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「虹獣(コウジュウ)」3章:ルフゥ 1話:募想(ボソウ)

 いつまでも変わらぬ動物達の境遇、機能不全を起こした環境、そこで起きる虐待や虐め、暴行や略奪、留まるところは知れず、皆々が己の生を何とか保とうと必死になっている。

 幸せを願い求める人が、動物達を道具として利用し、虐待をして、終いには殺して食べる。奴らの幸せは動物達の不幸の上に成り立っている。その事を省みずに奴らは我々動物達へ一方的な犠牲を強いて虐げてくる。人は動物達を都合良く利用し、この動物は愛玩用、この動物は道具用、この動物は食用などと傲慢に使い分けそれで善いものと考えている。しかも愛玩用の動物も、道具用の動物も、不要になれば捨てられる、殺される、喰われる。優秀な犬や馬までもが喰われてしまう現状だ。

 人と共に暮らさずとも苦難があり、人と共に暮らせど苦難があり、どちらにせよ苦難があるのであれば獣らしく野生で生きて死ぬのが本懐である。しかし、この現状の有様はあまりにも酷過ぎる。せめて定期的な食糧の供給が可能になれば…。飢えによる共食い、飢えによる子食い…。飢えさえなければ遥かに環境は変わるものを…。どうにかして定期的に飢えを凌ぐシステムが必要だ。その為には自分は何をすれば良いのであろうか?

 自分は何の為に生まれてきたのか?何の為に存在しているのか?そう疑問が湧く事がある。違う時代に生まれてきていたかも知れない、違う環境で生まれていたかも知れない、別の獣だったかも知れないし、奴らのような人として生まれてきたかも知れない。けれども、今の時代に今の環境で獣として生まれてきたのには何かしらの意味がある、意味があると思いたい。自分は自分の存在意義を他の動物達を救済する事で意義を見い出したいと思ったのだ。その為に自分は何が出来るか?

 可能な限り食糧を貧しい獣達に供給する事が、このルフゥの役目であろう。食の安泰は心の安泰、そうする事で虐待や虐め、暴行や略奪を防ぐ事が出来るであろう。心を大事にした社会が形成されるであろう。希望に燃えるルフゥの灰色の毛を月が照らしていた。



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