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ユニコーンを追い求めない

〜インパクト投資はゼブラ企業に何ができるか〜

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■

スタートアップの世界で昨今、注目を集めているのが「ユニコーン」の存在です。ユニコーン企業とは一般的に、未上場で評価額が10億ドル以上、設立10年未満のベンチャーのこと。あまりにも稀少性が高いため、仮想動物の名を冠して「ユニコーン企業」と呼ばれるようになりました。かつてのフェイスブックやツイッター社がそれです。急激な成長を成し遂げるため、投資するベンチャーキャピタルは短期的に大きなリターンを得ることができます。

独自のビジネスモデルで新しいイノベーションを創出するユニコーン企業ですが、反面、成長を急いで事業を短期的に拡大するあまり、結果として社会的な影響を軽視してしまうこともあります。ときには若きCEOが持つ倫理観の危うさが指摘されことも。ユニコーンを否定するわけはありませんが、急速な成長と拡大ばかりを求められる風潮に異を唱えるのが「ゼブラ企業」です。

昨年5月に出席した「スコールワールドフォーラム※1」(The Skoll World Forum on Social Entrepreneurship)で、ゼブラ・ユナイト(Zebras Unite)という組織を運営する女性起業家2人に出会いました。以前から抱いていた、社会インパクトを重視する企業のニーズに合った性質の資金を投資家が提供するべきだという問題意識をぶつけてみたところ、ゼブラ・ユナイトの2人が興味を持ってくれ、意見交換ができました。

ゼブラ企業とは、急成長を目指すユニコーンへのアンチテーゼでもあり、新しいビジネスモデルで世の中に価値を生み出しながら、持続可能で地域社会や顧客、社会と共存共栄しながら発展していくことを目指す企業と定義されています。“利益”と“社会改善”という白と黒の両方を持つのが“シマウマ”です。
ゼブラ・ユナイトは起業家女性4人が創設し、志を同じくするスタートアップ企業や共感を持つ人のコミュニティを形成して、今のスタートアップやベンチャーキャピタルの在り方に疑問を投げかけています。その主張はニューヨークタイムズやBBCなどでも取り上げられました。

社会を変革するスタートアップの良さと、持続可能なスモールビジネスの良さを持ち合わせた“シマウマ”。その在り方は我々がインパクト投資の対象とする企業と共通する面が多くあります。

私はこれまで多くのソーシャル・ベンチャーを支援してきましたが、社会的インパクトの拡大を考えて事業計画を立てていくと、必ずしも短期的な利益だけを優先できません。通常なら3年5年で売り上げを伸ばすところを10年かけて成長していく青写真を描く場合もあります。しかし、こうした事業計画は、短期的な利益を目指す投資家からは成長スピードが遅いと取られてしまうのです。

こうした状況の中で、ゼブラ企業の健全な成長を促す資金をどう調達していくべきか。私はインパクト投資には大きな可能性があるのではないかと感じていますが、従来の投資モデルをベースにしたものでは、結局、望まれる成長スピードにおいてミスマッチが起こってしまうでしょう。

また、ゼブラ企業は地方にも多く存在します。アメリカでベンチャーキャピタルのお金の多くがシリコンバレー周辺やNY、ボストン周辺に流れているように、日本ではリスクマネーは東京に集中しています。地方にも、地域を支えるゼブラ企業の成長をサポートするリスクキャピタルが必要ではないかと感じています。

社会課題の解決をビジネスの手法で担う人たちに多様な資金が流れていくためにはどのような仕組みが必要なのか。投資先の成長スピードと資金レバレッジに依存しない投資モデルはあり得るのだろうか。世の中では、投資家に株式価値の上昇によってリターンを返す代わりに売上をシェアする手法やクラウドファンディングのような手法など、さまざまな模索が行われています。上記のようなファイナンスギャップを埋める資金の流れを、いかに作るか。ゼブラたちのポテンシャルを引き出す資金調達の仕組みを作ることが、我々にとっても重要な課題の一つなのです。

※1 米オークションサイトeBay共同創業者ジェフ・スコール氏が創設したスコール財団が主催となり、社会の多様な課題解決を起業家的なアプローチで取り組むことを目指す会議。毎年、英オックスフォードで開催され、社会イ2ノベーションに関わる専門家が議論を交わす。

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