芳しくありませんでした。

柳澤さん ベンチマークが大企業中心のインデックスファンドなのに対し、僕たちの投資先はほぼ中小企業なので、そのことも要因かもしれません。

谷田さん 「投資家へのアピール」としては、まずシェアリングエコノミー市場そのものの魅力が挙げられます。シェアリングサービスはSDGsと密接に結び付いていて社会的インパクトが大きいだけでなく、拡大市場として他業種への経済的な波及効果が期待できます。前出のガイアックスさんからは「シェアリングエコノミーには、若者の需要にも年配者の需要にもマッチする要素がある」と伺いました。

シェアリングエコノミーはすでに注目されている分野ですが、私たちはそこに「ケア」を組み合わせることが重要だと考えています。

なぜなら、「ケア」は能動的につながることを求めてつながるものだと思いますが、「シェア」はサービスを通して付随的に、でも必然的につながれる点が特徴だと思うからです。シェアという無意識の「つながり」と、ケアという意識的な「つながり」を組み合わせることで、多様なターゲットにアプローチできるポートフォリオになると考えました。

工藤 なるほど、ケアは意識的でシェアは無意識。それは注目すべきポイントですね。

私たちが目指す「システムチェンジ」とは、つまり価値観の変容と行動の変容なんですが、意識的に価値観を変えようとしても、なかなかうまくいきません。ただ、最近、価値観より先に行動が変わることはあるのではないかと考え始めました。周りの空気や社会規範が変わると、人は無意識のうちにそれに沿った行動をするようになる。シェアをきっかけに無意識に行動が変わって、後から価値観が変わることがあるかもしれませんね。

取り組みを通じて自らも「つながり」の大切さを学ぶ

谷田さん この大会に参加して学んだことのひとつは「自分がコミュニティをつくる」という意識です。インタビューに応じてくださった方々からは、単に会社や団体に属しているだけでなく、そのコミュニティを主体的につくり、発展させていく意思が感じられました。それは私たちに欠けていたものだったと思います。

もうひとつは「つながり」の大切さを実感したことです。このレポートに取り組んだ半年間は、本当に充実した「つながり」を感じられる時間でした。先生をはじめ多くの方にいろんなタイミングでサポートしてもらいました。体調不良で途中から参加が難しくなってしまったメンバーがいて、彼女のチームへの貢献は大きく、それも大切な「つながり」です。

最後に、重要なのがレポートの表紙です。これはチームの3人ではとてもつくれなかったものでした。それで絵が上手なことで有名な同級生にダメ元で頼んでみたら、二つ返事で承諾してくれたんです。

私たちが目指す社会像を彼女に伝え、それを彼女が具現化してみせてくれた。この表紙があったからこそ審査員の胸に響いたのかもしれません。将来私たちが振り返ったときにも、真っ先に思い浮かぶと思います。私たちの思いをかたちに残せた、とても大きな「つながり」でした。

「投資で資本主義に挑戦する」。インパクト投資の本質に迫る感想

工藤 お話を伺って、「素晴らしい」という感想以外ありませんね。谷田さんはもともとは経済に興味が無かったと言ってましたが実際にこのプロジェクトに取り組んでみての感想はいかがですか?

谷田さん 深かった。経済って、ロジックではないんだなと思いました。投資だって、すべてデータで分析する人もいるかもしれませんが、そればかりではない。いろんなアプローチがあって、経済って本当に深いと感じました。その中で私たちは、社会課題というか、ある意味、哲学的なテーマを持って取り組んだつもりです。

森木さん 「シェア」や「ケア」、「つながり」というキーワードの大切さは伝わりやすいけれど、投資とはなかなか結び付かなくて。はじめは「資本主義への挑戦」と言ったりしていました。資本主義は経済のシステムだけれど、人間の「つながり」さえ金銭に還元するようなところがあるのではないか。それに対して投資で挑戦するというのは逆説的で面白いんじゃないかと思いました。

柳澤さん 「お金を増殖させる」という側面を持つ投資を使って、お金に還元できない「つながり」を復活させるっていう挑戦はいいな、と考えました。

工藤 良い議論ですね―!インパクト投資って投資の意思決定に経済合理性以外の軸を持ち込むという意味で、まさに資本主義への挑戦ともいえると思うんです。インパクト投資が目指す「システムチェンジ」は、究極には金融システムを変えるところに行き着きます。既存の投資のルールを自ら否定して、内側から書き換えようとするものなんです。だから、皆さんが考えたことは逆説的というよりも本質的といっていいかもしれません。皆さんの目から、インパクト投資の可能性はどんなふうに見えますか?

森木さん 投資を目的でなく手段のひとつと捉えたときに、いろんな観点から企業を見ることはこれからの時代に必要な考え方だろうと思いました。指標をつくるのは大変でしたが、自分が目指す社会像や解決したい課題を投資に反映できるのは、とても魅力的だと感じます。

柳澤さん ボランティアで、ウクライナ避難民を支援するNPOに伺ったことがあるんです。そのとき、社会的にきわめて重要で価値あることをしているのに、利益が出なくて規模を拡大できないという状況を目の当たりにしました。社会的に価値ある活動を応援する方法が、まさにインパクト投資だと思います。インパクト投資がもっと普及したら、善意だけでなく合理的な動機から社会的な事業や投資に取り組む人が増えるかもしれない。それはすごく意義があることだと思います。

谷田さん 株式投資の結果はすべて数値に表れますが、その数値が自分たちの目指すものなのか、ずっと疑問を感じていました。この大会は、運用成績がよければ勝てるわけではない、運用成績で評価する大会ではないところがいいなと思ったんです。

インパクト投資は、経済的なリターンに付加価値を加えることで、それまで私が投資というものに感じていた矛盾を解決してくれそうです。こんな言い方はおこがましいですが、社会的価値があると思います。

工藤 とても嬉しいお言葉ですね。私たちにとっても、とても学びが多く、また力をもらうお話を聞かせていただきました。今日は本当にありがとうございました。

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