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休眠預金事業で国内初のインパクトレポートを発行。その中身をご紹介します

2022年1月24日、SIIFは休眠預金事業では国内初となる、社会的インパクト評価レポートを発行しました。ここでは、事業の概要とレポートのポイントについてご紹介します。

SIIF 休眠預金事業インパクトレポート こちら >>

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SIIF インパクト・オフィサー 小笠原 由佳


19年度に始まった休眠預金事業。開始後1年時点の経過と成果を報告

休眠預金事業とは、10年以上入出金のない預金を、社会課題の解決のために役立てる制度です(預金者は、所定の手続きを取れば引き出せます)。2018年に法律が施行され、19年度から運用が始まりました。SIIFは19年度、20年度、21年度の「資金分配団体」に採択され、実際に事業を行う「実行団体」に資金を提供し、伴走支援を行っています。

SIIF 休眠預金活用事業 こちら>>

(休眠預金等活用制度の体制図)

休眠預金制度体制図

今回のレポートでは、19年度、20年度、21年度の3つの事業を、おのおのの進捗状況に応じてまとめました。それぞれ、SIIFとしてのロジックモデル(インプットから成果までの道筋、下図は19年度の例)と、実行団体ごとのロジックモデルを示しています。

(SIIF 19年度事業ロジックモデル)

SIIF_2019年度事業ロジックモデル

各事業期間は3年で、19年度の事業は開始からおよそ1年半が経ちました。ここまでの成果を確認し、成果へ至る仮説や指標を見直す中間評価を行い、現時点における「アウトプット/アウトカム」を分かりやすく図示しました。


ソーシャルビジネスの成長を支援する19年度事業。その成果を明示

19年度の事業でSIIFが掲げたテーマは、「ソーシャルビジネス成長支援」です。採択した6つの実行団体のうち、Rennovater(リノベーター)株式会社を例に、レポートの内容をみてみましょう。
まずはじめに、実行団体が解決しようとする社会課題について、具体的なデータを用いて解説しました。Rennovaterの場合は「住宅確保困難者の存在」です。

(Rennovaterのページ)

リノベーター株式会社

日本の賃貸住宅は約8割が民営で、しかも家主の約8割が単身高齢者の入居に、約7割が障がい者や外国人の入居に抵抗を感じているという調査があります。いっぽうで、借家に住みたいと希望する高齢単身世帯や生活保護世帯は今後も増加が予想されます。

Rennovaterの事業は、こうした住宅確保困難者に対し、良質な住居を低賃料で提供するものです。アウトプットの一つが供給戸数で、中間評価時点で71世帯でした。

Rennovaterは入居中も、住居のメンテナンスに加え、見守りや就労支援など生活面のサポートを行います。安心して暮らせる環境を整えられたアウトカムとして、入居者が「住み続けたい」「前向きに生きられている」と感じることを指標にしました。住人アンケートでは、どちらも5段階評価で前年より1ポイント前後高くなっています。

さらに、中長期的なアウトカムとして、Rennovaterの取り組みが持続可能なビジネスモデルとなり、全国に拡がっていくことを目標に掲げました。

20年度のキーワードは「コレクティブ」。議論を地域に拡げる

20年度のSIIFの事業テーマは「コレクティブインパクトによる地域課題解決」です。

19年度の事業は各実行団体の取り組みを個別に支援するものですが、20年度は特定の社会課題に関して、地域の中心的な団体と、その団体による地域支援体制の構築をサポートします。

実行団体は4団体。レポートには、事業開始から約半年かけてまとめた現時点のロジックモデルを掲載しました。私たちは、ロジックモデルをつくるプロセス(休眠預金事業においては「事前評価」)を、常に大切にしています。20年度は特に、実行団体だけでなく、地域の関係者にも議論に加わっていただいて、じっくりと時間をかけて練りました。まだ議論を完璧にできているわけではないですが、現時点での可視化されたものになります。

21年度はこれから実行団体を公募するので、レポートにはSIIFのロジックモデルだけを掲載しています。21年度のテーマは「地域インパクトファンド設立・運営支援」。SIIFの大きなミッションである「インパクト投資の普及促進」につながるテーマです。

休眠預金活用事業では、今のところ助成金しか出せないのですが、法律上は投資も融資も可能になっています。せっかく休眠預金を使わせていただくなら、ゆくゆくは、出資してリターンを得てまた出資する、持続的に成長していく循環を目指すべきではないでしょうか。21年度の事業で、そのきっかけをつくれれば、と考えています。

事業者と地域金融機関連携の先駆者が経験を語る

巻頭特集では、19年度の2つの実行団体と、それぞれを支える地元の金融機関をお招きして座談会を行いました。

休眠預金による3年間の助成が終わったあと、誰が事業者をサポートしていくのか。例えば、地域の信用金庫が資金調達やインパクト評価で連携するような仕組みが考えられます。

SIIFは全国に約250存在する信用金庫の中央金融機関である信金中央金庫と包括連携協定を結んでおり、休眠預金事業の公募や実施に際しても協力を仰いでいます。その19年度の採択事業のなかから、実行団体と地域金融機関の連携を実現している先駆者にご登壇いただきました。奥能登で地域企業の相互支援『能登ローカルラボビジネス TANOMOSHI』を展開する株式会社御祓川興能信用金庫、前出のRennovaterと、京都信用金庫の100%子会社・京信ソーシャルキャピタルの4者です。

座談会

奥能登でも京都でも、休眠預金事業が終わったあとも、事業者と金融機関が協力して事業を継続し、自立自走していくことを目指しています。金融面だけでなく、コーチングやコンサルティングなどを通じて支え合う、地域循環型社会の必要性が語られました。

ほか、2021年11月に開催した『2019・2020 年度休眠預金事業支援先合同セッション』のレポートも掲載しています。19年度と20年度の実行団体10者が一堂に会して互いの知見を共有し議論するイベントで、ここから新たな協力関係も生まれました。

走り出した休眠預金活用制度の改善の検討材料に

休眠預金活用事業には日本民間公益活動連携機構(JANPIA)への事業報告が義務づけられていますが、私たちはこれに加えて、より多くの方に活動とその成果を知っていただこうと、このレポートを企画しました。レイアウトや図解に工夫し、見やすく読みやすい冊子になるよう心掛けています。

休眠預金活用制度が始まって3年になります。制度をつくるために尽力された方々に、ぜひその成果を見ていたければと思います。また、この法律は施行後5年を目途に見直しが行われることになっています。その検討材料として、このレポートがお役に立てば幸いです。

また、これから休眠預金活用事業やソーシャルビジネスに取り組む方々、取り組みたいと考えている方々には、ロジックモデルの具体例やアウトカム指標の設定などが参考になるのではないでしょうか。

19年度の事業は、23年3月に終了します。そのときにはまた改めて、最終レポートをまとめてお目にかけたいと考えています。


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