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「虹獣(コウジュウ)」4章:イレス 4話:新生(シンセイ)

「ふぁにゃぁー!良く寝た」
ルフゥやドグマと話すイレスの傍らで眠りこけていたリルトが目を覚ます。
「あらリルト、呑気にあくびなんかしちゃって」
それを見たイレスがリルトに冗談っぽく言葉を投げ掛ける。
「僕は呑気じゃないよ、元気だい!」
リルトは狭い脳内の中を無邪気に駆けてみせ元気さをアピールするのであった。
「うんうん、元気だね。リルトが元気でママも嬉しいよ」
イレスは温かい眼差しで駆けるリルトを見つめながら優しく言葉を掛ける。そのイレスが言葉を続ける。
「リルト、駆けるのを止めて。これから話す事をしっかり聞いてね。ドグマもルフゥもお願いね。うち達は今は狭い檻の中に閉じ込められている。この現実は変わらない。でも変わらないのはあくまで今のところはだと思う。何かのチャンスがあって檻から出られた時に、うち達四匹がしっかりと協力出来る体制を整えておく必要があると思うの。そうする事が同じ失敗を繰り返さずより良く生き抜く事に繋がっていくと思うのよ」
イレスの発言を聞きルフゥが疑問を投げ掛ける。
「檻に入れられた現状は置いておくとして、仮にここから出られた場合どうやって過ごせば良いのだ?具体的には何を食べて生きれば良いのだ?ペットフードが保管されていた店は閉店してしまった、鶏はあまり殺したくないし人間の監視が付いている、虫達だって生きている…。食べるものがない…」
ルフゥは深刻そうな表情で現状を一生懸命に伝えようと話した。
「オマエはどうしてそんなに堅く考えるんだ?食えるものを食う、それでいいじゃねぇか」
ルフゥの堅物さに少しイラついたドグマが口をはさんだ。
「そうね、この話についてはドグマに一理あるわ。どの生き物も何かしらの他の生き物を食べて生きている以上、他の生き物を殺して食べる事は仕方のない事なのよ。重要なのは食べる事への意識の仕方だと思うの。人間達のように必要以上に求め余った分を廃棄し命を粗末に扱う、こんな食べ方は良くないと思うわ。人間達は無益な殺生を度々行う、でも、うちらはそうではない、必要な分だけを殺して命に感謝して残さず食べるのよ。それが自然界で生きる野生の掟だと思うの」

「ルフゥの生真面目で完璧主義なところは素晴らしい事なのよ。でも、時としてそれは融通性や柔軟性に欠けてしまうわ。ルフゥにはバランス良く臨機応変に視野を広く捉えていく意識が必要だと思うの」
イレスは優しくも淡々と諭すようにルフゥに語り掛ける。
「なるほど…その根本にあるのは想いの強さが影響していたのかも知れない?強く生き抜く…正しく善い行いをする…。想いが強過ぎる故に知らず知らずの内に負荷も大きくなっていたのか…」
ルフゥは内省をしながら自分自身へと言い聞かせるようにボソボソと呟いた。
「ルフゥはリルトの良い面を参考にすると良いと思うの。リルトの無邪気で自由な心はルフゥの生真面目で完璧主義なところを緩和してくれると思うわ」
「リルトはドグマの良い面を参考にしようね?ドグマの覇気はリルトの柔弱なところを力強く支えてくれると思うわ」
「ドグマはルフゥの良い面を参考にすると良いわ。ルフゥの自制心はドグマの獰猛なところを規律正しくしてくれると思うわ」
イレスは三匹に適切なアドバイスをしつつ、更に話を続ける。
「そうやって三匹が互いの短所を長所で補っていくのよ。そして三位一体となってこれからを生き抜く。もちろん、うちも精神面でサポートし続けるわ。どうかな?」
イレスは自分の案を述べつつも、リルト、ドグマ、ルフゥ達の気持ちを尊重し、提案するように語った。
「うん!とても良い案だと僕思う!ドグマくんともルフゥくんともイレスお姉ちゃんとも仲良く一緒に暮らしたい!皆で頑張れば出来るよね?頑張ろー!」
リルトは楽観的に明るく応える。
「そうだな、一匹で生き抜こうとしていた時は、気負い過ぎていたせいで攻撃性が高まり過ぎていた。今の俺なら無難に出来るかも知れない。やろうぜ!」
珍しく落ち着いた口調のドグマが賛同の声を挙げる。
「そうですね、イレス姉さんの客観性や分析力には敬服致します。そして一匹でいた時とは違って今は皆がいる、頑張り過ぎる必要はない。今度はうまくやれそうな自信を自分は感じ始めています。やりましょう」
相変わらず丁寧で真面目な口調のルフゥであったが、どことなく力は抜けリラックスした喋り方であった。
「うん!皆心が揃ってきた!良い感じよ。後は、ここから出た後の事も考えておく必要があるかしら?仮に出れたとしたら、どう生きたい?」
イレスは嬉しそうに皆へと意見を求める。

「やはり、定期的な食糧の確保が第一優先でしょう。そして可能であれば定期的な供給をして他の動物達の幸せに心から貢献したい。その為に重要なのは食糧の供給源を見付ける事ですが、これは外に出てから探し回りましょう」
ルフゥは元来の真面目さも際立って冷静に現状を分析し淡々と意見を述べた。
「うんうん!僕もルフゥくんの案に賛成だな。食べるの好きだし、お腹が減ったら楽しめなくなっちゃうし、食べ物は大事だよ。それにもっと仲間が増えるといいな!僕達だけでなく他の仲間もいたらきっと楽しいと思うんだ!」
リルトがルフゥの意見に明るく応えながら賛同する。
「そうだな、定期的な食糧の確保が可能になれば、悪夢に苛まされる心配もなくなるであろう。そして定期的な供給が可能になれば、第二第三のあの子を生みださなくて済むようになる。やってみようぜ!」
ドグマは覇気を内面に溢れさせながら威勢良く応える。
「うん!良いね!皆の心が一つになったところで最後の課題を始めましょう。うち達の心が一つになったと言っても、それを統合して歩んで行く獣格がいないわ。その獣格をこれから皆で作り出すのよ」
「イレスのママ、いなくなっちゃうの?」
リルトは直感的に不安を感じ、イレスの発言が終わるや否や口をはさみ不安を訴えた。
「ママは一緒に傍にいるって言ったでしょう。大丈夫よ、リルト。うちはどこにもいかないずっと一緒に傍にいるからね」
優しく温和にリルトに語り掛けるイレス。
「統合する…んー…。その役目はイレス姉さんが適切かと思いますが、どうなのでしょう?」
「うちはダメよ、あくまで精神世界で生きている獣格だから体がないもの。体のある統合獣格を作る、それを皆でサポートする形が良いと思うのよ」
「…解りました、イレス姉さん。確かに今のままではその都度立ち止まって脳内で対話をしなくてはいけなくなってしまう。新しい獣格に我らの獣生を託しましょう!」
短期間で柔軟性が身に付いてきたルフゥはイレスの意見に潔く同意するのであった。
「リルト。ドグマ。あなた達もそれで良いかしら?」
「うん、わかった!僕それでいいよ!」
「俺も異論はない、頼む!」
リルト、ドグマ、ルフゥの了承を得たイレスが話しを続ける。
「それじゃ皆、円を描くように四匹並んで。そして強く願うのよ、新たな獣格の誕生を!」
イレスは他の三匹にそう促し、四匹は円を描き強く願い始める。各々の色々な思念が脳裏より溢れ出してくる。その溢れ出したものが円の中心へと集まり混ざり、段々と具現化を始める。そうして現れた新しい統合獣格、新生、ルノアである!



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