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コピー品のロレックスについて学ぼう!

巷に溢れるロレックスなどの高級時計、中古市場では新旧問わず様々なモデルが流通していますがスーパーコピー品や自称スーパーコピー品もフリマアプリ上などでそれなりに流通しています。今回はそれらの世界を少しだけ覗いてみましょう。

スーパーコピー品の等級として日本で非常によく使用されるのが「N級」、「N品」です。言葉の由来は定かではない(偽ロレックス製造で名高い工場の名前、Noobから来ているという説があります)ものの、非常に多くのパチモノ販売サイトがこの「N級」という言葉を使っています。果たしてこれらのサイトで販売されているロレックスは本当にスーパーコピーなのでしょうか…?

偽高級時計の等級

日本で広く使われている偽ブランド品の等級「A級」「S級」「N級」ですが、実情と照らし合わせると少々不自然です。実際の偽造品の質は製品によって大きく異なりつつも連続的なので、こういった特徴だからS級!こういった特徴だからA級!といった分け方をするのは難しいでしょう。

海外フォーラムでは再現度は低いが格安で高級時計の気分を味わえる製品を「Shitter(嘘つき、カス)」、値段は張るがそれなりに再現度が高いものを「Reps(複製品)」と呼んでいます。ただし、ShitterやRepsの中でもある程度の質の良し悪しといった等級は存在します。また、モデルによっても存在する等級の数は異なります。例えば、ロレックスのデイトナのコピー品はShitterの中でも数種類ランクがあり、Repsの中でも低ランクから最高級ランクまで存在しますが、ヨットマスター2は種類が少なくRepsでも中級品止まりのものしかありません。

Shitter

DG2813搭載のロレックスオイスターパーペチュアル。ベゼルが太い。40ドル。

Shitterはいわゆる格安コピー品です。品質的にはアジア諸国の露店で売っているようなもので、モデルにもよりますが価格は安いと10ドル、高くても100ドルほどのものが多いです。

低級クォーツ式

最も低級で格安のものは出どころがよくわからないクォーツ式のものも多いです。これらの本物を再現する気が低い品々には妙な癒やしすら感じます。これらはクォーツ式特有の1秒1秒しっかり針が動く時計であるため、自動巻きのスムーズな針の動きを知っている人間からすれば、再現性は論外ですが話のネタには十分でしょう。

クォーツ式ロレックスサブマリーナ。1秒1秒しっかり時を刻んでくれる。意外にも時刻のズレも無く、パワーリザーブも自動巻きとは比べ物にならないくらい長いため時計としては実用的?
生意気にも逆回転防止ベゼルはきちんと再現されている。15ドル。

低級自動巻き式

対して、Shitterの中でも比較的上位ランクに位置するのが自動巻きモデルです。多くのモデルはDG2813という非常に壊れやすく、巷では時限爆弾とすら呼ばれるムーブメントを搭載していますが稀にETA7750の低品質コピー版も出回っているようです。
DG2813自体は、ミヨタ時計製のムーブメントMiyota8215の劣化コピー版です。8215自体は非常に優秀なムーブメントですが、中国の低品質な製造環境でコピーされた2813は「絶対に1年以内に壊れる」とも言われる使い捨て用ムーブメントに仕上がっています。

Shitter上位ランクのモデルは100ドル前後が相場で、高くても150ドルほどです。いかにもパチモノらしいといえばそうですが、これだけの格安で形だけでも自動巻きのロレックスが手に入るのは奇妙な感じですね。

Shitter自動巻きモデルの1例のデイトナ。ベゼルの「UNITS PER HOUR」の書体が泣かせる。もちろん秒針はクロノグラフ針。厚さも極厚だが、時計に興味ない人なら偽物と気づかないかも。100ドル
妙に太って見えるデブトナ。ハキハキと動くクロノグラフ針が健気。プッシャーを押すと3時方向や9時方向の針が15度動くオマケ機能付き。85ドル。

Shitterの流通経路

これらの品々は基本的にオンライン通販やコピー品販売サイト、そしてフリマアプリで流通しています。YouTubeやインスタグラムの広告に表示されるような「ロレックス在庫処理格安セール! 23800円!!」といったサイトで購入すると間違いなくこれが届きます。

↑:ロケットニュースが購入した「29800円のロレックス」もヒッチャカメッチャカなベゼルの刻印、文字盤の激太クラウンマーク、酷い書体などの特徴が見て取れます。

極太ベゼル低級ティファニーオイパペ。
自分で買おうと思うと送料込みでもせいぜい5,000円ほどなので結構なボッタクリ。
上のティファニーオイパペの説明文。904Lなんて上質なステンレスが使われている訳がない。

結構フリマアプリで散見されるのですが、中途半端にパチモノの知識がある人間に対して更に知識を有する人間がボッタクリ価格でこれらのカス時計を売りつけている光景をよく見かけます。そもそも偽造品の販売は商標法違反場合によってはこれに詐欺罪も加わるといった結構重い罪なのです。が、その点に目をつぶると相手はどうせ品質の良し悪しなんざ分からない(分かってたらそもそも買わない)し、例え分かったとしてもコピー品を買ったほうが悪い上にボッタクリであると証明する手立ても無いので文句を言われない、といった点で中々うまい商売なのかもしれません。そこそこネットパトロールなどで摘発されているのを除けば、非常に割が良く他人の参入も少ない良い商売です。

メルカリでも、後述するNoob製と偽ってカスデイトナ(ベゼルを見れば一目瞭然)が販売されていた。このデイトナもせいぜい1万円ちょいなので約10万円はボッタクリすぎ。ちなみに売れてました。
「N級コピー品!本物と遜色ない品質!格安!」

他にも、ネット上で「N級!」「スーパーコピー」と検索してヒットするサイトなどでもほぼ絶対これが届きます。敢えてランクの基準に習うなら、A級かそれ以下のものが届きます。買い手側は「本当のスーパーコピー」といった物の品質をよく理解していないし、低く見積もっていることも多いので低級な品を割高で売りつけても文句を言われないからです。目安としては「文言が日本語で記述されており代引購入」が可能なサイトなら、ほぼ間違いなくカス時計が届くことでしょう。

アリエクスプレスにて。出品者に連絡を取った上で購入すれば「R」ロゴ付きの時計が届く。

他には入手経路として中華通販が挙げられます。アリエクスプレス、DHGate、Wish、Alibabaなど日本から利用可能な海外向け中華通販ではだいたいこれらの品が購入可能です。フリマアプリで割高で購入したり届くかどうか分からないスーパーコピー販売サイトで買うぐらいなら、こちらで購入したほうが幾分マシです。これら1万円で購入できるような時計がメルカリなどでは2~5万円ほどで転売されていることもそこそこ多いです。

面白いのが、敢えてこれらShitterを愛好する者がそこそこ居ることです。ちゃちいのに必死にROLEXのロゴを冠し、低品質でありながら胸を張ってROLEXを標榜するそのカス時計はまるで大人ぶっている子供を見ているような、そんなある種の愛おしさを感じさせてくれるのかもしれません。(ただし基本的に品質は最低級なので実用しようと思って買わないほうが良いです。買うならネタで買いましょう。

一般人が比較的スムーズにアクセス出来る場所で売られている自称スーパーコピー品は実際にはスーパーコピーでないことがわかりました。YouTubeなどでスーパーコピー品買ってみた!と紹介されているようなモノも、大体の場合は低級品です。では本当のスーパーコピー品は一体どういったものなのでしょうか?

Reps

前述の通り、海外フォーラムでより品質の高いパチモノ時計として分類されているのが「Reps」と呼ばれる存在です。Repsはパッと見はバレない程度、かつ時計として常用しても問題ない程度の品質に仕上がっています。巷で言われる「スーパーコピー」「N級」などは本来はこのあたりに分類されることでしょう。価格も品質相応であり、安いモデルでも300ドル弱、高級なモデルだとおよそ1400ドルほどします。一般人が気軽にポンポン買える値段ではない、まさに偽造品愛好家が優雅に遊ぶためのハイパー偽造品な存在であるといえます。

スーパーコピー品の代表格、Noob製のパンダデイトナV4。内部のムーブメントまでコピーされている。

ただ、そんなRepsでも内部機構の再現度合いや金属加工の精度、材質の違いに文字盤の出来などである程度中高級に分けることが出来ます。

中級品

ヨットマスター2。Asia7750搭載。BP製。348ドルだが別工場で更に高いモデルも存在する。

例えば、ロレックスのヨットマスター2は最も質が高いモノでも中級品止まりです。正規品のヨットマスター2に搭載されているムーブメントはCal.4161で、これはヨットマスター2用に開発された特殊なモデルですが、偽造品界隈では4161を製造する技術が無いためヨットマスター2のコピー品はAsia7750で代替されていることがほとんどです。そのため、ヨットマスター2の特徴であるレガッタカウントダウンなどの機構を再現した偽造品は今のところ存在しておらず、見た目だけ再現したなんちゃって中級品しか存在しません。

なんちゃって4161。ローターを外すと中見はAsia7750。クロノグラフを動作させたときの挙動が正規品ではあり得ないため見る人が見れば一目瞭然。

このように、実際の正規品に搭載されているムーブメントと違うムーブメントが搭載されているパチモノはいわゆる中級品に分類されます。パチモノの強みである「安い」「それでいて見た目はそこそこ良い」「修理が容易(ムーブメントの入手が簡単なので載せ替えるだけ)」といった要素を兼ね揃えているため、ある意味パチモノ時計の本丸とも言える存在です。質感と値段のバランスが良いということですね。

BP製Datejust。お値段298ドル。Asia2824搭載。

これら中級品は多くの場合、Asia2836や2824、クロノグラフ搭載モデルであれば7750と汎用性が高く、入手が容易なムーブメントを搭載しています。そのため価格も300~500ドル台とお値打ちで気軽に高級時計の気分を味わうことが出来ます。修理の際も、2824や2836は非常に安価かつ手軽に手に入るため長期的なコストパフォーマンスも優れている存在です。

ZZ製116610LNのサブマリーナ。2836搭載。288ドル。
AR製デイトナ。Asia7750搭載でクロノグラフ稼働モデル。文字盤の再現度は随一と好評だったモデル。378ドルだが現在は入手不可。

先程「Repsが本来スーパーコピーと呼ばれる地位にある」と述べましたが、中級Repsは敢えて日本風の基準で述べるなら「S級」「SS級」といった具合でしょうか。とは言え、常用するだけならこれら中級品でも問題はなく、これらを愛用する人間も多いです。また、時計に興味がない一般人からこれらの時計を見たら十分に本物と認識される程度の品質でもあります。ごく一般的な、上質なコピー品がこの中級品です。

上級品

高級時計はロマンの世界。本来機械式の時計なんざ、一般的な人間社会で暮らすなら不用の産物です。しかし、人々はそれでも何百万と支払い”実用的”な高級時計を購入するのです。購入理由として、資産価値が大きいだの伝統性があるだのデザインが良いだのなんだのありますが結局のところ究極的には「ロマン」が占める部分が大きいでしょう。そして奇妙なことにその感性は偽造品の分野にも持ち込まれることになります。中国の工業力と経済性、ロマンとの折衷案を探りながら生み出された存在が上級偽造品です。

上級品の特徴として、多くの場合ムーブメントまでコピーされていることが挙げられます。前述の中級品は、見た目がそっくりでも実際に搭載されているムーブメントは汎用品でした。しかし、こちらの上級品は中見も本物と同じようにコピーされていることが大半です。

例えば、こちらは正規品のロレックスデイトナに搭載されているムーブメント、「Cal.4130」の画像です。ロレックスが長年目標にしていた完全自社製の完全機械式クロノグラフです。前身のCal.4030と比較すると実に多くの改良が施されたロレックス社渾身のムーブメントとも言える存在で、傑作とすら呼ばれています。

そしてこちらがCal.4130をコピーしてしまった品、SA4130です。「SA」は「Super Asia」の略称で、ロレックス社の開発した機構を中国でまるきりコピーしたという誇り高き(?)略称が名付けられています。正規品と違い緩急針が付いていますがそれ以外は全体的にパーツ配置も正規品とまるきり同じで、当然動作方法も本物と同様です。正規品の部品と互換性すらあり、中のパーツを正規品と交換して耐久性を高めた個体も存在します。

画像はV4発表時の宣伝なので、SA4130発表当初のものではない。

このSA4130は当初はNoobと呼ばれる工場から発表されました。デイトナコピー品はそれまではAsia7750を搭載したなんちゃってデイトナしかありませんでしたが、このSA4130の登場により遂に名実ともに本家を再現したと言えるコピー品が誕生したのです。他のクローンムーブメントも多けれど、特に複雑なムーブメントをコピーしたこのSA4130搭載デイトナはまさに新たな「上級品コピー」の世界を切り開いた存在とも言えそうです。
他にも、サブマリーナ、オイスターパーペチュアル、デイトジャストシリーズ、GMTマスターシリーズなど数多くのモデルで正規品と同等のコピーがなされたムーブメントを搭載したシリーズがあります。

VS工場製。528ドル。著名なClean製よりも評判が良い。

例えばこちらはロレックスサブマリーナ116610LN。正規品のムーブメントはCal.3135でこちらは1989年に登場した歴史あるムーブメントです。よってとっくの昔にコピーが完了しており、現在ではVS3135やVR3135(写真はVS3135搭載)と呼ばれる多種多様なコピームーブメントが搭載されています。

パンダデイトナの正規品(GEN Genuineの略)、Noob、Clean、BTの比較。Noob、Clean、BTはそれぞれ工場名。

これらのRepsの正規品と比較した際の再現度はというと、これらの時計が定価の数十分の1で購入できることを踏まえるとかなり高いです。まさにスーパーコピーでしょう。特に相場が高騰しきっている現在から考えればなおさらです。ただ、もちろん技術力と経済性による差異はそれなりに多いです。

例えばこれら3つの工場製のデイトナに対して指摘されていることとして、文字盤の色が正規品に比べて暗すぎたり白すぎたりします。また、ベゼルの彫り込みの深さ、文字の微妙な位置、ガラスの分厚さや刻印の位置なども少しずれている箇所があります。また、Noob製はマーカーの形も間違っています。他にもそれぞれクラウンの王冠の口の大きさが違ったり、プッシャーの角度や長さが微妙に違ったり…と場所を挙げればキリがないです。

Clean製GMTマスター2。

単体で見ればまず気づかないであろう細かな違いも、それが集まってくると全体を通したときにほんの少し違和感を覚えます。また、時計本体に限らず特にブレスレットなどの金属加工精度は正規品に比べて全く劣っており、特に角の丸みなどは正規品と異なります。時計としては十分実用レベルでも正規品への偽装といった点では全くもって不十分なあたりから、時計のパチモノが正規品として出回ることはまず無いだろうと感じます。この辺りが、スーパーコピーが正規品として出回りまくってるスニーカーやハイブランドバッグ、服界隈などとは異なります。(そもそも正規品の製造にかかるコストが桁違いなので比較すること自体がナンセンスかもしれません。)

よく言われることとしては、これらの時計は正規品の大凡90%までは再現できています。逆に言えば再現度90%までなら現在のパチモノ価格で再現可能ということでしょう。ここから残りの10%を突き詰めようとすると、果てしない労力と資本が必要になり、そもそもの偽造品の目的である「まあまあ同じ製品を本物よりも安く売ってブランドにタダ乗りして大儲け」といった事柄を達成できないどころか本末転倒に陥ってしまいます。なので、例え技術的に可能であろうと正規品の徹底追及徹底再現というのはこれ以上行われないのでしょう。ここが正規品の高級時計が高級時計たる所以であり、偽造時計が偽造品たる所以かもしれません。

Repsの流通経路

Repsは海外からアクセスできる一般的な中華通販などではあまり流通していません(時々しています)。中国国内向けの通販ではそこそこ流通しているようですが、基本的には我々は中国の中間取引業者に連絡を取って入手するものになります。決済方法はWiseなどの国際送金手段を使う場合もあれば、BTCやETHなどの仮想通貨で決済する場合もあります。少しハードルが高いですが、国内のフリマアプリなどでも結構な価格で出回っているようです。

タイトルだけ見たらClean製なのかNoob製なのか分からない

例えばこれ。メルカリでClean製のパンダデイトナが13万9千円で販売されています。対して、実際に中国から輸入しようとすると価格は768ドル+送料。近年の円安相場で計算しても10万3千円ほどです。以前の相場1ドル110円で計算すると値段は8万5千円。結構割高な買い物です。

CleanなのかNoobなのかBTなのか訳が分からない出品タイトル

こちらは14万5千円。差額の4万円を情報代+リスク回避代と思えば…どうなんでしょう。

売り手側の利益はと言うと、Paypayフリマは手数料が5%なので145,000*0.95で売上額が137,750円。そこから本体の103,000円を引くと、粗利が42,000円。実際はこれに国際郵便の送料や発送料金などもかかるので、手元に残るのは2~3万円ほどでしょう。為替次第で大きく変動しそうです。商売としては…まあ悪くはないのかもしれません。逮捕&起訴されるリスクの高い商売としてはかなり悪そうです。

これらの高級パチ時計も以前はメルカリで18~20万円ほどで出品されており、それでもバカスカ売れまくっていたのですが、最近は鳴かず飛ばずです。それを受けてフリマアプリ上でも値下げ合戦になっているので、パチモノロレックス転売ビジネスに今更手を出しても儲からなさそうです。

Repsの偽物

購入する側の目線で見るともう一つのリスクがあります。それはこれが「パチモノのパチモノ」かもしれないのです。一体どういうコッチャですが、このClean製「SA4130デイトナ」は、以前Cleanと並んでSA4130搭載品を製造していたNoobが摘発されたことにより、また最近までSA4130搭載品として他に選択肢がなかったことを受けて(BTデイトナとQFデイトナはそれぞれ2022年夏と冬に登場)、偽造品界隈で高い評価を得ており大変人気を博しています。となると行われるのが偽造品の製造。なんと「偽Clean」というものが製造されはじめました。Clean製と浮足立って割高で購入したけど実際はClean製じゃない詳細不明のパチモン(のパチモン)だった…なんてことが起きるかもしれないのもある意味リスキーです。

本物(?)のクリーンステッカー。
偽クリーンのステッカー。色が薄く印刷が荒い。

まあ高級品(中級品)

高級偽造品と言えど、あくまでも中国の偽造品。中には「ムーブメントをコピーしてるっぽく見せているけど実際はコピーしていないかコピーしていても中途半端なもの」も存在します。

デブトナのムーブメント。

例えばこちらは「A4130」と呼ばれるムーブメントです。ローターの下にある刻印は「4130」なので前述のCal.4130クローンが搭載されているかと思いきや…なんとこれはローターとブリッジをCal.4130風に変えているだけで、実際は7750です。中級品の欄に載せたヨットマスター2の4161と同じ手法が取られています。

「FAKE」と線が引いてある箇所は実際には稼働していない飾り。

少し画像が寄っているので分かりづらいですが、こちらは「A3235」です。デイトジャストシリーズに搭載されているCal.3235をコピーしたクローンムーブメントを自称していますが、実際は偽装が施されたA2836ムーブメントです。

こちらのロイヤルオークは「A3120」を搭載しています。これもクローンムーブメントを自称していますが、実際はMiyota 9015に偽装を施したものになっています。

GM工場製のオイスターパーペチュアル V1。現在主流のV2は3230ムーブメントをしっかり再現したVR3230が搭載されている。

これはオイスターパーペチュアルに搭載されているCal.3230の再現を謳っていた「SA3230」です。このSA3230、実際はCal.3130のクローンムーブメント「A3130」に偽装を施したものでした。このように汎用ムーブメントに偽装を施すだけでなく、前世代のクローンムーブメントに偽装を施すこともあります。

これらの偽装ムーブメントはいくつかの理由があって存在しています。一つは単純に、クローンムーブメントの開発が出来ていない状態で製品を販売するためです。今挙げた「SA3230」に関しては、そもそも正規品のCal.3230の登場が2020年と最近でした。そこで、構造が大きく変わらない3130のクローンに少し小細工を施して3230クローンとして出荷し、素早いラインナップを行ったと推察されます。そして開発が完了した際(もしくは製造上の課題が解消された際)にバージョンアップを行いVR3230を登場させてきたのです。ただ、VR3230自体が割りとすばやく登場したにもかかわらず、SA3230搭載品がしばらく販売され続けていたので、もしかしたら3130の在庫処理の問題等別の理由があるかもしれません。

オメガの刻印が施されたローターが取り付けられたA2824ムーブメント。

二つ目は、所有者の気分の問題です。普通蓋を閉じれば刻印等は見えませんし個人が個人で時計を使用しているときに裏蓋を開けることもわざわざ無いでしょう。であれば、無刻印の2836や2824を搭載していたって何ら問題はないはずです。なんなら、下手なクローンムーブメントよりも信頼性も整備性も高く、経済的にも優しい汎用ムーブメントのほうが時計としてはより合理的でしょう。なのに、なのに…人間の欲望というのは奇妙なもので、見えないところにある普段全く目にしないパーツにも一応「ROLEX」という矜持を保っていて欲しいのです。そのような奇妙な欲望を叶える存在が、こういった偽装ムーブメントです。これらは気分の問題であり、実際の稼働にはなんら影響を及ぼしません。

3つ目の理由は売り手側の問題です。彼らは最大限利益を出すことに注力しています。一部の大手偽造品ディーラーは偽造品を取り扱っていることを忘れるほど丁寧な運営がなされていおり、彼らは顧客に忠実で、誠実で、かつ顧客満足度を高めることの必要性を十分に認識しています。ただ、結局彼らは偽造品を取り扱っている中国本土の犯罪者であり、行っていることは犯罪のアングラ商売です。「嘘は付いていないけど本当のことも言っていない」ことも非常に多く、特に製品性能の誇張などは偽造品に限らず中国人相手の取引などでは頻繁に行われる行為です。その見栄と内実のギャップの間に生まれたのがこの偽装クローンムーブメントです。例を挙げると、先述の「A4130」搭載品の商品説明文には、A4130は7750ベースだよとはわざわざ書かれていません。単に「A4130」と説明されています。知識がある人なら7750の偽装版であることをすぐに見抜くことが出来ますが、知識がない人ならSA4130の廉価版か何かと勘違いしたまま購入してしまうかもしれません。というよりは、それを狙った商法、名付け方なのです。

工場間の個性

左から正規品、EW工場、GS工場。

先程掲載したパンダデイトナと被りますが、パチモノ工場にはそれぞれ個性があります。上の画像はロレックスオイスターパーペチュアルですが、EWとGSで文字盤の色が異なることが分かります。他にもステンレスの仕上げ、ブレスレットの繋ぎ目、ベゼルの太さなどが異なります。

上の画像を見るとEWよりもGSのほうが正規品により色味が近いように見えますが、実際比べてみるとこのように色味が濃すぎる気もします。このように、Repsには様々な工場製の品がありますがどれも一長一短で、完璧なものはこの世に存在しないのが現状です。文字盤の再現性を取ればムーブメントがダメで、ムーブメントを取ればベゼルがダメで、ベゼルを取れば文字盤がダメで…というようにキリがありません。偽造品を好む人々はこれらの品々を吟味と妥協を繰り返しながら購入する、もしくは間違っているパーツを交換してより精度を高めていることも多いです。これらの品にはまたRepsとは違う名称がつけられています。

ModsとFranken

Franken個体。パチバレポイントである文字盤のマーカーの違いが無くなっている。

偽造時計界隈の奇妙な文化に「Mods」「Franken」というものがあります。具体的には前述の通り、「偽造品の気になる部分を他のパーツと交換して精度を高めた品」です。「Mods」は偽造品同士のパーツ交換、「Franken」は正規品とのパーツ交換品を指します。
例えばこの写真のデイトナ。ベースはClean製の116500ですが、文字盤、針、風防、竜頭、チューブに加えムーブメントのパーツが複数正規品のものに交換されているFrankenです。
こうなってくると「複数正規品のパーツが使われた偽造品」なのか、「ジェネリックパーツ(代替部品)が多めに使われた本物」なのか、哲学的な問いすら必要になってきます。テセウスの船ならぬ、中華のロレックスです。どのパーツをどのように扱えば本物であり、偽物なのでしょうか。

もともと高級時計界隈では、特にヴィンテージを中心にリダンダイヤルであったり、ムーブメントの載せ替えであったり、修理ともカスタムとも呼べる行為が盛んに行われています。これらは正規品扱いされることは少ないですが、かといって偽造品扱いされているわけでもありません。Frankenの行為自体は似たようなものですが、本物と偽物の線引きとはどこにあるのでしょうか。現行品ならダメであるとか、色々な基準が生まれそうです。

Modsに関しては特筆すべき点はありません。「色んなパチモン組み合わせて俺だけの最高のパチモンを作ろうぜ!」といった感じで、それはそれで楽しそうです。

ShitterとRepsってどのくらい違うの

ShitterとRepsには大きな価格差とそれに見合う品質差があります。比較してみましょう。

左が謎オイパペ、右がEWFオイパペ。

手持ちのShitterとRepsで同じモデルであったものがこれしか無かったので今回はこれを比較します。ロレックス オイスターパーペチュアル 126000 ターコイズの36mmです。残念がら正規品は所有していません。正規品の定価は73万円ですが、現在の相場は3~400万円ほどで中古なら250万円ほどで購入できるようです。(41mmは中古でもなんと420万円!本当にオイパペなんでしょうか。36mmも定価ならギリ買えるんですが定価では出回っていないのが現状です。)
そして向かって左側が淘宝網で一本3200円で購入したオイパペ36mmで、2813搭載品のShitterです。向かって右側が中国より輸入したRepsであるEW工場製オイパペ36mmです。EWFのオイパペはRepsの中でも決して品質が良い方ではないのですが、購入した当時はこれしか選択肢がありませんでした。今はKR、JVS、GM工場製などによる904L&VR3230搭載の更に上位ランクのものが登場しているようです。

出来の違いはというと、写真だけでも明らかに違うのが見て取れます。文字盤の色はShitterのほうが明るく鮮やかに見えますが、正規品により近いのはEWFの方のようです。時計自体のサイズも、同じ36mmモデルのはずなのに異なります。測ったところ、左側の時計は34mmほどでした。文字盤の印刷の精度、フォントの違いなども見て取れます。また、写真では分かりづらいですがブレスレットを始めとするステンレスがShitterの方は本当にチャチな感じがします。

EWF製Repsの拡大写真。
Shitterの拡大写真。

改めて比較してみると、Shitterのほうが全体的にベゼルが太く、時計自体も太っちょに見えます。また、フォントの間違いが特に「SWISS MADE」で目立って見えます。

上がShitter、下がReps。刻印もShitterの方は妙に古風。

バックルの比較です。これも写真では分かりづらいのですが、Repsのほうが遥かに出来が良く各パーツがカッチリとハマっている印象で、装着していても不安感は少ないです。比べてShitterは隙間が多くガタガタして、かつ各パーツも安価さを醸し出しており、実際装着していても安っぽさを感じます。

上がShitter、下がReps。

リューズの刻印に関しても、Shitterはクラウンが不格好です。Repsはうまく再現できているように見えます。

反対向きから。今度は左がRepsで右がShitter。

反対向きから見ても、ROLEXの刻印の違いであったりクラウンマークの口の大きさであったり様々な点が違うことがわかります。正直言っても全く違う品です。

このターコイズオイパペ(巷ではティファニーオイパペと呼ばれています)の正規品は、以前所有している親戚に見せてもらったことがあります。ぶっちゃけて言えばRepsも、正規品の前では全く異なるわけでは無いにせよやはり質感などが全然異なるものであったことは付け加えておきます。その上で、やはりRepsとShitterでは天と地ほどの差があります。
いつか正規品が手に入れられたら比較対象として写真を追加したいのですが、まあ手に入れられないでしょう…

まとめ


品質差を如実に表した素晴らしい描き下ろしの絵。

:パチモノロレックスには区分できるほどの品質差がある
:日本で言われる区分方法はあまり当てにならない
:巷で出回っている「スーパーコピー」はスーパーコピーではない
:スーパーコピー自体は存在しているが、日本で入手するには若干ハードルが高い
:一般的なモデルはスーパーコピーの品質もそれなりに高い
:それなりに値段も高い
:全部が全部品質が良いコピー品があるわけではない
:同モデルのスーパーコピーの中にも品質差と個性がある
:コピー品はフリマアプリなどでそれなりに出回っている
:スーパーコピーといえど正規品には全然及ばない

本来は各工場の歴史・関係性やどういった工場があるのか、どの工場で何が作られているのか、どの工場が何を作るのが得意なのか、中国のムーブメントメーカーの歴史・関係性に、偽造品が歩んできた歴史や更に細かい部分、他ブランドのモデル等も組み合わせて説明しなければならないのですが、ここはひとつ一般人向けということでご容赦ください。

誤字脱字、内容の修正等は適宜修正していきます。

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