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「虹獣(コウジュウ)」2章:ドグマ 2話:純狡(ジュンコウ)

 生きるという事は……貪る事だ。
 生きるという事は……欺く事だ。
 生きるという事は……屠る事だ。

 草花を幾ら貪ろうとも、蠢く虫を幾ら貪ろうとも、癒える事の無い渇き、充たされる事の無い飢え…。この渇き!この飢え!何を貪れば平穏な心に落ち着けるのか?ドグマは苛立っていた、渇きと飢えに…いや空腹に…充たされぬ心に!もっと大きなものを貪れば充たされるのか?

 そんな思いを考えていたドグマの近くに一匹の子猫が鳴きながらトコトコと歩いていた。どうやらお腹を空かしているようだ。ドグマはその子猫へと近付くと、
「どうしたの?お腹が空いているのかな?近くに食べ物があるから良かったら着いておいで」
と優しく伝えた。
それを聞いた子猫は朗らかな笑みを浮かべながら、
「うん、ありがとう!」
と無邪気に応えた。
ドグマは無言で歩を進めた、川沿いの塀の上から見える幾つもある排水路の内の一つに入ろうと川をジャンプして飛び越えた。子猫は慣れない道を必死にドグマに着いて行った。ドグマが無言である事に寂しさを感じたが、大きな背中の後を着いて行く事に安心感を憶えてもいた。川沿いに差し掛かりドグマの様にジャンプで飛び越えようとしたが少し足らず、危うく川に落ちそうになったが、ドグマが咄嗟に首の部分を口で掴み難を逃れた。
「あ、ありがとう」
子猫は無口ではあるが、自分を守ってくれるドグマに信頼感を抱き始めていた。
「まだ、早かったな…」
ドグマはそう呟きながら、ゆっくりと子猫の首を掴んだ口を離した。
「うん…、でもあたしすぐ大きくなるよ!頑張って成長して、ドグマさんみたいにジャンプ出来るようになるから!」
子猫は少し緊張をしつつも無邪気にそう言った。ドグマに見捨てられないようにドグマに迷惑を掛け過ぎないようにの配慮であった。
「…可愛いな……」
ドグマは子猫の無邪気さと健気さを感じそう呟いた。それを聞いた子猫は幼心に照れていた。子猫は両親を知らない、父の優しさも母の温もりも、気付いたら一匹でいた。おぼろげながら母の温もりは憶えているような気はした。けれども物心ついた頃には母はいなかった。母を捜した、父を捜した、鳴いて呼んだ、でも見付からなかった…。お腹が空いていた、空腹でどうにかなりそうな気がしていた、そんな時にドグマに出逢った。ドグマに父性を感じると同時に淡い恋心を抱くようにもなっていたが、その気持ちに子猫自身は気付かず、ただただドグマを慕って着いて行くのであった。

 排水路の入口は大きく中は狭く薄暗くなっていた。やっとご飯が食べられると安堵した子猫は、どこに食べ物があるのか急くようにドグマの方へと目を向けた。その視線に気付いたドグマは「奥にあるよ」と首を振り鼻先で示した。示された奥底へと進みくまなく子猫は地べたを探してみたが食べ物が見付からず、
「どこにあるの~?」
と、か弱く心細い声でドグマへと問い掛けた。
「おかしいな…ついさっき見付けて運んできたのだけど……」
そう言いながらドグマも奥底へと歩んで行き子猫の方へと向かって行った。
「うん、僕の目の前にあるじゃないか…」
「俺の食べ物がさ!」
と、言うや刹那ドグマは子猫の首元へと喰らい付き子猫を窒息死させようとした。
「に゛ゃぁ!?…ん…デェ……ど…ぐま…さ………」
子猫は息苦しい中、もがきながらそう呟くと間もなく息絶えた…。
「だから言ったろ?まだ、早かったな…と」

ドグマは子猫が息絶えたのを確認してからそう呟き、喉元に喰らい付いていた口を離した。離した口を腹部へと近付け牙を立てる、はらわたを喰い尽くす為に…。

 生きるという事は……欺く事だ。



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