見出し画像

「ニッポンの編曲家」を読む。

「ニッポンの編曲家 歌謡曲/ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち」川瀬泰雄、吉田格、梶田昌史、田渕浩久 共著(ディスクユニオン)読了。

先ごろBS日テレで放送された「風の譜〜福岡が生んだ伝説の編曲家 大村雅朗」(FBS福岡放送制作)がきっかけで、彼のことをもっとよく知りたいと思って図書館で借りたのだが、これが本当にとんでもなく面白かった。

タイトルどおり、川口真、荻田光雄、星勝、瀬尾一三、若草恵、船山基紀、佐藤準、新川博、武部聡志、井上鑑といった、1970〜80年代の歌謡曲やポップスで活躍した編曲家たちにインタビューしており、大村雅朗や大谷和夫のようにすでに物故している人は、芳野藤丸や長岡道夫など、付き合いの深かったディレクターやプレイヤーに話を聞いている。さらに島村英二や吉川忠英、松武秀樹ら、彼ら編曲家が好んで起用したスタジオミュージシャンたちにもじっくり取材。自分にとって長らく謎の存在だったサックスのジェイク・H・コンセプションや、ストリングスの加藤JOEグループ、ガイドボーカルの人に至るまでもれなくインタビューしているのがすごい。もちろん、件の番組にも登場した、元CBS・ソニーの鈴木智雄など、音作りには絶対欠かせないエンジニアの取材もしっかり押さえている。

これだけ幅広いジャンルの仕事人達に取材できたのは、著者に元ホリプロの音楽プロデューサーや元CBS・ソニーのディレクターがいたからでもあるが、大げさに言えば、少しは日本のポップス・歌謡曲を知っていると思っていた自分の、それまでの価値観が根底から覆されるような話の連続である。

アレンジャーでは、本書のあちこちで語られる荻田光雄伝説がすごくて、「ミキサー卓のフェーダーは横一列」「ドンカマのツマミを手動でいじってテンポを変える」といった驚愕の話が続出。また、荻田光雄、大村雅朗、船山基紀を輩出したポプコン=ヤマハが日本音楽界にもたらした功績も改めて素晴らしいと思う。

またプレイヤーでは、自分が名前すら認識していなかった矢島賢というギタリストが、「横浜いれぶん」「たそがれマイ・ラブ」「アンジェリーナ」「憎みきれないろくでなし」「曼珠沙華」といった自分が好きな楽曲のイントロで大活躍していることを初めて知った。そして、「ハネケン」こと羽田健太郎のピアノがどれだけ歌謡曲に貢献しているのかも。

「海外のアレンジャーは、例えばサビのコード進行がそのままイントロに移行されているような作りの曲が多いけど、日本の曲はイントロはイントロでちゃんとある。しかも小難しい仕掛けが仕込んであったりするんですよ」これは芳野藤丸のインタビューでの言葉だが、まさにその印象的なイントロで始まる歌謡曲の数々を子供の頃に刷り込まれた自分としては、そうした魅力的なイントロが消え失せた現在のポップスよりも、昔の曲をどうしても聴いてしまうのだ。

ディスクユニオンは本書の他にも、松武秀樹の著書や日本で初めてBGM音楽についてまとめた本など、音楽関係の良書を出版しているが、なにはともあれ、日本の歌謡曲・ポップスが好きな人は全員必読の、目から鱗の一冊である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?