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介護課題デザインマップから課題を俯瞰する(後編)

HNF社会的インパクトレポート第4弾の発行を記念し、同レポート内で制作した「介護課題デザインマップ」のワークショップ参加者が改めて集い、介護課題マップの活用法やワークショップで得た気づきなどについて話し合いました。後編では、マップから見えてくる今後の方向性など話し合っています。

(クレジット)*SIIF以外50音順

秋本可愛 ㈱Blanket代表取締役、KAIGO LEADERS発起人
青木武士 CMV代表取締役
河村 由実子 リハノワ代表、理学療法士
小柴優子 SIIFインパクトオフィサー
田立紀子 SIIFインパクトオフィサー

小さな正解がたくさんある領域

小柴:日本にいると介護領域の課題に対し解決策がまだまだワークしていないと感じますが、他の先進国はどうなのでしょうか。人の最期を考えるのは難しい問題ですし、資金的な限界もありますから、現状以上を目指すことができるのか考えてしまいます。
青木:介護という問題に対して日本の自助・共助・公助 のバランスが世界ではどう位置づけられていているのかという話ですね。
秋本:公助については、2000年に介護保険ができてからガラリと変わったと私は認識しています。昔は、介護は家族の問題、極端に言えばお嫁さんの仕事という時代でした。今でも十分に家族が担っている状況ではありますが、家族依存から脱しようという流れができ、多くのサービスが生まれて来ました。病院で亡くなるということの限界が見えてきているなか、その役割は介護に降りてきていて、お看取りにも加算がつくようになり、介護・福祉が担わなければならない領域が広くなってきています。リソースが圧倒的に足りないなか、負担をどう分担させるかというのは、介護領域のテーマのひとつですね。では何が正解なのかというと、おそらく答えはひとつではない。地域や家族など小さな単位で正解がたくさんあるというのが、ひとつの解ではないかと考え始めています。
小柴:小さな正解がたくさんあるというのはすごく腑に落ちますね。
河村:その文脈で言うと、介護保険が始まって20年、ようやく正解に近づいてきた施設が出てきていると取材をしながら感じます。介護施設がその地域に本当に馴染むのに10年くらいかかりますから。今、素敵な取り組みをしている施設が地域のあちこちに出てきています。ただ、現場で磨かれたそのモデルをどう広めたらいいか分からない人が多いですね。そこはほかの業界の方が参入できる部分だと思います。
小柴:良い取り組みはたくさんあるものの、それが横に広がっていかないということですね?
河村:はい。地域色もあるなか、なかなかパッケージ化が進んでいません。
小柴:ビジネスで解決できることもあるのでしょうか。
青木:あると思います。地域差や生活の違いを考慮すると、どうしても中央集権的な画一的サービスでは限界があります。河村さんが先ほどおっしゃった ように地域に密着したサービスというのは利用者さんの要望により少しずつ形を変え、その地域にとって望ましい姿になっていくものですから一朝一夕にはできません。フランチャイズ化、ボランタリーチェーン化させる際、地域に合わせて最適化したものの最大公約数をどう採り、それをどう展開させるのか、ビジネスとしてハードルは高いですが、可能性を感じます。
厚生労働省はまず介護保険制度にて 総量を提供し、介護のインフラを整えました。今、そこからインフラを収斂する段階に入っていて、質の問題に議論が向いています。 ようやくデータが活用され始め、質の高いサービスを提供する事業者の競争優位性も出てきていますから、これから面白くなると思います。
田立:総量の提供の時代から、最適化の時代、質の時代に入ったということですね。
小柴:介護のベンチャー企業にとって、現在の介護業界の状況はいかがですか。
青木:起業しやすい環境だと思います。これまではインフラが整っていなかったがゆえに、どれだけのヒト・モノ・カネが動かせるかというリソース勝負なところがありました。いまはAIなどテクノロジーを介在させ質を高めることが重要な成功要因となってきています。 国も質の評価に軸足を変えてきていますから、チャンスが多いと思います。
介護マップで言えば、とくに需要側、利用者サイドについてはこれまでプレイヤーがあまり手を付けてこなかった分野ですね。介護保険制度が始まって20年、ようやく介護という言葉が一般化し、環境が整ってきています。団塊の世代が後期高齢者になってきていますが、その子ども世代は学生時代から介護保険がある状況で、ACPについても真剣に考えている人は多いでしょう。今後、利用者サイドへのサービスは広がっていくと思います。

介護課題デザインマップ

名前のついていない課題

小柴:マップは需要側の課題、供給側の課題、環境側の課題と大きく分けて整理していますが、この点で気になるところはありますか。
青木:各領域にまたがるような課題は複雑で解決が難しい一方で、もしかしたらひとつ解決したら両域の課題が解決できるレバレッジポイントがあるのかもしれないと感じています。
田立:私は環境側の制度面でまだまだ改善の余地があると感じています。例えば日本では介護休暇の取得率が悪く、有給休暇などで代替してしまうこともあるため、国 も企業も実態を把握できていません 。介護休業制度についても、そもそも介護という終わりの見えないものに対し、 3カ月仕事を休むことに意味があるのかという問題があります。介護と仕事の両立を目指す方向に舵を切っている国も多く、日本も共働きが進むなか、誰かが犠牲になったり介護離職したりすることがないよう、制度面でのサポートが必要だと感じます。
小柴:そうですね。名前のついていない課題が実はたくさんあり、それに名前を付けて見える化することで、そこの課題に取り組む人が出てくるのではないかと思います。例えばヤングケアラーの課題などは名前がついたことで注目されるようになりました。
田立:課題を顕在化させるのは大事ですよね。名前がつくことで、事例が紹介され、人々に気づいてもらえます。
秋本:介護と仕事の両立の話が出てきましたが、今のこの課題マップに挙げられている環境側の課題の「環境」が、家族にも紐づくなら、家族 が所属する企業も環境のひとつと言えます。日本では、多くの産業が介護、ひいては高齢者を考慮しないとビジネスとして成り立たなくなってきています。コロナ禍でホテルが突然、療養機関になりましたが、あの時の動きのように今の機能の代替、もしくは今の機能に介護をアドオンする動きは今後増えていくだろうと感じます。

今後の方向性

青木:SIIFでは、このマップのどのような使い方を検討されていますか?
田立:SIIFは企業・団体とパートナーシップを組み、インパクト投資や助成といった資金的支援と、伴走支援のような非資金的支援の2つをセットに、ともに社会課題の解決を目指しています。このなかで、まずどの事業者さんとパートナーシップを組むか検討する際にこのマップはとても役立つ と感じています。また、少し時間が経過し、期待するアウトカムがある程度出てきた段階でまた課題マップをアップデートすると、課題の変遷や次に解決を目指すべき課題が明らかになるため、長期的に活用できると期待しています。
小柴:もし2回目のワークショップを実施するなら、今度はこういう視点を入れたいというのはありますか。
秋本:介護休暇を出す側の企業の人事担当者などの意見も聞いてみたいですね。また、ケアマネジャーなど介護の専門職の方や、介護食メーカーの方など介護に関わる産業の方にもお話を伺えたら、また違う視点がありそうだと思っています。
河村:私は、介護される方や、ご家族など当事者の話も伺いたいです。
小柴:人口が減少している地域の課題と、東京など大都市圏の課題は異なると思いますから、双方の視点を入れるのもいいかもしれません。
田立:介護の研究者のなかには、実際に親御さん の介護をされつつ、ケアの在り方を探って研究している方もいます。専門家でも、自分の親の介護はセオリー通りにいかず、苦労するそうです。 そういう方の意見も聞くと新たな発見がありそうだ と思いました。
青木:より多様な方が集まってくださるといいですね。

ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンド
インパクトレポート2021

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