ナンバーガールとぼく


RSR初日の中止がショックすぎて数日立ち直ることができなかった。再結成一発目とあっても会場が遠いとなかなか腰が動かないタイプなのに、ナンバガの時は即座に行動に出ていたからだ。台風の動きを一週間ほど事細かにチェックし続けて、その末に中止と来た時のダメージは自分でもビックリするほど重かった。重すぎて2日券を買っていたにもかかわらず全日程をキャンセルしてしまった。おかげで航空券のキャンセル代2万円弱をドブに捨てることになり、妻にこっぴどく怒られた。なんやこの人生。今は少し回復したのでようやくこの文章を書くことができている。

自分がナンバガを初めて知ったのは「シブヤROCKTRANSFORMED状態」がリリースされた頃だった。当時はネットはもちろん店頭での試聴もロクにできない田舎に住んでいたので、微妙にタイムラグが生じる雑誌の情報だったり、バンド名やアルバム名、ジャケットなどから名盤の「匂い」を本能で嗅ぎ取るしかなかった。ヴィジュアル系にどっぷり漬かっていた中学時代の自分に、何故か、何故かナンバガの「シブヤ」はピンときた。聴いてみてぶったまげたのだ。なんやこのいかつい声。なんやこの音の分厚さ、荒々しさはと。先にライブ盤を聴いてしまったのでその前の「SCHOOL GIRL BYE BYE」や「SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT」は少し物足りなく感じた。自分の経験則として、バンドというのはライブから入るとやたら思い入れが強くなる。それが疑似的な体験であったとしても。その経験則の第一歩がナンバガだったかもしれない。

そして「SAPPUKEI」の頃になると世間的な認知の幅もやや広がって、田舎のインディーズバンドファンの間でも名前くらいは聞いたことある、くらいの存在になっていた。しかし、当時の高校のクラスの間では完全にパンク/メロコア、所謂AIR JAM周辺のブームが最盛期で、カースト上位の男子にとってハイスタ、ブラフマン、ケムリ、スネイルランプといったバンドは必須科目のようなものとなっていた。自分はその辺にあまり馴染めずに細々とV系を聴いていた。黒夢~サッズは割と親和性があったからたまにCDを貸したりしていた記憶がある。そんな自分がたまたま、ナンバガのバンドロゴのステッカーをノートの表に貼っていたら、そのカースト上位のクラスメイトからこう言われたのである。「そのバンド、ダサいからあんまり聴かない方がいいよ」と。

このセリフは今でもはっきり覚えている。当時の自分にとってかなりショッキングだったし、価値観の根本の部分を揺るがされたような気分になった。えっこれダサいん?いやでも良いと思うねんけど…という気持ちを抱えつつも、あまりに衝撃がデカかったのでそれ以降しばらくナンバガから気持ちが離れていた。再結成するバンドはだいたい伝説と祭り上げられる。ナンバガなど下手すればその極致かもしれない。しかし当時の過小評価っぷりをリアルに肌で感じていた身からすれば、こんなにナンバガ好きな人いったいどこにおったんやという不思議な気分で一杯である。ただ不思議だけど、違和感はない。ようやく正当な評価を受けているとすら思っている。

それから高校を卒業し、たまたま大阪のCDショップで見かけたので久しぶりに聴いてみようと思って「NUM-HEAVYMETALLIC」を聴いたら再びぶったまげた。バンドは圧倒的に進化を遂げていた。怖っとすら思った。気付いたら最後のツアーのチケットは完売していた。ライブに行く機会を完全にすべて逃した。今にして思えば果てしない愚行だったと思う。それ以来他人の評価は、参考にはするが信じることは辞めた。

また人によっては再結成はダサいとする価値観の人間もいるだろう。おっさんじゃなく現在進行形の若手を聴けよと。それがロックたるものだろうよと。まあ気持ちは分からんでもないが、共感はひとつもできない。再結成するバンドがあちこちから伝説と謳われるのは単純にライブを見れない時間が長く続いて期待値が膨れ上がっているから、というだけのものだろう。若かろうがおっさんだろうが、継続していようが再結成だろうが、凄いバンドはいつどこで聴いても凄い音楽を鳴らしているし、ダメなものはダメなだけだ。中心の音楽あるいはライブこそが伝説と成り得る唯一の要件だと思う。そしてナンバガは、久しぶりに「感電の記憶」でその音を聴いたら、2002年当時はもちろんのこと、2019年の今の耳で聴いても他に代替の効かない凄まじい音だと実感した。今の時代においてもその刺激が十分有効だと再確認できて、思わず涙が出そうになった。この音を約20年越しに生で体感できるとなると、こんな幸せなことはない。

RSRは打ち消えた。保険ではないが、京都音博はチケットを手に入れている。1ヶ月予定が先延ばしになり、いい加減焦らされ過ぎて心がぐちゃぐちゃになっている。俺は再結成するバンドすべてに感謝している。

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